ArayZ No.109 2021年1月発行今すぐ取り組める!コスト削減
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公開日 2020.12.31
ABeam Consulting(Thailand)Ltd.
小倉 稚奈 Wakana Ogura
20年間にわたり、グローバル・ローカル企業の業務改革・コスト削減・新ビジネス戦略立案等、戦略立案・実行を総合的に支援。近年は顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援として、DXの成熟度診断、デジタル技術を活用した業務改善、分析テーマの洗出しおよび分析実施他をリード。
目次
昨年から世界各地で猛威を振るっている新型コロナウイルスは、各国の経済にも大きな影響を与えています。
タイも感染拡大防止を目的とした入国制限によって観光産業などが大きな打撃を受けています。昨年11月のタイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の発表によれば第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比△6.4%、通年のGDP成長率は△6.0%と予想され、回復までには長い時間が掛かることが予想されています。
そのような厳しい経営環境下で企業の業績は悪化しており、この危機を乗り越えるために多くの企業が業務の見直しやコストの削減に取り組んでいます(図表1)。
まだ本格的な対応に着手していない企業においては、今後、新型コロナウイルスによる影響の第二波、第三波がやってくる可能性に備え、早急に検討を進めることが求められます。
企業運営においては日々、様々な形でコストが発生しています。それらを改めて再検討することで、コストを最適化し、利益の確保に結び付けることができます。
一口にコストと言っても大きく3つに分けることができます。製品の原材料や部品など企業の製品やサービスに直接起因している直接材と、事務用品や賃料、光熱費など製品やサービスに付随的に発生する間接材、そして従業員の人件費の3つです。
また、全体の数量を減らしたりスペックを変更することによるコストの削減と、仕事のやり方を工夫することで作業負荷を下げる取り組みがあります。
作業負荷が下がるということは結果的に人件費などが下がったり、余分な仕事が減ることで紙の使用量が減ったりしてコストの削減に繋がります。
直接材は事業にダイレクトに関わる領域のため、それぞれの企業の知見を持って数量やスペック変更に取り組んでいる領域です。
間接材については、それらが果たして適正な価格なのか、価格データと比較しながら最適化を図ることができます。
人件費に関しては労働者は法律で守られており、コストを削減するための解雇という考え方よりも、仕事のやり方即ち無駄または非効率な業務を減らして、より価値のある業務へとシフトさせていく取り組みが重要になります。
収束の見通しを立てるのが難しいコロナ禍においては、従来の仕事のやり方を見直すBPRのご相談に加えて、一刻も早く業績回復を図るためにも「直接的にコストそのものを削減し、迅速に効果を出す」ご依頼が増えています(図表2)。
そのため弊社ではそれぞれの企業のコスト構造に対して、直接そして迅速に作用するコスト最適化ソリューションでご支援を進めています。次ページでは、短期的にコスト削減を図ることができる代表的な取り組みをいくつか紹介したいと思います。
①購買コスト削減(次項で解説)
現在の市場の最適な価格・提供ベンダーの情報と比較し、自社の間接材購買コストを各種方法で最適化させます。また、集中的な購買プロセスによる適正な価格・ボリュームでの購買によってコストを早急に適正化します。
②業務委託コスト最適化
委託範囲、サービスレベル、価格などを見直し、コストを削減します。作業の負荷によって料金は変動するため、委託対象業務であっても、事前に自社内で無駄な作業の削減や各部門でのやり方を統一するなどし、作業をスリム化させてから委託することでさらにコストを抑えられます。後述のRPAなどで自動化できない紙媒体でのマニュアル作業などが対象になることが多いです。
③在庫削減
