【連載】カシコン銀行経済レポート 2016年5月号

【連載】カシコン銀行経済レポート 2016年5月号

公開日 2016.06.30

タイ経済・月間レポート(2016年5月号)

2016年3月のタイ経済情報

タイ中央銀行が発表した2016年3月の重要な経済指標によると、国内経済が前月より安定したにもかかわらず、景気回復が遅れていると見られます。観光業と公共支出が引き続きタイ経済をけん引する要因となりました。 一方で、民間消費は耐久財への支出がやや拡大したものの、干ばつに伴う農家所得の減少などが消費者の購買力を引き下げました。 輸出は金を除くと引き続きマイナスで、主要取引先の経済減速などが響きました。

タイ経済活動の回復は依然として弱含み

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3月の民間消費は前年同月比2.1%の上昇で、前月から伸びが0.5ポイント鈍化しました。 耐久財への支出がやや拡大しました。耐久財は同7.7%下落したものの、乗用ピックアップトラック(PPV)や大型バイクの販売が伸び、マイナス幅が前月の同11.5%から縮小しました。対照的に非耐久財はプラス幅が同5.0%から同1.3%に縮小しました。特に、農家の購買力低下が影響しました。

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一方で、民間投資は前年同月比1.6%上昇しました。前月の伸び率を0.5ポイント上回りましたが、新規の企業向け融資は減少しました。建設セクターへの投資に明らかな回復傾向が見られました。セメント販売量が前年同月比3.4%増加し、建設投資が改善したことを示しました。さらに、資本財の輸入は同6.5%増加し ました。
3月の輸出は、前年同月比1.0%減の185億7000万米 ドルとなり、前月の同6.2%増からマイナス成長に転じました。 金を除くと引き続き収縮しました。
品目別に見ると、自動車・部品が前年同月比1.8%減、機械・部品が同6.3%増、電子機器が3.2%減、農産物が同7.7%減、農産加工品が同2.3%増となりました。アセアンおよびオーストラリアへの輸出はそれぞれ同6.5%と5.2%増加しました。しかし、米国、ユーロ圏、中国、日本への輸出は、相手国の経済減速により減少しました。

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商務省が発表した2016年4月の貿易統計によると、タイの輸出額(約155億)は前年同月比8.0%減となり、3ヵ月ぶりにマイナス成長となりました。年初から全体を押し上げていた金の輸出額の伸び率が3月の前年同月比262.5%増から同13.7%増となり、上昇幅が大きく縮小したことが一因です。
品目別に見ると、4月の工業製品の輸出額は、同7.8%減となりました。自動車・部品の輸出額 が同9.7%減となったことが響きました。特にピックアップトラック、バス、及びトラックの輸出額が同54.2%減となりました。コンピュータ・部品の輸出額は、同9.7%減でした。一方で、農産物・加工品は、前年同月比2.8%減少しました。天然ゴムは同10.5%増と好調だったものの、コメとキャッサバが2桁減となったことが響きました。 2016年3月の工業生産に関しては、前年同月比1.8%の上昇で、前月の同1.7%減から プラス成長に転じました。
品目別に見ると、化学が同12.9%、家電が同10.9%と2桁伸びたほか、国内外のPPV需要の拡大で車両が前月の同4.2%減から同7.3%増に回復しました。一方で、外需の低迷で繊維・衣料とハードディスク駆動装置(HDD) はともに2桁落ち込みました。 サービス・セクターは、特に、観光業の成長が引続き加速しました。外国人旅行者数は前年同月 比15.4%増の295万人と好調拡大を維持しました。特に、中国、マレーシア、日本やロシアなどからの外国人旅行者が引続き増加していました。また、観光客からの収益は前年同月比20.9%増の1491億ドルとなりま した。

2016年4月のタイのインフレ率

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商務省が発表した4月のヘッドライン・インフレ率は、3月の前年同月比0.46%減から同0.07%増となり、16ヵ月ぶりに上昇に転じました。干ばつによる食品価格の上昇に加え、石油関連製品の下落幅が縮小したことが背景にあります。
品目別にみると、食品・飲料部門では、前年同月比1.57%の上昇で、昨年11月以降で最も高い伸びを記録しました。米・粉製品を除き軒並み上昇しており、特に果物・野菜が同5.29%と高騰しました。
非食品部門は同0.76%の下落となり、17ヵ月連続の下落となったものの、マイナス幅は縮小しました。 一方で、振れ幅の大きい生鮮食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、前年同月比0.78%の上昇で、前月から伸びが加速しました。

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2016年5月のタイバーツの為替レート

バーツ相場の変動については、 2016年5月25日には1米ドル=35.69バーツの終値を つけ、2016年4月18日の1米ドル=34.96バーツからドル高傾向へ転換しました。その原因は、米サンフランシスコ(SF)地区連銀のウィリアムズ総裁が、米経済の見通しについて「疑いなく明るい」とし、「米連邦準備理事会(FRB)は緩やかな利上げを続ける」との考えを示したことで、 ドルを買う動きが強まりました。

