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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.10.10
タイのホテル運営・不動産開発大手デュシット・インターナショナルは今年6月と9月に、ユニークなライフスタイルホテルである「ASAI京都四条」と旗艦ブランドの高級ホテル「デュシタニ京都」を相次いでオープンさせ、日本への本格進出を果たした。今回、デュシット創業家の3代目で、ホテル事業開発担当副社長兼ASAIホテル社長のシラデジ・ドナバニック氏に、デュシット社の歴史や、タイの「デュシタニ・バンコク」の全面改築・再開発、新ライフスタイルホテルブランド「ASAI」の狙いなどについて話を聞いた。
(インタビューは8月16日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
シラデジ氏:当社は1948年に、私の祖母であるタンプイン・チャナット・ピヤウイ女史がタイのホスピタリティーの本質をホテル会社に取り入れるというビジョンを掲げて創業した。彼女は留学先のアメリカをはじめ、世界中を旅する機会があり、ニューヨークなどの大都市にある素晴らしいホテルを見たことをきっかけに、帰国後、ホテル事業の経験がないにもかかわらず、タイで初めてとなる国際的なホテルを作りたいと考えた。最初のホテルは、バンコク・チャルンクルン通りにあった「プリンセス・ホテル」だった。
そして、1970年に旗艦ホテルとなる「デュシタニ・バンコク」を開業した。このホテルは、日本人の建築家が設計、日本の建設会社が施工した。その後、チェンマイやホアヒン、プーケットなどのタイ国内の主要観光地と、フィリピンやインドネシアなどの海外市場でもホテルを展開してきた。また、父のチャニン・ドナバニックがCEOになった後、中国やモルディブなどのアジア各地、中東、アフリカまで進出し、事業をさらに拡大した。そして今年は、4月に当社としては欧州初のホテルとなる「デュシット・スイーツ・アテネ」をオープンしたのに続き、「デュシタニ京都」と「ASAI京都四条」の開業にこぎつけた。
シラデジ氏:人材が当社のコアバリューだ。祖母は「ホテル業界では人材が第一」という信念のもと、1993年にタイ初のホスピタリティー教育機関となる「デュシタニ・カレッジ」を開校し、次世代の人材教育とトレーニングに力を入れた。
シラデジ氏:小売り大手セントラル百貨店グループと合弁で大型複合施設「デュシット・セントラルパーク」を開発するために2019年にデュシタニ・バンコクを閉館した際には、当時いた約300人のスタッフを誰も解雇しなかった。そのため当時、デュシタニ・バンコクの近くにあった歴史的な建物を改装した独立型レストラン「バーン・デュシタニ」を開業するなど、バンコク市内の他のエリアのプロジェクトに投資をした。また、新型コロナウィルス流行のときに、どうすればスタッフの雇用を維持し、事業に活かすことができるかを考え、新規事業の立ち上げを強化した。その一つが食品関連事業の「デュシット・フード」だ。
デュシタニ・バンコクを閉館する前の2~3カ月間、イベントやパーティーを多く開催し、このホテルで結婚式を挙げた人など、長年ご愛顧いただいてきたお客様を招待した。お客様以外で、最も重要なステークホルダーはスタッフだ。長年、デュシタニ・バンコクで働いてきたのに、自分が宿泊したことがなかったので、最終営業日には彼らにホテルに泊まってもらった。
シラデジ氏:「デュシット・セントラルパーク」は当社とセントラル・パタナ(CPN)の合弁事業で、レジデンス、ホテル、店舗、オフィスなど大規模な複合施設開発プロジェクトだ。各コミュニティーを統合し、周辺の土地の付加価値を高めることが重要だと考えており、コミュニティー主導の施設やイニシアチブを数多く取り入れている。例えば、独自の生態系を再現している屋上公園は、専門家の協力を得て、隣接するルンピニ公園とつながっているように見えるデザインとし、地下の連絡通路で公園に直接行けるようにする計画だ。
シラデジ氏:現在、ミレニアル世代の旅行者は「エクスペリエンス・エコノミー(Experience Economy)」と呼ばれる体験を求める旅行を好むようになっている。部屋の広さではなく、地元のグルメなどのローカル体験を重視しているため、ホテルは地元を探検するプラットフォームになるべきだろう。そのため、滞在中の必需品をすべて備えた中規模のライフスタイルホテル「ASAI(アサイ=地元の人と共に生きる)」が誕生した。デュシットはラグジュアリーホテルの運営経験は豊富だが、中規模ホテルの運営は初めてになる。
