日本の食農スタートアップ紹介② 『Sagri』衛星データとAIを活用した土壌分析サービスを提供 ~AgriTech Bridge 2023より~

日本の食農スタートアップ紹介② 『Sagri』衛星データとAIを活用した土壌分析サービスを提供 ~AgriTech Bridge 2023より~

公開日 2023.07.04

農林中央金庫などJAグループとタイのカシコン銀行が5月17日に開催した日本の食農スタートアップ企業によるピッチイベント、「AgriTech Bridge 2023」の参加企業を紹介する第2回は、衛星データと人工知能(AI)を活用した土壌分析サービスを提供する「Sagri」だ。同社の坪井俊輔代表取締役・CEOのプレゼンテーションを報告する。

衛星データ公開で安価な情報提供可能に

当社は「衛星データ」「AI」「農地の区画」の3つの技術を掛け合わせて事業を行っています。現在、食料危機は非常に深刻な課題です。世界人口が80億人を超え、2050年には100億人を超えてくる。さらに気候変動もあり、人類が直面する課題にどう向き合っていくか。われわれは技術が進歩している人工衛星データとAIを活用すればこの2つの課題を解決できると考えています。

人工衛星データは宇宙から地球を観測するビックデータで、世界中のさまざまな地域のデータを広域に撮影されたデータとして取得することができます。時間の変化、過去から現在に至るまでの変化の情報も捉えることもできます。欧州の政府が2016年ごろから、これまで研究や教育で使っていたデータを商用で使えるように公開し始めました。中には、無償で使えるデータもあり、原価が非常に安い解析情報を農家さんに届けることができるようになりました。

土壌分析は時間とコストかかる

世界の農家戸数は、世界人口80億人の3分の1である26億人程度です。これらの農家が抱えている課題の1つは農地が分散していることで、まとまっていない農地1つ1つを管理するのは非常に大変です。そして、ロシア・ウクライナ戦争などによりサプライチェーンが滞る中で、肥料価格が年々上昇しています。その肥料を削減するためには土壌分析が必要です。

土壌分析は時間が掛かり、その分コストも掛かるという課題があります。土壌分析は現在、現場で土を採取し、化学性の試薬を使って解析をしていくわけですが、土を乾燥させた後にふるいにかけるなどの作業があるほか、欲しい時に解析情報が出て来ないこともあり、多くの農地で土壌分析ができていないのが現実です。結果として、農地に投入する最適な肥料は何か、どれだけ投入量を削減できるかが分からないこともあります。

農地を自動で区画化、土壌解析

われわれは、衛星データから土壌分析ができる技術を持っています。農家が簡単に使うことができるアプリケーションで、どこでも解析ができます。農地をワンタッチで登録することができ、その農地の解析が始まります。文字が読めない農家でもその農地の生育状況と土壌分析を色で可視化し、色の濃淡から現在の状況を認識できるようになっています。pH(水素イオン指数、ペーハー)や炭素量、窒素量などを推定できます。

コア技術は2つです。1つは、ベースとなる区画情報を世界中どの場所でも整理することができ、その上に衛星で解析した情報をのせて提供します。農地の区画化はAIの「セグメンテーション」と呼ばれる技術を用いて行います。AIが高解像度の衛星情報から農地の場所を検出し、自動で区画化してくれます。従来、人の手で書かれていたものをわれわれはAIで格安、瞬時に情報として届けることができます。この特許を権利化しています。

当社のCTOである岐阜大学准教授の田中たかしが、衛星による土壌分析を可能としました。有機であれば「地力(ソイルパワー)」等を解析し、野菜を育てる場合はpH等を見ます。高い精度の分析が可能で、現在ではその精度は85%程度まで上がっています。