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一方、バーツ対円の変動につい て、2016年5月25日には100円=32.44バーツの終値 をつけ、2016年4月18日の100円=32.12から小幅な円高傾向が継続しました。その 原因は、世界経済の回復が遅れた為、投資家がリスク回避の姿勢をとり、円を買う動きが強まったためです。

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屋上太陽光発電の試験的自由化

太陽光発電は、政府部門が2015〜2036年電力開発計画(PDP2015)および代替エネルギー開発計画のもとで奨励する代替エネルギーの獲得手段の1つです。これまでにも政府 部門は、主に送電システムへの供給に向けた売電を目的とする太陽光発電の奨励に力を入れてきました。それに加え、最近タイ政府は、屋上太陽光発電を自由化する方針を打ち出しました。エネルギー監査委員会は、合計100メガワットの容量で屋上太陽光事業を自由化することを決定し、試験的に首都電力公団(MEA)の管轄地域内で50メガワット、地方電力公団(PEA)の管轄域内で50メガワットの太陽パネルの設置を進めます。
50メガワットの内訳は、住宅の屋根が10メガワット、事業用建物の屋上が40メガワットに設定されました。家庭・事業所の自家発電を主目的とし、システムへの供給を目的とした売電は行なわれません。こうした方針が打ち出された結果、屋上太陽光発電の存在感が増し、市場が拡大すると見込まれます。
カシコンリサーチセンターは、 屋上太陽光発電の自由化が代替エネルギー業界の成長に向けたさらなる一歩になるとともに、民間部門を発電活動に参加させる後押しにもなると考えています。当面はシステムへの供給を目的とした売電は許可されないものの、民間部門の電力料金関連の支出負担の一部削減または緩和に寄与するほか、定められた目標の達 成に向けた代替エネルギーの使用を促進する効果があります。さらには、エネルギー分野のリスク分散にも寄与します。
しかしながら、どのようにすれば、この方針に対する国民の反応を引き出せるかという課題があります。これに関係してカシコンリサーチセンターは、自宅の屋根に太陽パネルを設置するという消費者の決断に影響を及ぼす重大な要因は、設置に要する費用と投資回収期間という条件的要素だと見ます。現在、太陽パネル設置費用は、過去と比較すれば徐 々に低下してきているものの、依然としてかなりの高水準にとどまっていることが分かります。投資回収期間も、10年以上かかることが明らかになっています。
カシコンリサーチセンターは、家計と企業向けの屋上太陽光発電の投資採算性と投資回収期間を見積もりました。その結果、以下のような興味深い概要を得ることができました。

家計:出力3キロワットの太陽パネルを設置する場合、設置に要する費用は約21万バーツで、投資回収期間は12.8年になります。電力料金は年間1万6329バ ーツ節約できます。
企業:出力40キロワットの太陽パネルを設置する場合、設置に要する費用は約280万バーツ、投資回収期間は12.8年になります。電力料金は年間21万8536バーツ節約できます。

こうした見積もりから、当初は、事業に関心を寄せる集団はかなり狭い範囲にとどまる可能性があります。考えられるのは、日中の電力消費量が大きい企業部門または工場で、太陽パネルの設置に向けた投資に適している施設は、小売施設、ホテル・リゾート、病院、倉庫、駐車場ビル、事務所ビルなどです。電力面の支出負担の軽減が可能で、投資採算性を生み出すことができます。
一方で、家計に関しては、当初は関心を寄せる消費者が購買力の高い層を中心とした特定の階層にとどまると見込まれます。すなわち、環境にやさしい発電の重要性を認識している人々や、技師、新規の高級住宅購入者などの消費者グループです。
尚、カシコンリサーチセンターは、技術進歩により太陽パネル設置費用がこれから先さらに低下すれば、市場メカニズムの調節の結果、従来型のエネルギーに対する太陽光発電の競争力が向上する可能性があると考えています。 一方では、PDP2015に基づいてシステムへの供給が拡大する代替エネルギーの使用により、1キロワット時当たりの電力料金は 上昇傾向にあります。これは、代替エネルギーの発電費用が化石燃料を使用した場合よりも高いためです。従って、自宅の屋根への太陽パネル設置に対する消費者の反応も、増加する可能性があります。

本資料は情報提供を唯一の目的としており、ビジネスの判断材料とするものではありません。掲載されている分析・予測等は、資料制作時点のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、予測の妥当性や正確性が保証されるものでもありませんし、商業ないし何らかの行動の為に採用することから発生した損害の責任を取れるものでもありません。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自でご判断ください。

33-34-07

THAIBIZ編集部

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