在庫最適化に向けて在庫状況およびその原因となり得る種々の要素の全体的な分析を実施、発見された問題点に対する対応策を立案します(需要予測精度向上、安全在庫、調達リードタイム分析など)。
これによりバリューチェーンの各点における保有在庫を減らし、それに付随する保管スペースの賃料コストなどを削減します。短期的には、過去のデータと見比べて現在の在庫が多すぎないかどうかを確認して是正を図ります。長期的には、デジタル化によってバリューチェーン全体における企業間のデータ連携を進め、最少の在庫で回る仕組みの構築にも取り組みます。
④拠点統廃合
現代は小売りなどでEコマースが浸透し、多様な販売チャネルが存在します。ビジネスの変化に合わせて、リアル店舗の役割、存在意義を改めて考え、今配置しているエリアごとの店舗の必要性などを見直します。
⑤オフィス最適化(次項で解説)
新しい勤務体系へ変更することにより、必要なオフィスの機能・環境・面積を再検討して、オフィスの移転や賃貸面積の削減に繋げます。新型コロナウイルスの感染拡大以降、相談が増えています。
⑥業務プロセス自動化(RPAの導入)
RPA(Robot Process Automation)と呼ばれるソフトウェア型のロボットを使い、パソコンのデスクワーク(主に定型作業)を自動化し、従業員の作業負荷を低減します。特にどの会社でも実施しているような基本業務についてはテンプレートを用意して導入を加速させるようにしています。
⑦BPRの実施
BPR(Business Process Re-engineering)では、これまでのビジネスのスキームを抜本的に変更して仕事のやり方を再設計します。本来は業務改革として半年から1年ほど掛けて様々なテーマを設定し対応策を実施しますが、短期的には高い効果が期待できる3つの取り組みに注力して行うことも増えています。
少し話が逸れますが、これまでご紹介したコスト削減における手法においても、デジタル技術が大きなきっかけや役割を果たしています。
もちろん従来の業務改善・改革を検討される際にも、最新のデジタル技術の活用も視野に入れることで、さらにコストの直接的な削減や、業務のスリム化に繋げることも可能です。
①の購買コスト削減では、従来の名刺がQRコード型になりペーパーレスになることもありますし、②⑥のようにデータが電子化されたことによりRPAなどのツール・システム利用が進み、業務やコストそのものがスリム化されることもその一部です。
また③のバリューチェーンや自社内のサービス・商品・製品の流れをセンサーなどでデータ収集した上で分析し業務改善・コスト削減に活用することが可能です。
④はデジタルチャネル、⑤⑦はWork From Home等に代表されるデジタル技術を活用した業務スタイルにより発生したコスト削減の方法です。
弊社が、お客様企業のデジタルトランスフォーメーション(DX*)を支援させていただく際は、4つの象限で表します(図表3)。
今回ご紹介したコスト削減はDXの一角、主に左下の一部分にあたります。
こうしたデジタル技術を活用した業務改善・コスト削減は第一歩であり、無駄の削減や効率化で余力を生み出し、サービスや製品の高付加価値化、バリューチェーンの改革など、より成長領域に資源を投入して企業全体の変革に進んでいくことができるのです。
次ページ以降、特に短期間でコスト削減が見込める①購買コスト削減、⑤オフィス最適化について詳しくをご紹介します。
どんな企業でも水やペン、コピー紙など日々、様々な間接材を発注しています。間接材一つずつの金額は小さく、これ以上値段は下がらないと思われているかもしれませんが、それぞれの品目の適正価格を見逃している場合があります。複数年にわたり放置すると大きな金額で損をしていることもあります。
間接材の購買はどのようなオフィスでも行われており、社員が使用する文房具から、複合機やパソコン、社用車などのリース機器、清掃や警備といったサービスまで、見直す品目は多岐にわたります(図表4)。
これらの購買は長年の慣習で同じものを自動発注しがちで、より新しくて品質が良く価格も安いものに変更する機会を失っている場合があります。
バックオフィスで働く人員が多かったり、複数個所に跨っていたり、品目自体の数が多くなればその分削減効果も大きくなり、一度削減してしまえば効果は持続します。
