カテゴリー: バイオ・BCG・農業, スタートアップ
連載: 日系スタートアップ
公開日 2023.08.02
農林中央金庫などJAグループとタイのカシコン銀行が5月17日に開催した日本の食農スタートアップ企業によるピッチイベント、「AgriTech Bridge 2023」の参加企業紹介の第6回は、ヘミセルロースを原料とした土壌および海洋生分解性を持つ環境に優しいバイオプラスチックを世界で初めて開発した「Hemicellulose(ヘミセルロース)」だ。同社の茄子川仁社長のプレゼンテーションを報告する。
当社は糖類である「ヘミセルロース」という成分を活かしたバイオプラスチック「HEMIX」を開発しています。特に土や海の中の微生物に反応して、生分解性がある、溶けていく性質を持った素材です。川崎で研究開発と製造を行っています。
ヘミセルロースは、樹木や植物の約20%~30%を占めている多糖類の非結晶成分になります。一般的にはセルロースが非常に有名で、セルロースからさまざまな材料や、食品や医薬品等もつくられているのですが、このヘミセルロースに関してはほとんど有効活用されていないということがわれわれの出発点です。
もう一つ、リグニンという燃料に使われる成分も今注目されており、世界的にもセルロースとリグニンについては、研究や製品化が進んでいますが、ヘミセルロースだけは取り残されてしまっています。その主な理由は、植物・樹木の大きな用途である紙やパルプを製造する工程で、セルロースやリグニンは抽出されて使われますが、年間世界で5億~10億トン発生しているヘミセルロースに関しては、ほぼすべてが燃やされており、世界最大の未活用資源だと考えています。
実はタイでも、農業・協同組合省のバイオプラスチック研究所の皆さんと意見交換をしたことがあり、ヘミセルロースに関してはタイでも日本と同様に未活用になっているという実態を知りました。今まで誰も活用していなかったヘミセルロースの使い道としてバイオプラスチックを考え、「抽出」、「化学処理」、「ペレット化」、「製品化するための成形」という4つの工程を経て日本で製造しています。
世界でも石油由来のものから大きく転換しようという流れがあり、バイオプラスチックは急成長しています。世界での成長率は60%超ですが、下記のグラフにある通り石油由来のものとミックスされたものが半分以上を占めています。天然物だけでつくられたバイオプラスチックも半分くらいあります。その中でも特に、セルロースやヘミセルロースという樹木や植物から取られる「天然糖類」を原料とするものは1%程度しか製造されていないという実態があります。私たちは、ヘミセルロースをバイオプラスチック化することによって、セルロースを含めて全体の10%を占めるような規模に持っていくことを目指して活動しています。
もう一つわれわれが問題視しているのは、バイオプラスチックをそもそも何からつくるのかという点です。サトウキビやトウモロコシは、タイでも非常に大量に収穫されていますが、肥料を使って栽培しているこれらの食用作物をバイオプラスチックの原料に使うべきなのかという問題意識があります。
一方で、農業・林業・水産業、それぞれで現場には有効活用される素材がありますが、有効活用されないまま廃棄されたり、燃やされたりする実態もあります。この3つの分野から抽出できるヘミセルロースを中心に、原料化、プラスチック化し、それによって素材の全てを使い切ることを目指しています。
われわれはさまざまなパターンのバイオプラスチックを研究開発しています。石油由来のものと組み合わせたものもあり、バイオプラスチック同士でミックスして100%生分解性がある素材も作っています。これは、単純に天然の素材を組み合わせているということではなくて、それら性質をデータ化し、それぞれの性質を考慮した組み合わせ方、化学処理、合成をミックスして行っています。石油由来のものを一切使わず、天然物だけでの合成にも挑戦しています。
メリットとして、二酸化炭素(CO2)を大幅に減らせることもあります。特に捨てられている植物を使うことによって、石油由来に比べてCO2を80%減らすことができます。また、生分解性では、大気中のバクテリアに反応した分解速度が世界で一番速いと考えており、今、廃棄されているセルロースの倍くらいのスピードで分解できるということが分かりました。他のバイオプラスチックと比べても、海洋中の生分解性の高さは特筆できます。もう一つ、材料としての機能性では、生産性が高い、溶けやすさが非常に早いということで「サイクルタイムが早められる」ということもあります。さらに、バイオプラスチックでは非常に難しい「透明化」も各種技術を組み合わせることによって実現できます。
サプライチェーンとしては、われわれが研究開発(R&D)から製造まで行い、その「レシピ」を開発していくのですが、完成したものについては、そのレシピを開放し、いろいろなメーカーに製造の一部を依頼しています。実はタイ南部の企業とも協業し、バイオプラスチックの一部を製造していただいています。
製品としては、「プラモデル」などを完成していますが、薄くしてフィルムやシートも製品化できるようになりました。ペットボトルにも挑戦しており、PET材料とヘミセルロースのミックスで、膨らんでも割れないボトルも完成しています。
そして、最難関ではありますが、「糸を作り、生地を作り、布を作り、洋服にしていく」、あるいは不織布から生理用品、マスクなども作れます。100%天然素材から海で溶ける糸も開発しています。
ヘミセルロースが利用されていない、ということは実は世界各国でも共通の状況です。国連気候変動枠組み条約の第26回と第27回の締約国会議(COP26、27)でも日本の一員として参加させていただいたのですが、まったく使われていないことが分かりました。ドイツのプラスチック展示会「K2022」にも出展してわれわれの商品をPRしているのですが、非常にユニークであると関心を頂いています。
当社のアプリケーションとして、廃棄植物・廃棄農産物を使おうというコンセプトの中で、ビールメーカーさんから供給される「大麦のカス」からジョッキや化粧品の容器を作っています。杉の木をつかったコップや、食べられない部分の青いバナナを原料としたフィルムの開発も行っています。豆腐のおからや非加食部分からも豆腐のコンテナ容器を作っているほか、倒木を素材としたトレーを作るなど、さまざまな活動をしています。海藻から樹脂の素材を採取したり、貝殻も原料に使用しています。
さらに、被覆肥料と呼ばれるプラスチックコーティングされた溶けにくい肥料では、生分解性が求められているということも皆様から教えて頂いて開発しています。この肥料を撒布してから100日で分解できるように、土の中にも、また海にもしっかり溶け込めるような生分解性の高い肥料です。これらの製品の開発、活用もご検討いただければと思います。
TJRI編集部
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