SDGsのうねり-サステナビリティに進む世界

ArayZ No.118 2021年10月発行

ArayZ No.118 2021年10月発行SDGsのうねり-サステナビリティに進む世界

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SDGsのうねり-サステナビリティに進む世界

公開日 2021.10.09

世界が大きく変わろうとしている。SDGs(持続可能な開発目標)をはじめとしてサステナビリティ(持続可能性)に大きな関心が集まり、企業活動にも影響を及ぼそうとしている。このうねりは企業にとってチャンスになり得るなのか、それともリスクなのか。
今回はデロイトがサステナビリティ経営について解説するほか、素材・太陽光発電・包装資材業界における動向、中小企業によるSDGsへの取り組みについて紹介。
うねりの一端を追った。

SDGs(Sustainable Development Goals)は2015年にニューヨークの国連本部で開催された国連総会において、加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されたものだ。

持続可能でよりよい世界を目指し、30年を達成年限として17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている(図表1)。

主に開発途上国向けだった前身のMDGs(Millennium Development Goals、ミレニアム開発目標)と比べると、SDGsは教育や貧困などの社会問題からエネルギーや資源の有効活用、働き方改革といった経済問題、海洋資源や気候変動などの環境問題まで幅広くゴールが設定されている。

行動対象も各国政府だけではなく、地方公共団体や企業までが取り組みを求められ、今や世界中の企業がSDGsを経営の中に取り込もうと力を注いでいる。その流れは着実に強くなっている。

目次

パリ協定で加速した脱炭素の動き

折しも、1997年の京都議定書に次ぐ温室効果ガス排出削減等のための国際枠組み「パリ協定」の本格運用が20年からスタートした。

同協定は、15年に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択され、世界共通の長期目標として世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つこと(2℃目標)、1・5℃に抑える努力を追求すること(1・5℃目標)などを目指している。

途上国を含む全ての参加国と地域に20年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めるよう求めており、日本では中期目標として30年度の温室効果ガスの排出を13年度の水準から26%削減することが掲げられている。20年10月には菅義偉首相が所信表明演説で50年までに実質ゼロを目指すという、より一層踏み込んだ目標を掲げた。タイも30年までに温室効果ガスの排出量を20〜25%削減することを発表している。

政府レベルだけでなく、産業界でも脱炭素に向けた動きが本格化している。企業に対し科学的根拠に基づく温室効果ガス排出量削減目標を立てることを求めるSBTi(Science Based Targets initiative、科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)が15年に発足。幅広い産業から企業が賛同し、21年9月時点で900社近い企業が目標を承認されている。

世界で拡大するESG投資

環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの観点から企業の将来性、持続可能性などを判断して投資するESG投資も年々拡大している。

ESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げ、06年に提唱された国連責任投資原則(PRI)には既に3000を超える年金基金や機関投資家が署名している。

アメリカ最大の公的年金基金であるカルパースは06年にPRIに署名、12年にはすべての投資判断にESGを組み込む投資原則を採用した。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も15年に署名し、狭義のESG投資とも言えるESG指数に基づく運用資産額は約10・6兆円にのぼる。

これらの動きの中で、世界のサステナビリティに対する関心がかつてなく高まり、様々なレベルで具体的なアクションとして取り組まれようとしている。

もはや企業として無関心でいることは、社会的な信用やイメージへの影響だけでなく、SDGsなどを重視する顧客の方針により既存ビジネスの損失なども起こりかねない。

企業はどのように向き合えばよいのか。デロイトがサステナビリティ経営について解説する。

2006年入社後、会計監査、J-SOX及びIFRS導入支援の他、アジア拠点のガバナンス強化に関するアドバイザリーに従事。12年より経済産業省に出向し、国際基準対応やガバナンス政策立案に関与。17年よりインド・デリー事務所、21年よりタイ・バンコク事務所において日系企業サービスグループ・リスクアドバイザリー責任者として駐在。日系企業向けにガバナンス、業務・統制改善、情報セキュリティ等の経営管理体制に関する支援を行う。

1998年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所後、グローバル展開する製造業、製薬業を中心に、小売業、商社、金融業など幅広い業種の監査業務に従事するとともに、各国のデロイト監査チームとの連携を多く経験。IFRS導入、内部統制構築などのアドバイザリー業務に従事したほか、2021年タイ駐在後は日系企業に対する会計監査/税務/コンサルティングサービス等のコーディネーション業務に従事している。