シラデジ氏:ホテルを近隣地域に溶け込ませることを目指している。レストランでは、地元のシェフと協力して地元の食材を使用したり、郷土料理を提供したりしている。持続可能性も重視しており、レストランの食材はすべてオーガニックで、農家から直接仕入れている。また、ASAIでは使い捨てのプラスチックは使用せず、ペットボトルの代わりに何度も使用可能な飲料水用のボトルが用意されている。
スタッフのトレーニングにも力を入れている。ホテルをオープンする前に、「ASAI Local Day」と呼ばれる特別な日を設定し、スタッフがホテル周辺のお寺やレストラン、ギャラリーなどを巡り、地元の人々と話をする機会を作るような活動を行う。スタッフにはブランドアンバサダーではなく、その街のアンバサダーになってほしいと思っている。そして、地元の観光情報はホテル公式サイト上で公開されている。
シラデジ氏:実はデュシットは、今回、京都に進出する前の2019年に高級ヴィラを運営する子会社の「エリート・ヘブンズ」を通してニセコで富裕層向けヴィラを開業している。
日本は魅力的なマーケットで、ずっと前から本格的に進出したいと考えていた。京都は独自の文化があり、素晴らしい価値と歴史に溢れており、とてもユニークな場所だ。初めて日本を訪れる人も、何回も日本を訪れている人も京都に魅了されている。また、関西の中心にあり、大阪から電車で30分、新幹線では10分ほどとアクセスが容易で、奈良や神戸にも近い。
シラデジ氏:日本には独自の文化や商慣行、手法があるため、現地のパートナーが必要だ。同じビジョンを持ち、われわれのブランドと能力を信じてくれるパートナーを見つけることが本当に大事だ。ASAI京都四条では伊藤忠商事と西松建設、デュシタニ京都では安田不動産と提携した。
シラデジ氏:ホスピタリティーは日本人とタイ人双方の共通点だ。食品分野では、日本には独自性があり、世界にアピールしたいと考えている。タイにもタイ人が誇りに思っている食文化がある。両国で「食」は重要な役割を果たしている。タイ人が日本に行く主な理由の一つは「食べる」ことだ。さらに、タイ政府観光庁(TAT)も過去数年間の調査で、20年前はバンコクを訪れる人の大部分が文化・観光とショッピングを目的としていたが、最近は「食べる」ことも目的になっていると報告している。これはタイと日本の共通点だ。
一方、タイは30年以上前から観光産業を推進しており、ホスピタリティーマーケットとしては長い歴史がある。一方、日本が本格的に観光業を推進するようになったのは安倍晋三元首相のころからで、インバウンド観光の歴史はまだタイより浅い。日本は空港や鉄道などのインフラが整備されているため、観光に関して可能性はまだまだ大きい。さらに、自然や季節性も強みで、冬は北海道にスキーに行くこともでき、夏は沖縄に泳ぎに行くこともできる。
シラデジ氏:日本全国に展開する戦略を考えている。まずは東京や大阪、福岡、札幌などの日本のゲートウェイとなる都市で展開していきたい。現在は、沖縄でのプロジェクトも検討している。
主要都市だけでなく、知名度の低い都市も将来的な可能性があるだろうが、プロモーション活動が必要だ。初めて日本を訪れる人は東京や大阪、京都などの主要都市、定番の観光地に行くことが多いが、何度も日本を訪れている人は、山形県のような地方の観光地を旅行することも望んでいる。私自身も今年、和歌山県を訪問した。関西空港からなら、京都や大阪よりも近く、美しい町や村があり、おいしい食べ物も楽しめる場所だと分かった。これらの知名度の低い都市に必要なのは、マーケティングとプロモーションだ。
シラデジ氏:デュシットが現在、営業中のホテルは約55軒で、今後も年平均10~12軒の新規開業する計画だ。現時点で確定しているプロジェクトは約60件だ。
欧米諸国も現在はアジアのホスピタリティーを歓迎するようになっている。20年前は欧米のホテルのアジア進出が中心だったが、今はアジアのホテルも欧米に進出していく時代だ。当社も欧州にホテルをオープンしたが、さらに3〜4カ国に進出し、タイのホスピタリティーを海外に広めたいと考えている。今後は東南アジアだけでなく、新たな地域に進出し、独自のホスピタリティーの提供に取り組んでいく。
シラデジ氏:タイのホテルブランドの海外進出は、タイの文化が、世界のどこにでも展開できる独自の価値を持っていることの証だ。6月にはタイのホテルチェーンでは日本初進出となるASAI京都四条がオープンし、7月には「センタラグランドホテル大阪」、9月にはデュシタニ京都の営業も始まった。これらによりタイのホテルブランドが日本でも認知されることになり、とても良い結果をもたらすだろう。
(ホテル施設写真提供:Dusit International)
TJRI編集部
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