農協や金融機関に情報提供

Sagriは海外でもサービス展開をしており、日本の農協のような農家を束ねる組織にこうした情報を提供していきます。また、銀行など金融機関にも信用情報として提供している事例もあります。組合員の農家が何万人もいて正確な情報が把握できていない農協がたくさんあります。われわれはこうした農協をデジタルでサポートし、それぞれの農地を誰が所有していて、どのような作物を育てているのかを衛星から確認します。そして各種情報も提供し、簡単に営農管理、営農指導ができるようになります。

タイでも農家向けのマイクロファイナンスが多いと認識していますが、その信用情報をしっかり集積していくことは非常に難しい。これまで銀行は現場に行って現在状況等を確認する。われわれは衛星から農地の面積、作物の情報、いつ収穫が終わるかといった情報を解析することができるので、その農地のポテンシャル、その農地から毎年どのぐらいの収量があり、収益になるのかを予測できるようになります。

そしてこの農家にはお金を貸しても大丈夫だといった計算もできます。地上でのアプリケーションから農家の個人情報を取得しながら衛星データと掛け合わせて与信情報として提供していきます。主にインドの農家で活用がされていて、農協がしっかり営農管理ができ、顧客の満足度も上がっていると非常に好評です。

カーボンクレジット発行も準備

さらに、この技術は脱炭素、カーボンニュートラルにも貢献していくことができます。土壌分析を行うことで、農家は肥料の使用量を削減でき、有機農業に置き換えていけます。温室効果ガスの一つである「N20(一酸化二窒素)」を削減することも可能です。われわれはすでにタイでは、カーボンクレジットの発行を準備しています。実際の農業現場で農地の土壌分析をしながらアメリカの「Verra」という国際認証機関のカーボンクレジット認証の取得を行い、これが農家の新たな収入になっていきます。

われわれのビジネスモデルは、農協のような組織と連携しながら、農家に適切な営農情報を届け、そして銀行に対し農家に融資を行う際に必要な与信情報を提供していく。さらに、ここで発行されたカーボンクレジットを排出削減する必要のある企業に売っていくというビジネスです。

「Planet」や「AIRBUS」のように、衛星データを提供している会社も解析サービスをしていますが、有償な衛星がメインなので非常に高額になってしまいます。また「Cropin」や「Crop Scope」のように、衛星データ解析の専門ソリューションを持っている会社もありますが、われわれは現場に根差しながら、農家が簡単に分かりやすく使えるサービスを実現しています。使いやすく、そして安いというポジショニングでサービスを展開しています。

食料危機を救う1つの鍵に

世界では520億トンのCO2が排出されており、これを2050年まで削減する場合、1トン当たり1000円で換算すると、年間約50兆円にも達し、カーボンクレジット市場は非常に大きくなります。農業分野というのはその約1割ですから、600億ドル程度の市場を狙っていけます。温室効果ガスのモニタリングに関しては、当社は非常に評価していただいています。これをグローバルに広げていく。モニタリングは現在日本やシンガポールなどで解析をしていくことが可能です。

タイでは政府のデジタル地図の取り組みが非常に進んでいます。日本の農水省でも、「eMAFF」というデジタル地図を作っていて、農家の管理やデジタル地図化が多くの地域で行われていますが、タイ農業・協同組合省(MOAC)の実証事業を通じて、「AI Polygon」や土壌分析のデータの提供を開始しています。

われわれはスタートアップ企業ですので、成長のためにソフトバンクから資金を調達しています。タイは非常に重要な国と認識しており、資金調達でタイに進出した際には連携できればと思っています。 衛星データやAIの技術で世界中の農地の解析を行い、農地の管理、土壌分析などをアップデートしていく。それが食料危機を救うための1つの鍵になっていくと思いますし、2050年のカーボンニュートラル達成の1つの手段に衛星データ技術が入っていくと確信しています。われわれのグローバルチームは、私自身は工学的な視点で、そして農学、グローバルのビジネスメンバーで構成されております。興味をもって頂けましたら是非ご連絡ください。

TJRI編集部

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