2023年最初のキーワードはやはり「中国」

2023年最初のキーワードはやはり「中国」

公開日 2023.01.17

昨年最後のこのコラム(12月20日号)で、2022年のキーワードは「電気自動車(EV)」「脱炭素」「大麻」などだと紹介した。2023年最初のニュースキーワードは紛れもなく「中国」だろう。中国は1月8日、新型コロナウイルス対策として実施してきた入国時の隔離措置を撤廃、約3年間続けた「ゼロコロナ」政策を終了させた。これを受けて、超経済大国のグローバル経済への本格復帰に伴う特に観光分野への期待の一方で、中国国内で新型コロナが爆発的拡大する中での緩和ゆえに、世界にさまざまな波紋も広げている。タイでも1月5日の段階で中国人の大挙来訪に備え9日以降に入国する外国人に対し、ワクチンの接種完了証明の提示を求める新たなルールの導入を公表。しかし、そのわずか3日後に同規制の撤回を決めた。タイではよくある急な政策変更に慣れてきたと思っていた筆者でもさすがにその「朝礼朝改」ぶりには驚いた。

英エコノミスト誌の見立て

英エコノミスト誌の年明け最初の号(1月7日号)の表紙と巻頭記事のタイトルは「Exit Wave」、副題は「いかに中国の再開国が世界経済を混乱させるか」だ。同記事は、中国は過去3年間の大半を世界に門戸を閉ざし、大半の留学生は母国に帰り、旅行者は訪問を取りやめ、企業の駐在員は中国に戻るのを止められたとした上で、「中国は1月8日にゼロコロナ政策を撤廃、国境を再開した場合には、商業活動や知的・文化的接触の再開が良い影響をもたらすだろう」と話を始める。ただ最初は怖い話があり、それは中国で新型コロナが急拡大していることだと指摘。「われわれの分析モデルでは、新型コロナの感染拡大を止められなければ、今後数カ月間で約150万人の中国人が死亡するだろう」と警告する。

その上で、特に地方政府当局者が感染拡大を防ぐために規制を再び強化し、街を封鎖した場合には第1四半期の中国経済はマイナス成長になる可能性もあるが、最終的には物品、サービス、商品への需要増とともに、経済活動は急回復するだろうと予測。結局、「中国の再開国が2023年の最大の経済イベントになるだろう」とし、巨大経済圏である中国の急回復はそれだけで今年の世界の経済成長をけん引する可能性があるとの見通しを示す。

具体的には、中国の再開国はタイのプーケット島や香港のショッピングモールなど、中国人の消費に依存している場所には良いニュースになるだろうと指摘。オンライン旅行サイト、「Trip.com」の予約件数は昨年12月27日には、前日比250%増加したと紹介するとともに、中国人が消費する商品の輸出も恩恵を受けるだろうと分析している。

一方で、中国の回復は、インフレ率の上昇や金利の上昇などの副作用もあるとする。特に石油市場では中国の需要増が欧米の消費減少を上回り、北海ブレント原油の価格は1バレル=100ドルに達するとの米投資銀行ゴールドマン・サックスの予想を紹介。さらに、液化天然ガス(LNG)の輸入競争も起こり、国際エネルギー機関(IEA)の予測では、今冬の欧州でのLNG供給は、ロシアの輸出停止もあり、年間消費量の7%が不足する見込みだという。このほか、中国国内では製造業のコスト上昇につれて外国からの投資が減少し、中国国外に事業拠点を移す企業も急増するとの見方を示している。

2022年のBOI投資申請は4割増

それでは2023年のタイ経済のトレンドはどう予想されているか。その前にタイ投資委員会(BOI)が1月13日に発表した投資に関するデータを紹介しておこう。2022年の国内外の投資家による投資恩典申請件数は2119件で、金額は前年比39%増の6646億バーツ(約200億ドル)だった。業種別では電子・家電が1295億バーツでトップ、自動車が1054億バーツで2位、このうち電気自動車(EV)サプライチェーンはBEV、PHEV、ハイブリッド含め540億バーツだった。3位はデータセンターで425億バーツ。外国直接投資(FDI)は4339億バーツで総額の65%を占めた。

さらに国別では中国が158件、774億バーツとなり、日本(293件508億バーツ)を上回りトップとなった。次いで米国(33件503億バーツ)、台湾(68件452億バーツ)、シンガポール(178件443億バーツ)の順だった。これを見ても中国からの投資急増が目立っている。また東部経済回廊(EEC)3県への投資申請額は前年比84%増の3588億バーツだった。ナリットBOI長官は2022年の増加について、「BYDオート、フォックスコン、アマゾン・ウェブ・サービスといったグローバルリーダー企業によるものだった」と自信を深めている。

1月2日付のバンコク・ポスト紙(ビジネス1面)は「2023年の5つのビジネス・トレンド」という特集記事を組んでいる。その5つは、①銀行によるESG(環境、社会、企業統治)への取り組み続く ②観光分野では「グリーン」が新たなテーマに ③電気自動車(EV)市場成長の勢い続く ④クラウドや自動化を含むデジタルフォーメーション加速 ⑤太陽光、風力、バイオガスなど「クリーン・エネルギー」分野の企業の成長-だという。無難な選定だと思われるが、果たしてどのトレンドが主役となるのか。そして中国経済の再始動、中国人観光客の復活がタイ経済・社会にどのようなインパクトを与えるのかを注視する必要がありそうだ。

THAIBIZ Chief News Editor

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE