カテゴリー: バイオ・BCG・農業, スタートアップ
連載: 日系スタートアップ
公開日 2023.08.08
農林中央金庫などJAグループとタイのカシコン銀行が5月17日に開催した日本の食農スタートアップ企業によるピッチイベント、「AgriTech Bridge 2023」の参加企業紹介の第7回は、農家に先端バイオ技術やビッグデータ分析を活用した総合ソリューションサービスを提供する「AGRI SMILE(アグリスマイル)」だ。
(プレゼンターは森田曜光経営戦略担当)
弊社は2018年8月31日設立で、まだ5年目です。代表取締役CEOの中道貴也が大学院の時から研究していた「Biostimulants(バイオスティミュラント)」を事業化し、米フォーブス誌の「アジアを変える30歳以下の30人」に選ばれました。
われわれの企業哲学は、「Make AGRI-SMILE」で、テクノロジーによって産地と共に農業の未来をつくる活動を通じて、農業関係者にスマイルをもたらしたいというものです。われわれが言うテクノロジーには、ITとサイエンス(科学技術)の2つがあります。
われわれの会社にはエンジニアやデータサイエンティストなどIT技術者寄りのスタッフや、博士号(PhD)を持っている研究者も多数いて、しっかりとした科学研究所を持ち、農家の悩みを解決できる体制を強化してきました。われわれはある種、農業サービスの総合デパートのような会社です。
1つの強みとして紹介したいのが、日本の全国にある農業協同組合(JA)や農業法人の現場に足を運び、お話をさせていただいて、農業資材の開発、共同試験などを行い、農業の課題の解決をしていく中で非常に強いネットワークができました。そして、サイエンスラボとしての側面もあり、いろいろな大学との共同研究もしています。
事業は大きく3つに分けられます。1つは、カルティベーション(耕作)サポートで、データの活用、解析を通じて「こうしたほうが良いのではないか」という提案をし、農家の栽培技術の向上のサポートをしています。また、研究開発(R&D)では新しいバイオ資材を作って、品質や収量を向上させ、収穫した作物を販売、Eコマースの立ち上げもさせていただきながらご支援しています。
今日は次の2つの事業にフォーカスしたいと思います。1つは、化学肥料が高騰している中で、データに基づいて過剰に肥料を与えていないかを分析する「ビックデータアナリシス」です。2つ目が気候変動や異常気象が起きている中で、高温障害に強い作物を育てることができるバイオスティミュラントです。
バイオスティミュラントは欧州やアメリカでは普及が始まっています。農作物が根を張った後、生物的なストレス・非生物的なストレスの2つの要因によって結果的に収穫物が減ってしまいます。生物的なストレスは虫で、農薬で殺せばよいのですが、非生物的ストレスをどう緩和するかで開発されたのがバイオスティミュラントです。
非生物的ストレスは高温とか塩害、乾燥などで、これらに強い作物を育てるのがバイオスティミュラントです。結果として、品質を向上し、収量を増やし、化学肥料を使う量を減らすことが可能な技術です。
弊社代表は大学院時代からバイオスティミュラントの研究をしており、日本国内では特許取得技術があります。特に「エバリュエーションインデックス」は、欧州ではいろいろあるのですが、試験してみると効果はあまりなかったといったクレームも聞かれています。そこで、われわれ独自のエバリュエーションインデックスを作りました。元素やDNAの解析をきちんと行った上で、これだったら絶対効果があると分かったら商品化し、そうした商材を評価していく企業です。
バイオスティミュラントの原料でわれわれが注目しているのは食品残渣です。例えば赤パプリカで形が悪いとか傷があるとかで結果的に捨てられてしまうものをバイオスティミュラントの優良な原料にできることが分かりました。また、長ネギも皮や茎が残渣として出てしまう。これを燃やして処理している現状があり、バイオスティミュラントの資材に出来るのであれば、コストをかけて捨てていたものをマネタイズできる夢のようなビジネスモデルではないかということで研究を進めています。
われわれはバイオスティミュラントを食品残渣から作った上で、化学肥料を減らしながら、品質を向上させ、収量も確保できるという栽培支援をさせていただいています。結果として、収穫をしてその過程で出てくる食物残渣をまたわれわれが買い取って、またバイオスティミュラントを作るという循環型農業の確立に取り組んでいます。
最近、日本の埼玉県深谷市と連携協定を結びました。深谷市では長ネギの皮等の残渣の処理が課題となっており、AGRI SMILEがこれをバイオスティミュラント化することができないか研究することとなりました。深谷市に限らず、日本各地のJAなどから「この食物ではできないか」など、いろいろご相談をいただいているところです。
タイでは、キャッサバやサトウキビ、バナナ、マンゴーなどバイオスティミュラントにできるのではないかという声がわれわれの研究開発担当者から上がってきています。食品残渣を買い取ってプラントをつくって、バイオスティミュラントとして地域に還元するといったモデルケースを作りたいと考えています。
われわれは脱炭素にも取り組んでいます。土壌に貯留できる炭素の量が増えるという研究結果も得られています。バイオスティミュラント自体が有機物由来のものなので、土壌に入り込み、土壌の微生物の変化等によって炭素貯留量が増えるようで、測定した上でカーボンクレジットに結びつけたいと考えています。
もう1つが、ビッグデータアナリシスです。農作物では品質データがあり、栽培過程で「いつ」、「どれくらい」の農薬・肥料を使ったかというデータや、土壌中の栄養、気候データを集積しているケースもあります。こうしたデータを全部つなげて解析すると非常に多くのことが分かります。弊社の農学研究のスタッフがしっかり携わった上でデータ解析を行い、どのぐらい肥料を削減できるのかを検証しています。
ビッグデータアナリシスのアウトプットリポートとしては、われわれの農学研究のスタッフがアセスメントリポートという形でインプリケーションまで含めてリポートとして作成しています。日本の場合、1つのJAにいろいろな農家がいるので、1000ページ程度になってしまう場合もあるのですが、これを見れば、これまでどういう作物を作ってきて、どれくらい肥料を使ってきたか、どのランキングにいるかなどすべてが分かるようになっています。
われわれは選果機メーカーとタイアップしており、タイでデータアナリシスをさせていただけるような農家、企業がいらっしゃれば一緒に連携させて頂ければと思っています。
TJRI編集部
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