社会課題の解決によって収益を創出する発想が必要

サステナビリティ経営とその背景

2015年に国連本部が採択したSDGsと気候変動に関するパリ協定。これらのサステナビリティイシューを巡る国際的な議論が、日本企業にとっての「社会貢献」を「経営課題」へと押し上げる大きなうねりを作り出している。

これまでの日本企業によるCSRの取組みは、利益を目的としない社会貢献活動にとどまるケースも多かった。それ自体に社会的意義はあるものの、事業目的との繋がりが不明確であることから「コスト」と位置付けられ、経営戦略上の重要課題として取り扱われづらく、この分野において日本企業が立ち遅れてきたとの指摘がある。

一方、欧米のグローバル企業においては本採択の10年以上前から、ESG投資を推進する国連責任投資原則(PRI)も背景に、環境や地域社会と共存した上で企業を存続させ利益を拡大していく「サステナビリティ経営」が実践されてきた。

より具体的には、08年のリーマンショックを契機として「利益をもたらさないコスト」とみなして削減を続けてきた日本企業と、「持続可能性や長期思考に基づき社会的信頼回復のために」投資を続けてきた欧米企業との間に大きな差が生じたものと考えられる。

この点は、昨年デロイトが実施した「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(20年度版)」においても顕著に示されているため、本稿においても紹介したい。

変革が求められる日本企業

社会課題解決を通じて経済活動のボトルネックを解消するという、ニューノーマルの成長像を示すサステナビリティ経営は日本企業にとって事業根幹の変革を迫るものであり、コア事業のパーパス(目的)の定義、さらには社会から必要とされる事業価値を見定める上でも有用と考えられる。

またサステナビリティ推進には株主、投資家のみならず、顧客、政府組織、NGO、地域社会など多様なセクターが深く関わってくることから、同イシューをさまざまなステークホルダーとの関係構築を手助けする「共通言語」として活用する考え方が必要となる。

世界的なCOVID―19感染拡大による危機、デジタル技術の革新、気候変動やサプライチェーンの寸断など、事業環境の不確実性に直面する中、社会課題解決を収益創出の機会という観点から経済価値と繋げて捉える戦略的発想を組織全体に行き渡らせることこそが、日本企業における喫緊の課題となっている。

グローバルレベルでの事業や製品の選別、サプライチェーンの見直し、新規投資及び撤退等の全社的な検討に加え、地域固有のメガトレンドを考慮した中長期的な観点から「リスク」と「機会」の見直しに迫られているのである。

デロイトが気候変動に関する最新レポート「Southeast Asia’s turning point」を発行。2050年までに地球の平均気温上昇を1.5℃より低く保つ目標が達成されると、SEAにおいて2070年までに約12.5兆USドル(現在価値)の経済効果を生むと試算。

第四次産業革命における
世界の経営者の意識調査(20年度版)

世界の経営者は第四次産業革命を通じて
経済価値と社会価値の創出を同時に追求する傾向に

第四次産業革命への投資から望む成果について上位5つの回答を集計したところ、「収益拡大」「生産性・効率性向上」「顧客との関係強化」「社内/業務コスト削減」「リスク管理向上」といった項目を挙げた経営者の割合が高く、特に日本の経営者は、これらの項目について高い期待を抱いていることが示されました(図表1)。

出所:デロイト「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」より

世界全体では、約6割の経営者の回答が「ポジティブな社会影響力増大」に集まっており、第四次産業革命を通じて経済価値と社会価値の創出を同時に追求する傾向が高まっていることが示唆されましたが、日本では同項目に回答した経営者は約4割にとどまりました。

日本企業は社会課題を事業機会と捉える戦略視点が弱く、
依然リスク・CSR対応の観点が主流

自社が最も注力する、または対応している社会課題として「気候変動/環境持続性」(日本:84%、世界:54%)、「資源不足」(日本82%、世界:61%)が上位となりました(図表2)。

出所:デロイト「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」より

また、社会課題解決の取組みに注力する理由として、世界の経営者は「収益の創出」(42%)を最も多く挙げる一方で、日本は1%と低く、社会課題を収益創出の事業機会と捉える戦略視点の弱さが浮き彫りになりました(図表3)。