まず初めに実施すべきなのは、品目毎のスペックの適正化です(図表5)。
後述の集中購買によるボリュームディスカウント交渉を行う前に、これを実施すると効果的です。まず社内でこれまで実施されている購買品と価格を取りまとめた上で、利用用途ごとに適正なスペックを決定します。
これにより、同じ用途でもスペックの異なる品目を全社各所で購買していた場合は、適切なスペックに統合することが可能です。
例えば、社内確認用の印刷に、非常に質の良いコピー用紙を利用していたとしたら、そこまで上質なものは不要であるということに気付くことができます。
この取り組みは、発注担当が複数に分かれていても情報を共有することで同じ適正化を行うことが可能です。
次に実施するのは、集中購買です。部門や地域拠点ごとなどで個別に発注していた間接材を、まとめて発注することにより、数量を大きくしてボリュームディスカウントが可能になる場合があります。自社は集中購買できていると思っていても、実際にヒアリングするとできていないケースがタイではまだ見られます。
集中購買を行うべき範囲(主に地理的な理由で分散することもあります)を特定し、適正価格を提供できるサプライヤーを選定して、様々な品目の価格を交渉します。品目に応じて、削減の工夫の仕方はそれぞれ異なります。年間の購入・レンタルコストが高い品目から実施すると良いでしょう。
この取り組みを行う際の成功の鍵は、前向きな活動として取り組むことです。
これまでの歴史の中で続いてきた購買経緯・方法も多いため、決して現在の購買担当者を責める活動になってはいけません。担当者の知見・社内のコミュニケーションが頼りになりますので、彼らの協力が不可欠です。
管理購買部門の責任者の方に、この取り組みを通じて皆で協力をして見直しを行い、いかにコストを下げることができたかを評価したいなどのメッセージを明確に出してもらうと、活動がスムーズに進みます。
ABeam Consultingでは、「特定の担当者に任せていてブラックボックス化している」「そもそも人手が足りない」「どうやって取り組んだら良いのか分からない」などと感じている企業に対して、品目数が多く見直しの工数も掛かる間接材のコスト削減をサポートしています(図表6)。
日本では上場企業において間接材は総費用の約10%~15%を占めるとも言われています。もちろんタイは物価も安く一概に同様の効果が出るとは限りませんが、削減余地は大いにあります。
ABeam Consultingは3つの購買情報データベースを活用します。一つはサプライヤーの業界動向や交渉ポイント、実施手順などをまとめており、各品目の単価をタイではどのように削減できるのかに関するノウハウを持っています。
また、タイにおける各品目の価格のデータベースを持っており、現在その企業が最適価格で購買できているかどうかをベンチマークすることが可能です。
さらに、ABeam Consultingの持つサプライヤーリストの中から、コストパフォーマンスと品質のバランスが取れた最適な取引先をご紹介することが可能です。
その上で、購買専門のコンサルタントにより、現状分析からサプライヤーに対する交渉代行まで実施します。
費用に関しても削減額に応じた成功報酬型を採用しており、企業の負担を最小限に、短期間で確実な成果を目指します。
某インフラ産業企業においては、まずはじめの2週間でタイの現地法人にて全社でどのように間接材の購買が行われているかヒアリングや関連資料の分析を行いました(図表7)。
これにより削減余地の高い品目を特定し、その中で先行して短期的に高い成果が期待できるクイックヒットとして進められそうな品目を診断することができ、後続の実行フェーズの実施判断が可能になります。
次に、高い効果の見込まれる一部の品目のクイックヒットプロジェクトを実施し、成功例を作って自信を深めてから他の品目の購買コストを削減しました。
所要期間はプロジェクト体制によっても異なりますが、本事例では、クイックヒットプロジェクトとして選択した1品目を約3ヵ月掛けて実施し、その後半年掛けて他の品目の購買コスト削減を実施しました。
結果的に、12%~20%の削減効果を出しています。
その他の企業へのご支援実績(図表8)から、図表9のような品目でコスト削減の余地があると考えています。
