カテゴリー: バイオ・BCG・農業, スタートアップ
連載: 日系スタートアップ
公開日 2023.07.18
農林中央金庫などJAグループとタイのカシコン銀行が5月17日に開催した日本の食農スタートアップ企業によるピッチイベント、「AgriTech Bridge 2023」の参加企業紹介の第4回は、早稲田大学でのコオロギ研究から生まれたスタートアップ企業で、コオロギから抽出したタンパク質素材から食品や飼料を生産、販売している「ecologgie(エコロギー)」だ。同社の葦苅晟矢代表取締役CEOのプレゼンテーションを報告する。
エコロギーは、地球、そして社会にとってサステナブルな社会を作るために、未利用の生物資源であるコオロギを食料資源として活用するための研究開発を日本の大学で進めてきました。今カンボジアでコオロギを安定的に人間の食料資源、ペットフードの原料として量産する体制を作っています。
コオロギは、タイでも伝統的に食材として食べられてきました。なぜ、私たちはコオロギを新しいタンパク質(プロテイン)の素材として開発しているのか。それは、今タンパク質の価格がどんどん上がっているからです。タンパク質の原料に「ホエイプロテイン」がありますが、ホエイプロテインの価格はここ数年で高騰し、約2倍近くまで値段が上がっています。今後、世界の人口が増えていく中で、もっと安定的に調達が可能な新しいタンパク源を作って世界に提供していく必要があります。
そこで私たちが注目したのは昆虫という生物資源です。安定的なタンパク源の提供では、もちろん既存の家畜、牛肉生産も大事ですが、牛肉生産は一部サステナブルでない側面もあります。だからこそ、私たちは新しい選択肢をたくさん持っておく必要があり、その1つとして昆虫、コオロギという生物資源を開発しています。コオロギの新しい食料資源として有望なメリットを3つ紹介します。
1つは、とても栄養価が高いということです。私たちはコオロギの粉末を開発しておりますが、コオロギの粉末は、タンパク質を約65%含んでいます。
そして、2つ目はとてもサステナブルだということです。私たちのコオロギ生産は既存の食糧生産、既存のたんぱく質生産に比べても圧倒的に温室効果ガスの排出が少ない、とてもサステナブルでエコな食料資源となっています。
そして3つ目は、とても生産が簡単だということです。私はこのコオロギの研究を、今から7年ほど前の学生時代に始めました。最初は自分の自宅で虫かごを使ってコオロギを育てていました。最初は数十匹から始めましたが、3カ月後、半年後、気づいたら自宅で1000匹ほどのコオロギを生産していました。地球環境は危うく、守っていきたいと思っていましたが、自宅も危うくなるという経験をしました。この経験から、生産技術が簡単であれば、いつでもどこでも、そして誰にでもタンパク源を生産供給できるインフラをつくっていけると確信しました。
私たちは現在、カンボジアでコオロギを量産する体制を作っており、その取り組みを2つほど紹介させてください。
1つ目は、コオロギを生産する際に、カンボジアのフードロスを活用しています。写真にあるのはカンボジアで事業を展開している日本の食品会社の工場から出る不良品、捨ててしまうものを私たちが回収して、コオロギの餌として有効活用しています。コオロギは雑食性なので、いろいろなフードロスを食べてくれます。今日参加されている食品関係の会社の皆さんの中で、フードロスの有効活用を考えているようなら、私たちのコオロギに食べさせてみませんか。タイでそういった連携を模索しています。
そして2つ目は、カンボジアでコオロギを生産する時に、大きな工場で集約的に生産する方法ではなく、カンボジア現地の農家と一緒にコオロギを生産しています。私たちのコオロギの生産ノウハウを農家に教えて、農家が作ってくれたコオロギを買い取る。このような農協的な仕組みをカンボジアで作っています。カンボジアも農業大国ですが、コメ農家、キャッサバをつくっている農家がサイドビジネスとして、副業的にコオロギの生産をして、安定的な収入を得ることができます。
私たちは農家から買い取ったコオロギを主に粉末、パウダーにして加工しています。タイではコオロギを油で揚げてギトギトにして食べるケースが多いと思いますが、カンボジアも同じです。私たちはまさにそこを変えようと考え、具体的には栄養価が高いコオロギにもっと栄養価を吸収させるための吸収効率を上げる加工技術を開発しました。具体的には、コオロギのタンパク質を、熱処理をかけたり、酵素を使ってたりして分解します。そうすると、とても美味しく、栄養価、吸収率の良いパウダーができ、この技術でいろいろな食品を日本とカンボジアで開発しています。
例えば日本では、コオロギの粉末を使ったチョコレート、私たちの美味しいコオロギ粉末はビターなチョコレートに入れると、ビターさを和らげ、少しコクが出るような加工品になります。このような美味しいチョコレートや、プロテインドリンクの開発をしています。今日、この会場にもコオロギを使ったチョコレートとコオロギの粉末を活用したプロテインを持参していますので、是非、試食コーナーで一緒に味わって、感想を聞かせていただければ嬉しく思います。
私たちのコオロギの粉末は、タンパク質、鉄分、亜鉛を含んでいるので、女性の方の貧血を予防するようなアプローチもでき、東南アジア諸国連合(ASEAN)でこのコオロギを広げていきたいと思っています。私もカンボジアで生活していますが、女性の貧血はとても深刻な課題で、貧血を予防するためには自然由来のタンパク質から鉄分、亜鉛を摂取していくことが大事です。
さらに私たちはもっと栄養価の高いコオロギをつくる研究をする中で、糖尿病を予防するようなアプローチのコオロギも開発しています。東南アジアでもやはり甘いものや、おコメを沢山食べた場合、糖尿病は深刻な病気です。これを予防するためにコオロギを広めていく。そういった活動を是非タイでもやっていきたいと思っています。
マーケット戦略として、今日本でもじわじわとコオロギ食品の注目度が上がっていますが、どうしてもコオロギの形が残ったままだとエンタメ食品として認知されてしまいます。エンタメではなく、コオロギが持つサステナブルな側面、そして健康的な側面をきちんと説明して広めていきたいと思っています。タンパク質として、そして、自然由来の鉄分、亜鉛を豊富に含み、女性の方の貧血を予防するような食品として、また、糖尿病や肥満を予防するような新しい健康食品として、コオロギをタイなど東南アジアから、そしていろいろな国へ展開していきたいと考えています。そして、値段はこれからどんどん上がっていくホエイタンパク質の3分の1、キロ単価1000円代で提供していきたいと思っています。
そのために研究開発も続けています。具体的には2つの技術を持っており、1つは先ほど紹介した、コオロギのたんぱく質をより美味しく、そして吸収率をよくする加工技術です。もう1つは、コオロギに特化した独自のゲノム解析技術を活用してより効率的な生産、もっと栄養価の高いコオロギを生産していく研究もしています。また、コオロギは人間の健康食品だけでなく、ペットフードや養鶏飼料としての活用の可能性もあります。
私たちのチームは現在、日本人とカンボジア人のチームです。日本の大学とも研究開発をしており、カンボジアの食品会社とも連携しています。今日はサステナブルな健康原料に興味のある方、フードロスの有効活用を考えている皆様とタイから一緒に、生物資源を活用した事業で連携できることを希望しています。東南アジア諸国連合(ASEAN)から、未利用の生物資源を活用して、サステナブルで、そして健康に良い食料生産を実現していきたいと思っており、是非応援よろしくお願いします。
TJRI編集部
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