出所:デロイト「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」より

社会課題解決の取組みに注力する理由に関しては、世界全体では自社の収益創出を筆頭に、外部ステークホルダーや従業員等への対応、規制順守、企業としてのレピュテーションの向上、事業戦略/文化の一部などの項目が挙げられました。世界の経営者が社会課題解決を経営戦略の一環として取り組みながら、様々な関係者を対象に推進していることが示されました。

日本の経営者は社会課題解決への取組みの理由として「外部ステークホルダーの優先事項」「従業員との関係強化/新規採用」に回答が集中し、直接的な利害関係者からの要請や期待への対応に重きを置いていることが明らかになりました。また、世界平均に比べて、社会課題解決の取組みをまだ実施していないことも示されました。

今後を見据え、目的・分野毎の短期戦略から
長期的な統合戦略への経営戦略の転換が急務

第四次産業革命によってもたらされる機会を積極的に活用する準備について、「大変自信がある」と回答した世界の経営者は34%と昨年同様であり、横ばいとなりました。日本の経営者については一昨年の3%から昨年は38%へと大きく上昇しましたが、今回は26%と減少に転じました。

また、第四次産業革命に関する戦略策定状況について尋ねたところ、日本の経営者の回答は「必要に応じた特定分野・目的ごとの戦略がある」と「正式な戦略はない」で占められ、ビジネス全体を視野に入れたより包括的・統合的な戦略策定への注力傾向を増しつつある世界全体の動きとの差が表れる結果になりました(図表4)。

出所:デロイト「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」より

タイでもサステナビリティ推進施策が増える可能性

タイのサステナビリティ動向

SDGsを巡る国際動向も踏まえて、タイ政府においてもBCG(Bio-Circular-Green)エコノミーモデルに基づく経済政策が推進されている。

今年策定された「2021-2026 BCG Strategic Plan」は、主に図表5の4つの戦略(要旨)から構成されており、タイが「中進国の罠」を脱却し、国民(特に農業セクターに従事)の所得を創出することの重要性が強調されている。

特に気候変動の取り組みとしては、2020年下半期に日本を含めた世界各国がその対応方針を宣言する中、タイにおいても、21年11月に英国にて開催される第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)に向けて、政府及び民間ともに対応が進められている。

21年8月に国家エネルギー政策評議会は、「国家エネルギー計画枠組み」を採択し、70年までにカーボンゼロを目指す方針を公表した。

当該枠組みにおいて、エネルギー分野、再生エネルギー発電比率及びエネルギー効率性に一定の目標比率を設定するとともに、脱炭素・デジタル化・分散化・規制緩和・電動化によるエネルギー産業の再構築などの取り組みを推進することが明らかになった。

今後、パブリックヒアリング等を経て、その骨子は21年10月にかけて公表され、22年までに新たな国家エネルギー計画を策定する見通しである(21年8月12日付け、JETROビジネス短信を参考)。また、21年8月には、「Race to Zero」キャンペーンに関するWEBのイベントがタイで開かれ、タイの民間セクターが参加した。

さらに21年9月には、タイ投資委員会(BOI)が企業の温室効果ガス排出量削減を奨励する恩典を承認した。

主な内容としては、温室効果ガス排出量削減を目的とした機械設備更新への投資に3年間の法人所得税免除の付与、CCUS(Carbon Capture Utilization and Storage)技術を導入した石油化学製品の製造設備に8年間の法人所得税免除の付与がある。  今後も、タイ政府によるサステナビリティ推進施策の継続的な公表・展開が想定されるため、その動向に注視する必要がある。

今後も進むサステナビリティ対応

同時に国内法整備に向けた動きとして、気候変動への対応及び持続的開発を促進すべく“Climate Change Act”の制定準備も進んでおり、天然資源環境政策・計画局(ONEP)が現在パブリックヒアリング等を進めている。

同法案には「企業が温室効果ガスに関するデータ準備及び提出義務(Section 27)」や「正当な理由なく未提出の場合には罰金(Section 48)」が規定されており、今後はタイ現地法人においても気候変動をはじめサステナビリティに関連する規制対応やディスクロージャー要請が増えてくることが想定される。

なお、日本の上場会社に適用されるコーポレートガバナンスコードの改訂(21年6月)において、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題と捉えられている。

それに加え、22年4月にスタートするプライム市場(旧東証一部相当)上場会社には、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益に与える影響について、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきと示されていることからも、日本の上場会社はグループ子会社を含めて対応を推進しているものと理解している。