3ヵ月ほどの短期ではプリンターのトナーや粘着テープなどが削減効果を出しやすく、3ヵ月~1年ほどの期間となると書類保管倉庫の賃料や消防設備点検費用、社用車リース料などの削減にも取り組みます。
ABeam Consultingは日本やタイなどのアジア、アメリカ、ヨーロッパなど13ヵ国29拠点のネットワークを持っています。海外を含めた事例でも、3ヵ月程度で制服やコピー用紙、またはトイレットペーパーなど、10品目前後のコスト削減プロジェクトを実施し、物価や企業規模など国によって事情は異なりますが、10%~30%程度の削減効果が出ています(図表9)。
これらの他にも、ITコストや外注コストの最適化などの相談も多数寄せられており、ご支援しています。
新型コロナウイルスの感染拡大を機に広く浸透したのが、タイではWFH(Work From Home)とも呼ばれるリモートワークの導入です。新しい勤務体系の導入などによって、これまでのオフィス機能を見直し、コストを最適化することができます。
通勤中やオフィスでの感染防止のため各国で普及したリモートワークですが、オフィスに出社する人数が減ることで必要な面積が減り、より賃料の安いオフィスへ引っ越すことでコストを削減することができます。
従業員にとっても、感染リスクの減少に加えて、通勤時間がなくなることでプライベートや家族との時間が増えたり、自分のペースで仕事ができるといったメリットがあります。
デジタル機器が発達している昨今は、インターネットの活用などで物理的な拠点の機能が変化しています。
日本ではコロナ禍のリモートワーク導入時に、ハンコを押すために出社しなければならない社員もいました。一度はリモートワークを導入したものの、オフィスで行わなければならない書類の作業が多く、結局、通常の出社勤務に戻した企業もあります。
リモートワーク導入を通してこれまでの業務を見直し、無駄を省くことで、より生産性の高い働き方が可能になります。
移転の際は、現在入居するオフィスと周辺にあるオフィスビルの賃料単価を調査するほか、範囲を広げてグレードが同等なオフィスビルの賃料も比較します。ただ、契約途中の引っ越しは違約金が発生するため、諸費用のシミュレーションなども加味しながら検討します。
自社でオフィスビルを所有している場合は、リモートワーク導入を機に自社で使うオフィススペースを削減させることで、空いたスペースを他社に貸し出して収益を生むことも可能です。
いずれにしても、将来的にどのようなビジネススタイルに変革していくのかしっかりと方向性を固め、どんな機能がどこにどれくらい必要になるのかを改めて検討することが重要です。
某サービス業企業においては、はじめの2週間で全社でどのような機能がオフィスに求められるかを定義し、段階的なオフィス最適化計画を策定しました(図表10)。
次の2ヵ月の間に、オフィスでの業務を最低限の機能に限定し、その他の業務はリモートワークに切り替えました。同時にこの勤務状況に必要な最低限のインフラは社員に提供され、全社的に全員がリモートワークを行う曜日も設定しています。
その後は半年かけて、デジタル技術を都度採用・導入して社員同士が会議や業務連携を行えるよう促進し、さらにオフィス面積を縮小していきました。例えば承認行為の整理・統廃合と同時に電子署名の導入などが挙げられます。
これらにより社員がオフィスに出向く日数も削減しています。また物理的な改革だけでなく、生産的な仕事の仕方やマネージメントについても工夫をしています。
結果的に32.6%減の削減効果を出しています。
リモートワークの導入など積極的に働き方改革を進めるABeam Consultingと、タイでオフィスや工場などの事業用不動産の取得支援を手掛けるGDMに、昨今のオフィス事情やこれからのオフィス機能、働き方などについて語ってもらった。
25年以上、一貫して日本企業並びにアジア企業のグローバリゼーションを支援。近年は当事者として、日系企業であるABeam Consulting自身の事業成長とグローバリゼーションを牽引してきている。趣味は、タイの歴史とお寺巡り。
2008年より来タイ。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。タイ国内において90万㎡を超える不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。
