【連載】千代田中央法律事務所 タイの業法・規制法

【連載】千代田中央法律事務所 タイの業法・規制法

公開日 2016.08.30

タイの業法・規制法(第1回) 有害物質・産業廃棄物規制について①

企業がタイにおいて営業活動を行う上で留意しなければならない法規制について取り扱う本コラム。第1回となる今回は、主に工場で製品を製造している企業にとって関わりのある、有害物質・産業廃棄物に関する規制について、その概要を取り扱うこととする。

1.規制にあたる機関

有害物質・産業廃棄物の管理、処理について規制にあたる主な行政機関として、下記のようなものが挙げられる。

(1)工業省工業局 (Department of Industrial Works:DIW)
工場の操業に対する許認可権を有する機関。当該権限に付随して、排水・大気汚染規制基 準の策定、産業廃棄物分類基準の策定、産業廃棄物排出許可を行っている。
(2)公害管理局 (Pollution Control Department: PCD)
一般廃棄物、環境廃棄物、バーゼル条約規定廃棄物といった、廃棄物全般を所管している機関。 そのため、DIWと管轄が被る部分があるが、重複部分ではDIWが優先する。
(3)タイ工業団地公社 ( Industrial Estate Authority of Thailand:IEAT)
工業団地内の工場に対して規制を行う。IEATは工業省内の部局なので、公害管理局とは 異なり、DIWとの管轄における住み分けは比較的整理されている。

2.規制体系

規制は主に、下記に挙げる4つの法律に基づいて行われることになる。但し、実際はそのような法律によって、どのような基準に当てはまる企業に対して規制を行うかという、規制の要件についての裁量が、「1.」で 述べたそれぞれの行政機関に与えられている。それぞれの行政機関は、省令・告示(その改正が間に合わない場合は通達)を出し、その中で具体的な規制基準を定めて運用している。

(1)国家環境保全推進法
産業廃棄物および感染性廃棄物の環境計画や環境基準、モニタリング等に関する管理につ いて規定し、産業廃棄物の処理施設に適用される環境影響評価(Environmental Impact Assessment:EIA)についても、併せて規定している。
(2)工場法
工場設置、拡張について一般的な規制を行っているほか、廃棄物の隔離、汚染水の処理システムといったハード面に対する規制に加え、公害防止責任者設置義務を賦課といった、ソフト面の規制も行っている。
(3)有害物質管理法
有害物質の製造、使用、輸入に関して、さまざまな規制を行っている。
(4)工業団地法
工業団地内における、有害廃棄物に関する規制や環境への影響軽減のための取組の実施な どについての、工業団地公社の権限を定めている。

3.有害物質

ここで、そもそも「有害物質」とはどのような物質を指すのか、有害物質の定義について概説しておきたい。
有害物質法において、有害物質とは以下の10種の物質を言う。①爆発物、②可燃物、③酸化物・過酸化物、④毒性のある物質、⑤病原物質、⑥放射性物質、⑦遺伝子突然変異をもたらす物質、⑧腐食性物質、⑨ 痒みを発生させる物質、⑩人・ 動物・植物・財・環境に危険な化学物質やその他の物質。
とはいえ、例えばひとくちに毒性のある物質と言ってもその態様は組成などに応じてさま ざまであり、具体的に問題となる物質が以上10種類の有害物質に該当するか、しないのかを判断するためには、一定の基 準が必要になる。
そこで、有害物質排出者の責任について定めた2005年工業省告示は基準を一応明らかに しており、同告示では、工場が排出する廃棄物について、非有害産業廃棄物400物質、有害産業廃棄物230物質、有害か非有害かを計測しなければな らない産業廃棄物178物質を指定している。なお一応、と申し上げたのは、有害物質指定が日夜更新されているためである。 工業省は、05年以降も有害物質のリストを発行し続けており(最新リストは今のところ15年工業省告示)、当該物質が有害物質に当たるのかを考える上では、それらによる品目変更を考慮に入れる必要がある。
また、有害物質法は18条において、管理の便宜上、有害物質を4つのカテゴリーに分けている。当該4つのカテゴリー分けは、 次回取り扱う予定の「有害物質管理法」に基づいて課される、有害物質の排出などを行う者の義務内容に関わってくる。

4.有害物質排出者の 義務内容①

以下では、有害物質の排出な どを行う者に対して課される 義務のうち、05年工業省告示 第6〜14項に基づくものについて列挙する。

(1)有害物質を長期にわたって保管する場合には、許可申請を要する義務
(2)有害物質の排出、収集、処理についてのインターネットを通じて報告を行う義務(E―マニュフェスト)
(3)排出などを行う有害物質および工場の規模に応じて、有害物質の管理を専門に行う者を配置する義務
(4)有害物質の処理に当たって許可を取得する義務
(5)有害物質であると非有害物質であるとにかかわらず、産業廃棄物を移動させる際に、移動許可を取得した上で、DIWから営業許可を受けた産業廃棄物処理業者または産業廃棄物収集業者に運搬を委託する義務
(6)(5)の委託を行うたびに輸送書を作成し、E―マニュフェストを実施する義務
(7)年次報告書を、翌暦年3月1日までに、DIWに提出する義務その他の有害物質の排出などに対する規制については、次回 (ArzyZ10月号)にて取り上げる。
【共著:平井遼介弁護士】

chiyoda
佐藤聖喜 代表弁護士

chiyoda
平井遼介 弁護士

千代田中央法律事務所・バンコクオフィス
1 Empire Tower, 23th fl., River Wing West,
South Sathorn Rd, Yannawa,
Sathorn, Bangkok 10120
02-670-1398
http://www.chiyodachuo-jurist.com

THAIBIZ編集部

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