タイ現地法人は、上述のサステナビリティの動向を考慮したうえで、親会社のグローバル方針と連携した対応を推進することが想定される。

経営戦略から現場レベルまで落とし込む必要性

実践に向けたアプローチ

グローバル先進企業は、サステナビリティイシューを経営戦略上の重要課題と捉え、根本的な意識改革を含めた経営変革を進めている。中長期的な観点から「リスク」と「機会」を把握し、サステナビリティ経営を実践に移すためには次の3点が重要と考えられる。

① 社会課題に優先順位をつけて経営戦略へ落とし込む

社会課題解決への取り組みは、立ち遅れれば大きな脅威になる。一方、先行できれば市場で競争優位を構築する機会になり得る。経営戦略にサステナビリティを統合するため、まずは重要課題として自社が解決に貢献できる社会課題を特定する必要がある。

戦略統合に際しては、グローバルでの大きなトレンドとして市場で競争力を発揮するレバーが「機能・品質・価格」などの商品・サービス特性から、「大義力」「ルール形成力」にシフトしてきている点に留意すべきであり、先行する欧米企業がこれらのトレンドを機会と捉えて着々と新たなゲームチェンジを進めていることを認識しておく必要がある。

② 業務オペレーションレベルで変革

戦略的施策が失敗に至る多くのケースは、組織の末端まで「明確な方向性が見えていない」あるいは「トップマネジメントが戦略達成に本腰が入っていない」と受け止められる場合である。

社会課題の中から自社にとって重要な課題(マテリアリティ)を特定した上で、経営ビジョン、中期経営計画、事業戦略、イノベーション・新規事業戦略、コーポレートブランド戦略、研究開発戦略や調達・サプライチェーン戦略等と各KPIを設定し、各事業・機能の業務オペレーションのレベルまで落とし込むための変革が必要である。

また、同責任を果たすメカニズムを組織全体に広げるためには取締役会の下、適切な役割・責任・権限を付与した担当部署を設置することが重要であり、先行する欧米企業ではサステナビリティを取締役会の役割や幹部報酬に組み込む事例も見受けられる。

③ 投資家・ステークホルダーとの関係構築

ESG格付のみの追求は避ける必要があるが、株主、投資家との「エンゲージメント」は引き続き重要である。

R&D活動を重視する企業がESG課題を戦略に組み込み、その成果報告を約束することで長期保有を前提とした株主構成へと顔ぶれを変化させた取組みは大変に興味深い。  また、サステナビリティイシューを一社単独で推進することは難しいため、取引先・政府組織・NGO等と協働することで「エコシステム」を構築することも重要となる。

例えば、環境負荷の高い原料を取り扱うセクターではビジネス慣行を問題視する行政・NGO等と協調して調達ルール形成を主導しつつ、自社サプライヤーともいち早く連携しサステナブルな調達方法を確立することで課題解決と競争優位性の構築の両立を実現している現実を直視する必要がある。

加えてアジア諸国では人権デューデリジェンスに関する知識不足や対応の遅れに起因して、日系企業が現地ビジネスから締め出されるといったリスクがあることにも十分に留意すべきである。

タイ現地法人の役割とは

これらのアプローチは、グローバルレベルの企業グループ全体として実践していくことが重要である。

すなわち、サステナビリティ経営戦略の策定や業務変革モデルのデザインはグローバル本社がリードする一方、タイ現地法人においてはASEANビジネスの前線における情報収集や事業インパクトの評価、投資実行、そして現地政府機関・取引先との関係構築といった各役割をグループ全体として分担したうえで、グローバル一体として機能させていくことが必要と考えられる。

特に、社会課題の前提となる目前の現実認識、そして社会情勢の流れや地域固有のトレンドの把握(例:人口動態、政治、人種・宗教、環境問題など)に関しては、日本とASEAN・タイとの間で大きく異なるケースも想定されることから、冷静かつ客観的にアンテナを張り続けることが重要となる。

改めてASEAN・タイのマーケットを俯瞰したときに、自社のマテリアリティ(重要課題)として解決に貢献できる社会課題は何なのか。グローバル本社と現地法人が連携し、サステナビリティ経営変革に向けた歩みが強く望まれるところである。

※ 文中における見解は特定の組織を代表するものではなく筆者の私見である。

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中小企業のイマ:BizWings (Thailand) Co.,Ltd.