原 2020年前半、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからはRPAによる業務プロセスの自動化、WFH(Work From Home)を前提とした業務プロセスの見直し、デジタル署名、コスト最適化などの非接触技術や生産性向上に関する問い合わせが多かったですね。また、ウェブ上であたかも実際のショールームにいるかのように歩き回ったりできるバーチャルショールームにも企業の皆様は興味を持たれています。
タイは新型コロナウイルスの感染が抑えられており、かつ日本からも人が入国できるようになって、後半には企業活動も随分戻ってきています。
高尾 私たち不動産業で転換点になったと感じるのが20年8月頃です。日本のお盆が明けた後から企業が動き始めました。土地建物の売買が一気に進んだのに加え、調査案件も動き出しました。例えば、ホテルを開業したいディベロッパーがタイのホテル需要が将来的に回復するかの事業性評価の再開や、戸建て住宅開発用地の調査といった案件です。
工場関連では購入を検討する企業もある一方、売却を考える企業もいらっしゃいます。余剰な資産を一部売却もしくは完全撤退も含めて検討したいという調査案件も動き始めています。その次に多いのがオフィス移転関係のご相談です。
原 新型コロナウイルスをきっかけに急速にリモートワークが広まりましたが、タイ国内の感染拡大が抑えられるのに伴って再び元のノーマルに戻ってしまった企業もあれば、これを機にオフィスの在り方を再考したいという企業もありますね。オフィスの機能、働き方を見直して、単純にコスト削減のためではなく新しい働き方に対応するためのオフィスを考えたいという動きです。タイも今後第2波、第3波が来るかもしれない中で特に考えなければいけない点です。
高尾 先行する具体的な事例が出てくると、追随する動きが生まれると思います。それは21年、22年あたりではないかと見ています。オフィス不動産がまさにそうで、トヨタモーター(タイランド)様がオフィスを移転されたという報道がありましたが、実際に最近も都心部にあるオフィスを郊外に移したいという企業様から相談がありました。ただ、大きなオフィスですのですぐに動かすわけにはいきません。次の契約更新が迫っており、移転できない可能性もあります。
オフィス移転には様々な要素が関与してくるため、意思決定に時間が掛ります。移転するのかしないのかを含めてシミュレーションをしておこうという企業が、まさに21年に出てくると思います。弊社でもそういった際のスケジューリングとコストシミュレーションを提供しています。
原 我々の現在の状況としては、バックオフィスも含めて90%の社員が週1日以上リモートワークをしており、1週間のうちリモートワークを2日、3日するのが主流になっています。また、毎週水曜日はオフィスを完全に閉鎖して強制的にリモートワークにしています。コロナ前と比べて睡眠、食事の満足度は5割から8割に上がりました。そして85%がリモートワークにより公私ともに充実したと満足しています。
高尾 御社はまさに自らをケーススタディとしてクライアントに見せることができますね。
原 私たちはワークスタイルトランスフォーメーションと呼んでいますが、その目的は生産性の最大化とエンゲージメントの向上です。新しい仕事のやり方で生産性をどう上げるのか。これからは色々な働き方に対応する必要があります。
例えば、一人で集中して作業したい人もいれば、コーヒーを飲みながら膝の上にパソコンを置き、カフェにいるような雰囲気で仕事をしたい人もいます。色々な働き方が可能になっていく中で、そういった環境をどれだけ提供できるかです。わざわざオフィスに来る理由がないなら、オフィスは要らなくなります。オフィスに来る理由が何なのかを定義し、それに合わせたオフィス機能を提供することが大切です。
もう1つの〝エンゲージメント〟の向上とは、従業員の従業員の満足度、幸福感といったエンゲージメントを高めるためにオフィスをどのように使うのかということです。この生産性とエンゲージメントという2つの軸に感染防止といった安全面を加えた3つの要素で、オフィスをうまく活用していかなければいけません。
高尾 オフィスの必要論としては、具体的に会う場所が要るという観点があります。
