タイ人スタッフにAIを使わせるときの注意点は?

THAIBIZ No.178 2026年10月発行

THAIBIZ No.178 2026年10月発行自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」

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タイ人スタッフにAIを使わせるときの注意点は?

公開日 2026.10.09

「タイにおける人工知能(AI)活用の注意点は何ですか」。最近、日系企業の経営者や人事の方から、この質問をよく受けます。今回は、AI時代に日本人リーダーが心がけたいことについて考えていきます。

タイは政府の積極的な旗振りもあり、AI活用の意欲は世界平均の約2倍の水準にあるそうです。一方で、デロイトの調査(2026年)では、AIを導入しているタイ企業は61%に達したものの、新規収益の創出に至った企業はたった「9%」にとどまっているというデータもあります。AIを「使っている」会社は珍しくありませんが、「活用できている」会社はまだ少ない。そんな現状があると言えるでしょう。

そして多くの方が感じている通り、「やみくもにAIを使えば良い」という訳でも当然ありません。「AIに何を任せるか」の正しい判断、「どのように指示するか」という活用リテラシー。これら無くしてはAIの効果を最大限に引き出すことはできません。AI活用に意欲的なタイだからこそ、気を付けるべきことが多いと感じています。

AI活用には5つの段階がある

筆者自身、この一年ほど業務にAIを使い倒してきました。資料作成やタスクの自動化、そして自分用の秘書ツールや人事評価ツール、あるいは人材アセスメントツールの開発まで、様々な用途にAIが活用できることがわかりました。その試行錯誤の末に見えてきたのが、図表1の5段階です。

図表1 AI活用の5段階

ステージ1はAIに「質問する」、ステージ2は資料などを「作ってもらう」。多くの方はここまでは経験済みでしょう。そしてステージ3以降はAIが自律的に動く「AIエージェント」、ステージ4以降は専門知識がなくてもツールやシステムが作れる「バイブコーディング」へと活用の幅が広がっていきます。

ここで大事なのは、ステージ1~3においてはあくまで「デスクワークの効率化」に使われているという点です。オフィスの作業は楽になりますが、ビジネスインパクトを生むまでには至りません。AIのパワーを最大化させ、真に会社に付加価値をもたらすのはステージ4以降です。

例えば、社内プロセスを自社アプリで最適化させて業務スピードを向上させる、あるいはマーケティングや顧客対応をAIによって高度化する。さらには新商品やサービスを低コストで開発し、収益獲得につなげる。「デスクワーク」だけでなく「ビジネスモデル」へのインパクトを生むことで、初めてAI活用の成果を実感できるのです。

人事とAIの相性と、AIにできないこと

とりわけ、AIと「人事業務」との相性は良いと思っています。それはAIが「大量の情報処理」に長けているからです。人事部門は従業員データ、候補者データ、評価データなどの多数のデータを取り扱います。本来はそれらを正しく用いた意思決定が必要ですが、従来のエクセル管理ではデータの活用ができていなかった場合、AIはそれを圧倒的に効率化します。

もう一つが、AIを用いることで人間の「バイアス(偏見)を排除する」ことができるという点です。人事は、採用や評価の場面で様々な「公正な判断」を求められます。しかし、人間には必ずバイアスがあるため、主観で判断を曲げてしまう。いまだに「好き嫌い人事」が横行していることがその証左でしょう。AIによるデータ活用は、われわれの判断に客観的な示唆を与えてくれます。

一方で、AIにもできないことがあると言われています。その一つは「説明責任」を持つことです。AIは重大な意思決定に必要なオーナーシップを持ちません。AIで採用候補者をアセスメントできたとしても、自社はどういう人を取りたいのか、最終的に採用するのかしないのか、という「意志を込める」パートは人間が行う必要があります。

もう一つAIができないのは「関係性に入る」ことです。AIは言葉を作ることはできますが、相手に信頼感とともに受け止めさせることはできません。「あなたはC評価です」という人事評価の結果を、従業員に納得させることはAIにはできないでしょう。あくまでフィードバックするのは、人間である必要があります。