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中小企業でも実践、着実にメリットを実感

優先目標を決めて推進

日本にいた頃から、ビジネスを通じた社会貢献に関心がありました。BizWingsを立ち上げてからも毎年、寺院や赤十字に寄付をしたりしてきました。そんな中、SDGsを推進する国連アジア太平洋経済社会委員会の方と知り合い、タイでもSDGsが強く推奨されていることを知りました。さらに、SDGsに強い関心を持つ人材の入社などが重なり、SDGsへの取り組みを会社で進めることにしました。

SDGsでは17のゴールすべての達成を目指すのではなく、自社と関連する2~3つに集中して取り組むことが推奨されています。弊社でも「質の高い教育をみんなに」「働きがいも経済成長も」「つくる責任つかう責任」に優先目標を置いています。

「質の高い教育をみんなに」では、インターンシップの機会を提供したり、従業員のスキルアップのために投資するなどしています。「働きがいも経済成長も」では、お客様の生産性向上を促進する新しいサービスの開発や、柔軟な労働体系で従業員のワークライフバランスを支援。「つくる責任つかう責任」では、社内でのごみの分別の推進、従業員にエコバッグや弁当箱の提供などを行いました。

私も参加してSDGsの取り組みについて毎週、ミーティングもしています。

具体的な行動例はSDGsコンパスのウェブ上でも紹介されています。

ご関心のある方はぜひご参照ください。

タイの大手企業もSDGsを重視

国連グローバル・コンパクトという、SDGsを推進する世界的な取組への賛同企業としてタイのローカルネットワークに加盟していますが、総会にはネットワークの会長を務めるCPグループのスパチャイ会長が参加するなど名だたるタイの大企業が名を連ね、タイは東南アジアで最も加盟企業が多いそうです。また、加盟企業は毎年のリポート提出が求められます。

弊社が昨年から加盟している会計・監査・税務などに特化した独立系ファームからなるグローバルネットワークのTGSグローバル(本部・フランス)では、毎年グループ内で行われるクオリティコントロールの項目の一つにSDGsへの取り組みが挙げられています。

SDGsに取り組んだ結果、従業員のロイヤリティ向上による離職率の低下やタイにおけるブランド認知度の向上などに繋がり、将来のグローバル展開の後ろ盾にもなると感じています。

素材業界のイマ:Spiber(Thailand) Ltd.

慶應義塾大学の先端生命科学研究所発のスタートアップ。主原料に石油を使わない人工構造タンパク質繊維「Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)」の開発に成功。サトウキビなどを原料に微生物の発酵によって製造され、生分解性に優れ、環境負荷の低い高機能素材として注目される。2018年にはブリュード・プロテインの原末をタイで量産するためにSpiber(Thailand)Ltd.を設立。3月に工場の開所式が行われ、商業生産に向け準備を進める。

Eastern Seaboard Industrial Estate, 300/155 M.1 T.Tasit, A.Pluakdaeng, Rayong, 21140, Thailand
URL : https://www.spiber.inc/thailand/

脱石油素材の普及でサステナブルな社会へ

微生物による発酵生産

タンパク質は20種類のアミノ酸が連なってできています。アミノ酸の並び方によってタンパク質の性質は大きく変わります。そしてタンパク質の設計図に当たるのが遺伝子(DNA)です。

そこでまず私たちが作りたいタンパク質のDNAを自分たちでデザインして、合成します。そのDNAを微生物の中に導入すると、その微生物は私たちが作りたいタンパク質を合成することができる微生物へと変化します。

タイの工場ではまず、この微生物に砂糖や酸素、ミネラル分などを与えて増殖させ、タンパク質を作らせる培養工程が行われます。

その後、タンパク質成分だけを取り出す精製工程を経て、ブリュード・プロテイン原末ができあがります。その原末を元に日本のパイロットプラントで紡糸を行い、繊維へと形を変えます。

高い生分解性に注目

当社が日本の大学と共同で比較研究したところ、ブリュード・プロテインはセルロースと同レベルの高い生分解性があるという結果が出ています。セルロースは植物の基幹素材のようなものですので、植物とほぼ同等の生分解性があると言えます。

バイオ由来でかつ高い生分解性を備えている素材は実はあまりありません。そして、これから社会に求められる素材はまさにこの領域です。そこへ弊社が先んじて製品を供給しようとしているため、非常に注目をいただけていると思っています。

