カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2015.10.21
メーソート特別経済区(SEZ)は、地理的な優位性と投資家に恩恵をもたらす税制面の特典から高い潜在力を持つSEZです。SEZ内での事業運営において恩恵を享受できる業種は、従来型の業種である農産物加工や繊維工業などであり、ほかに物流業、不動産業などもあります。これらに加え、潜在力を持つ事業には消費財の製造業なども含まれます。
メーソートSEZは、ミャンマー領ミヤワディと境界を接する8つのタムボン(地方区)にまたがる5603ライを超える面積が開発対象とされています。ミヤワディは、ミャンマーにとっても、首都およびヤンゴンのような主要都市と連結する重要な国境都市となっています。このため、メーソートSEZは地理的に見てミャンマーからの原材料の輸入、あるいはミャンマーへの完成品輸出事業に便利です。また、SEZの恩典として外国人労働者の雇用に便宜が図られることで、労働集約型工業の立地にも適した環境が生み出されます。
メーソートがSEZに指定されたことで、この地区で事業を営む企業は、法人所得税と物品輸入関税の免除、輸送費・電力料金・上水道料金の税控除枠の倍増(Double tax-deductible expense)といった税制特典を享受することができます。こうした特典が付与される対象事業は2つに大別されます。1つは、特別経済開発区政策委員会がターゲットに定めている事業で、新投資奨励戦略に基づく投資委員会(BOI)の特典付与の対象外である労働集約型の事業も含まれています。これらターゲット事業に対しては、法人所得税が8年間免除され、されに5年間50%減税されます。
もう1つはBOIの投資奨励措置の対象事業で、BOIによる法人所得税免除特典を享受し、さらに3年間、ただし最高で8年を超えない期間(BOIの免除期間も含む)、法人所得税を免除されます。このほかに、BOIに特典付与の申請を行なうことができない通常の事業に対しても、国税局から10年間、法人所得税を50%減額する特典が付与されます。
このような潜在力と特典の付与により、メーソートSEZは投資家や労働集約型工業の事業者、とりわけミャンマーにターゲット市場を拡大したいと望む事業者にとって選択肢となることが期待されます。しかしながらこの地域への投資に関しては、事業者は当面の問題としてミャンマー国内の民族対立に起因する治安問題について検討する必要があります。これがターゲット市場への製品輸送と販売にマイナス影響を及ぼす可能性があるからです。
労働集約型製造業の生産拠点としてのメーソートSEZの優位性をミャンマー国内と比較すると、インフラの整備の面でメーソートSEZの方が投資家の関心を集めやすいと見られます。特に、製品の製造に欠かせない電力の供給態勢について、ミャンマーはインフラ面が未だ脆弱で、安定した電力の供給が行なえません。それに加え、ミャンマーの半熟練労働者は、いずれもタイ国内での就労を志向しています。タイの最低賃金がミャンマーよりも高いため、これがインセンティブになっています。こうした材料を考慮した上で、ミャンマー国内に投資する計画を立てていた繊維工業、家具工業などの投資家の一部は、すでにメーソートSEZ内に投資して生産拠点を移転させる決断を下しています。
長期的には、メーソートSEZはミャンマーの飛躍的な発展がもたらす影響に直面する可能性があります。とりわけ、インフラが整備され、投資関連の法規則が改正され、外国人投資家の便宜を図るものになれば、税制面の特典や土地確保の面の特典、さらにはミャンマーがEUから享受している特恵関税制度(GSP)に加え、タイで働くミャンマー国籍の半熟練労働者が帰郷する流れが生じると考えられます。そうなればミャンマーは、安価な労働力により外国からの投資マネーを吸引する高い潜在力を持つ競争相手となります。
このような将来像により、今後はミャンマー、とりわけメーソートSEZと境界を接するミヤワディと一体となった開発戦術が必要になると考えられます。ミヤワディ地区は、各種資源、中でも農業資源や天然資源、さらには基礎的なスキルを持つ労働者の供給源としての潜在力を持っており、メーソートSEZ内の事業活動の支援に寄与します。こうした一体化した開発により、メーソートとミヤワディは、ミャンマーおよびタイ北部地方に消費財を配送する基地となり、あわせてメコン地域のサプライチェーンにも大きな役割を果す潜在力を持つ、新しい経済クラスターになると考えられます。
■タイ経済最新情報 9月号 2015/9/30 (No.115)
監修:カシコンリサーチセンター
マクロ経済・投資調査部取締役副社長
Dr. ピモンワン マハッチャリヤウォン
マクロ経済調査主任研究者
ルチパン アッサラット
ハタイワン トュンカティラクン
【訂正とお詫び】
前号9月10日発行号の「ArayZ×KASIKORNBANKタイ経済・月間レポート(2015年8月号)」におきまして、37ページから38ページにかける部分『場シェア約35.2%の中国に次ぐ第2位でした。しかし、タイのHD』という文章が抜け落ちておりました。読者の皆さまならびに関係各位にご迷惑をお掛けしましたことをお詫びするとともに、ここに訂正させて頂きます。
THAIBIZ編集部
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