しかしながら、こうした弱点を理解しつつAIをアシスト役として活用すれば、大きな武器となります。例えば、人事評価では、「鉛筆をなめる評価」などの、根拠に乏しい評価がいまだに蔓延しています。それに対して、目標数値と実績のデータ、あるいは面談の記録などをインプットすれば、評価判断の客観的なサポートとなります。

もちろんそれが常に正しいとは限りませんので、人間によるチェックと判断が必要です。しかし、多くの部下を抱える上司が、忙しさのあまり短時間でおざなりな評価を下してしまうという状況の改善にはおおいに役立つと考えています。

問われるのは、使う側のスキル

そしてもう一つ、見落としてはいけない重要な論点があります。AIの成果は使う側の能力に大きく左右されるということです。

最近、「AI丸投げ人材」が問題視されています。何となくAIに指示を出し、出てきたアウトプットの品質もチェックせず上司に提出してしまい、上司が頭を抱えるという事態が頻発しています。皆さんの職場でも同じようなことが起きていないでしょうか。

私は、AIに指示を出す際に、「どういうアウトプットを得たいのか」という「ゴール思考」が重要だと主張しています。AI丸投げ人材はアウトプットがイメージできていないため、自ずと指示が曖昧になります。曖昧な指示をAIに出しても、曖昧なアウトプットが出てくるだけです。しかし、その品質をチェックする基準も持ち合わせていないため、「問題なし」として上司に提出してしまうのです。

AIは一見もっともらしいものを生んでくれますが、本人のレベルを超えたものは決して出てきません。つまり、「使い手の能力が上がらないと、AIの活用は進まない」のです。逆に言うと、この「ゴール思考」をAIを使う際に意識させることで、スタッフの能力を鍛えることができます。具体的には、AIに指示を出すとき、5つの要素を必ず含めることを推奨しています(図表2)。

図表2 GRASPプロンプトの5要素

ゴールは、達成したい状態です。現状は、それに対して今何が起きているのか。このゴールとの差が、そのまま課題になります。自分の仮説は、自分はどう見ているのか、どのようなアウトプットが必要なのかという見立てです。ここが肝の部分で、依頼主が成果物をイメージできていないと、AIはズレたものを出してきます。そして、水準と形式は、どのレベルで、どのような形で出すのかといった、より細かな要望。そして禁止事項は、やってはいけないこと、避けてほしいパターンです。

実は、この5つをよく見ると、決してAI特有の作法ではないことに気づくと思います。AI時代以前から存在した、部下に仕事を任せる際の注意点と、まったく同じです。「あれ、やっといて」では部下が動けないことと、適当なプロンプトでAIが使えないものを出してくるのは、同じ現象です。つまり、プロンプトを磨く訓練は、マネジメントスキルを磨くことになりますし、また、優秀なマネジャーは、優秀なAI使いになる素養があるのです。

これは、世の経験豊富なマネジャーにとって朗報です。若手社員の「AI丸投げ」を嘆くのではなく、「仕事の任せ方」を教えるようにして、「部下の思考力」を鍛える。これがAI時代の育成法だと考えます。言語の壁があるタイ人の育成においても、こうしたシンプルなフレームワークを使って、プロンプト作成をガイドしていくことが重要です。

AI時代においては、経験豊富なベテランこそが最大の受益者と筆者は考えています。指示の質が高ければ高いほど、AIは高いアウトプットを出してくれます。それにより経験者はさらに高い成果を挙げていくことができるのです。われわれリーダー自身がAIを通じて高い成果を挙げて会社の成長をリードしていくことが、今まさに求められています。

>>本連載「タイ人事お悩み相談室 – Asian Identity」の記事一覧はこちら

株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役

中村 勝裕 氏(愛称:ジャック)

愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。
リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。Youtubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」も運営。

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Asian Identity Co., Ltd.

2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。

◇Asian Identityサービスサイト
http://asian-identity.com

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