現在は商業生産に向けた準備を進めています。工場の効率的な動かし方や、従業員のトレーニング、そして品質を満たすタンパク質を作れるようにするため、水を使った試運転や実際の原料を使った試験などに取り組んでいます。

ただ私どもの場合はマザー工場が日本にあるわけではありません。今回のタイ工場は日本にあるパイロットプラントの100倍程のスケールになりますので、この立ち上げ自体が挑戦的なものになっています。

また、新型コロナウイルスの影響で出社人数を減らすなど、密にならない環境で仕事を進めなければなりません。タイ人と日本人では言語や文化も異なるため、万全を期してすり合わせに時間を掛けています。

社会と企業の姿勢が変化

スパイバー、ゴールドウイン、Loaded Boardsによるスケートボードの共同研究開発

ブリュード・プロテインを使用したザ・ノース・フェイスのMOON PARKA

現在、スポーツアパレルメーカーのゴールドウインらと製品の共同開発を進めていますが、メーカー側の姿勢も大きく変化していると感じます。

SDGsというものが重要視されるようになり、石油由来素材以外の選択肢もしっかりと検討する必要があるというのが、世界のコンセンサスになってきています。アパレルメーカーや自動車部品メーカーでも、ブリュード・プロテインの採用を真剣に検討いただいています。

過去にも同様の流れはありました。石油危機や地球環境問題が起こるたびにバイオ由来の素材に注目が集まったのですが、コスト高でもあるため一時的なブームで終わってしまうことが多かったように思います。

ただ今回はそういった一過性の動きではなく、永続的なものだと感じています。これまでになく社会全体が「地球の持続可能性」を真剣に考え、様々な施策を打ち出しています。  投資家の方も、以前はタンパク質素材の強度や伸縮性などの物理的特性に対して注目されていました。しかし最近ではSDGsを見据えた上で、弊社素材の環境対応性や生分解性が今後の社会に必要なのではないか、という目線で大きく期待していただいています。  単純に素材のスペックが面白いというよりは「この素材が社会に必要とされている」「新しい選択肢として求められている」、そのような期待感に変わってきている気がします。

広がるサステナビリティ

今は発酵生産で主原料として使われる糖の多くがサトウキビやキャッサバなどから得られる可食部由来の糖(元々食用向けに作られた糖)を使っています。将来はその糖自体を非可食部由来の糖(サトウキビの搾かすなどを分解して得られる糖)へと変えていく流れになっていくと思われます。また糖のもとになったサトウキビやキャッサバがいかに人権や環境に配慮して作られているかも求められてくるでしょう。

一般的に非可食部由来の糖は複数種類の糖や糖以外の成分も混じっています。糖の純度を高めるには手間とコストを掛けなければなりませんし、純度が低い状態で使うには技術開発が必要です。したがって時間を要すると思いますが、弊社素材が人間の食料と競合することがない形で生産ができるように、取り組んでいきたいと思っています。

またこれからの時代、再生可能エネルギーをいかに活用しているかも重要な指標になります。その点で、タイでも太陽光や水力、バイオマスによる発電も行われていますが、まだまだ火力発電の割合は高いですし、再生可能エネルギーを使いたいと思っても簡単に使える状況にはなっていません。再生可能エネルギーへのアクセス性をいかに高めていけるかも、タイの課題だと思っています。

想像以上の社会の変化

デザイナーの中里唯馬氏がブリュード・ プロテインを使用したコレクションを発表

世界は想像以上に急速に変わろうとしています。SDGsのような観点で社会の価値観、方向性が大きく変わろうとしていて、その流れに乗らなければ社会から淘汰されていってしまうような雰囲気を感じています。

私共もこのタイミングで、自分たちにこれほどの追い風が吹くとは思っていませんでした。3、4年前からそのような流れは感じ始めていましたが、特にこの1、2年で急速に変化したように思います。

素材というのは、それ自体のスペックが評価される領域です。一般的には強度や伸縮性、耐熱性など際立った特徴がないと競争に打ち勝てません。その中で、バイオ由来で生分解性があるという環境的な側面が、これほど評価されることに私共も驚いています。

日本企業もそういった大きな波をしっかり認識する必要があると思います。日本はどちらかといえばSDGsの観点からはまだ後進国側にいるかもしれません。その中で、どうやってこの波に乗るのかを企業戦略として考えなければならない状態になってきていると思いますし、今取り組まなければ本当に乗り遅れてしまうという危機感を抱いています。

太陽光のイマ:WEST International (Thailand) Co., Ltd.