原 これからのオフィスには3つの機能が求められると思います。1つ目はおっしゃったように人が集って、コラボレーションを高めることは重要な機能になります。2つ目は、集中して仕事をする環境としての機能です。リモートワークでは、家で子供が走り回っていたり、家のインターネットの電波が弱くて仕事に集中できる環境がない社員が出てきました。そうした社員でも生産性を高めて仕事をするためのオフィスが求められています。
3つ目はオフィスのファシリティそのものです。例えば大きな画面やスクリーン、ホワイトボード、高性能カメラやマイクなどです。多い人数でオンラインミーティングを行うと、全員が小さな画面だけを使っているのは必ずしも効率が良くありません。そこで弊社では、会議をリードするファシリテーターはオフィスに来て、良い設備を使ってミーティングをするようにしています。参加者はリモートでも、ファシリテーターがオフィスの高度な設備を使うことで全体の生産性を上げる。こういった機能も求められると思います。
この3つの機能をどのように社員に提供すべきかを考える必要があります。例えば、後に取り上げた2つなら、必ずしも全員が出社する必要はありません。自宅の近くにそういったサテライトのような場所があれば、そこに行けば良いのです。
高尾 これからオフィスの在り方を考えようという企業にとってはまさに必要な知見になりますね。今はまだ、スペースが余ったので削りたい、もしくは事業継続計画の観点から複数に分散したいというのが主ですが、全体の生産性を上げながらオフィス移転という考えを御社のような企業に旗振りしていただくと、日本企業の生産性がもっと上がるのではないでしょうか。
移転のメリット、デメリットではどうしてもコスト面を主張してしまいがちになりますが、今日のお話を聞いて、これからは原様が話したようなオフィスの機能面も組み入れながら、お客様にご提案していきたいと思いました。そういった部分ではコラボレーションさせていただければと思います。
原 是非、よろしくお願いいたします。
今回取り上げたコスト削減・最適化の手法は短期間に成果をもたらすものに焦点を当ててご紹介しましたので、数ある内のほんの一部に過ぎません。また、複数の手法を組み合わせて行うことで効果はより高まります。
日本と比べて人件費や諸品目が安く、企業規模も異なるタイでは、同じ取り組みを行っても日本と同じような削減効果が出るとは限りません。しかし、コストはいつの間にか膨らむことはあっても、自然に減ることはありません。
しかも企業が新しい価値を創造し続けなければ生き残れないDXの時代において、できる限りコストを最適化し、人的にも金銭的にもリソースを付加価値の高い活動に有効活用することは不可欠です。コストを見直さない限り、毎年損をすることになりますので、できる限り早く着手することが重要です。
またビジネスの状況が変化し社内で必要な機能やリソースも変化していきます。さらには世の中の技術やサービスは日々進化していますので、絶えずその情報を持って活用することが重要です。そのため、これらコスト削減・最適化の取り組みは一度限りのイベントではなく継続的に無駄なコストを省く癖を付け、削減・最適化のノウハウを蓄積し、世の中の最新技術・サービスを把握していくことが大切となります。
無駄なコピー紙の出費を止める活動が、紙の使用を減らすために業務そのものをスリム化するBPRに繋がる効果もあります。コスト削減は業務改革の第一歩と言えるかもしれません。
そして、コスト削減の際にはトップの人間が覚悟を決めることも重要です。長年の慣習や取引先との付き合いなどもある中で、いかに例外を設けずに減らせるかはトップのリーダーシップに掛かってくるからです。また、誰かを犯人にする活動になってもいけません。あくまでも皆で協力して進めていくことが重要です。
2021年がどのような経済状況となるのかまだまだ予断を許しませんが、企業にとってはこれを機に様々な見直しを進めることで、好転の年となることを願ってやみません。
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THAIBIZ編集部
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