 太陽光発電の設計を中心に、顧客の要望に応じてユーティリティ設備の省エネ化をサポート。太陽光発電を無償で設置し、発電した電力を顧客が購入するPPAと呼ばれる初期投資ゼロのモデルをはじめ、自己投資(工事請負)、設備リースなどの契約形態を用意。

WEST International (Thailand) Co., Ltd.

63 Athenee Tower 18th Flr., Room 1803, Wireless Rd., Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330, Thailand
TEL +66‒2‒168‒8678
URL:https://www.west-gr.co.jp/

タイの産業界でも広がる再生可能エネルギー

高まる再生可能エネルギーへの関心

昨今の時代の潮流であるSDGsやサステナビリティという概念の浸透により、タイでも再生可能エネルギーに関する注目度は非常に高いと感じています。

弊社がタイで太陽光発電事業に取り組み始めたのが2018年。年々お客様の関心は高まり、既に100社ほどと契約いただきました。特にタイの主力産業でもある自動車業界では世界的に脱炭素の動きが本格化しており、弊社でも自動車メーカーや関連会社様に多くの導入実績があります。

日本は、途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み成果を両国で分け合う二国間クレジット(JCM)制度において、タイとパートナー国になっています。日系企業のお客様においても同制度を活用して太陽光発電の導入を検討されるなど、環境への貢献方法が多様化しています。

太陽光発電導入のメリットはお客様によって異なりますが、共通しているのは再生可能エネルギーの活用による環境貢献ではないでしょうか。SDGs以外にもESG投資やパリ協定(温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み)等の言葉が連日メディアに登場している現在において、環境貢献はどの企業にも共通するテーマとなっています。

また、太陽光発電設備の導入により、従来の電気料金よりも安価に使用でき、コスト削減も期待できます。

太陽光発電を導入する際の留意点

地震のないタイは建物の設計思想が日本とは大きく異なります。そのため、太陽光発電パネルを屋根に設置する際は、建物の耐荷重を再度計算して行政の認可を取らなければなりません。認可が降りるまでに通常3ヵ月ほど掛かり、現在はコロナ禍でさらに時間を要する傾向にあります。

また、タイでは太陽光パネルのメンテナンスが欠かせません。日本のように屋根に角度があれば、太陽光パネルに汚れが付いても雨で自然に落ちますが、タイは傾斜のない屋根が多く、太陽光パネルに付いた汚れが落ちづらくなります。太陽光パネルの汚れは発電効率の低下に繋がります。

工業団地に入居し、団地内のIPP(独立系発電事業者)から電力を購入している場合、太陽光発電パネルを設置する際にIPPから設置量の制限や追加の設備投資を求められるケースがあります。MEA(首都圏配電公社)やPEA(地方配電公社)から供給されている場合はそういった制限はなく、注意が必要となります。

直近では原材料の高騰やスエズ運河の座礁事故による海上輸送の遅延が起きており、今後の資材調達への影響を懸念しています。

タイでも脱炭素の取り組みが加速

タイは19年に長期電源開発計画(PDP2018)が国家エネルギー政策委員会に承認され、今年8月には将来的に再生可能エネルギー比率を50%以上にすることなどを盛り込んだ国家エネルギー計画枠組みが承認されました。

タイの電力を長年支えてきた天然ガスは枯渇が見込まれます。今後政府から具体的な政策が打ち出され、太陽光発電の活用などによる脱炭素への取り組みが加速すると考えられています。

今のタイではまだ使用電力を再生可能エネルギーで100%賄うことは非常に難しいです。ただ、I‒RECというグリーン電力証書の取引によって実質的に再生可能エネルギーを使用しているとみなされる制度を活用すれば実現できます。

弊社は現在、I‒REC登録手続きを進めており、将来的にはお客様のご要望に応じて同制度を活用し、CSR活動やカーボンニュートラル達成のお手伝いが可能になります。

今後も、安心で安全な太陽光発電の運用をご提供すべく、保守管理体制の強化、新技術の導入検討を行うとともに、工場や施設で使用している電力の見える化、機械設備の省エネ化など、エネルギーに関するお客様のニーズに幅広くお応えすべく、準備を進めていきます。

包装資材のイマ:Nippon Packtoss(Thailand)Co., Ltd.

タイを拠点に包装資材(パッケージ)のデザイン、設計、生産までを一貫して請け負う。ファブレスとして自社の工場を持たず、タイをはじめ、中国、ベトナム、マレーシア、インドネシアの提携工場に生産を委託。あらゆる素材の中から顧客に最適な素材を選択し、設計する。

Nippon Packtoss(Thailand)Co., Ltd.

32/31 Soi Nawamin 135, Nawamin Road, Nuan-Chan, Bueng Kum, Bangkok 10230 Thailand
Tel:095-752-9436(TH)、090-2551-9270(JP)
E-mail:hayato.kosaka@packtoss.com
URL:https://www.packtoss.com/ja/

包装資材で進む脱プラスチックの動き

大手企業もプラスチックから紙へ

これまでパッケージの材料としてプラスチックが多く使われてきました。しかし近年、プラスチックごみによる海洋汚染が問題となっています。捨てられたプラスチックが海に流れ込み、海洋生物の体内に蓄積したり、人体に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

その中で、包装資材においても確実に脱プラスチックの流れが加速しています。SDGsの項目の中には、「海の豊かさを守ろう」「つくる責任つかう責任」などパッケージに直接関わるものもあり、業界として取り組みが進んでいます。

ソニーグループでは、2050年までに環境負荷ゼロの達成を目指す環境計画を立て、25年度までに小型新製品のプラスチック包装材の全廃を目標に掲げています。アップルでもプラスチックの排除、再生材の増加、容器包装全体の削減に取り組んでいます。

では、プラスチックの代わりとなる素材は何なのかーー。

ご存知の通り紙が現在のトレンドとなっています。

紙の原料は主に木材のため水に溶けやすく、土にも還るので環境に優しい素材です。ソニーも今年発売されたワイヤレスイヤホンのパッケージに環境に配慮した紙素材を使い、プラスチックは一切使用していません。

注目の素材「パルプモールド」

身近な例で言えば、卵の包装に使われている紙製のパックがパルプモールドです。  今は技術が進化して、きれいなパッケージが作れるようになっています。アップルをはじめとした大手ブランドなどではプラスチックからパルプモールドへの切り替えが始まっており、最近では食品、化粧品、雑貨などにも採用が広がってきています。

材料は主に新聞古紙、竹、バガス(サトウキビの搾りカス)などです。これらを金型で立体成型して作ります。なぜ竹などを加えるのかというと、紙はリサイクルを繰り返すと繊維が短くなっていきます。そこへ、繊維の長い材料を加えることで再びリサイクルすることが可能になります。

竹は繊維が長くて成長がとても早く、伐採しても環境破壊に繋がりません。バガスも従来は焼却処分されることが多かったのですが、繊維が豊富なためリサイクルに使われています。

最近では、新しい技術としてパルプインジェクションモールドという製法も注目されています。上下の金型で挟んでプレスするパルプモールドと違い、金型に充てんする射出成型(インジェクションモールド)のため、より複雑な形状を作ることができます。

コスト以外のメリット

プラスチックの方がコストは格段に安いですし、形もしっかり作ることができます。数量などにもよりますが、パルプモールドを採用することでコスト増に繋がりかねません。

それでも昨今は、長期的に見れば環境に配慮した素材を使うことでメリットがあるという考え方に企業も変わってきています。

ある高級腕時計メーカーでは、これまで使用していたプラスチックに代えて紙のケースの採用を予定しています。別のお客様は、ヨーロッパの顧客からプラスチックの使用を止めなければ今後は取引をしないとまで言われて、パルプモールドの使用を検討しています。“ここまで変えるのか”と驚くほどです。

弊社にも毎週のように日本やタイなどからパルプモールドに関する問い合わせがあります。それだけ、需要が増えているのを肌で感じます。需要が拡大していけば生産工場も増え、将来的にはコストの低減も見込めます。

もちろん、お客様の商品を見てパルプモールドではコストが上がり物流の効率も著しく悪くなると判断した場合は、別の素材を提案することもあります。あらゆる素材を扱っていますので、お客様の製品に最適な素材を「お客様視点」で選び、提案いたします。


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タイ農業 振興への道筋


ArayZ No.118 2021年10月発行

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THAIBIZ編集部

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