内部通報制度の活用状況と不正への対応

ArayZ No.145 2024年1月発行

ArayZ No.145 2024年1月発行アジアとともに未来を創るスタートアップと創造都市

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内部通報制度の活用状況と不正への対応

公開日 2024.01.09

事業を成長させていく上では、リスク管理も重要となる。内部通報制度の導入により、組織内の課題の芽を早めに発見することが1つの手段として考えられる。デロイトでは2023年3月31日から5月1日にかけて、内部通報制度を管理するアジアパシフィック地域各地の企業等の方を対象にサーベイを実施した。同サーベイの目的は、内部通報に関する各組織の能力や対応を深堀りしまとめることであり、各社における内部通報制度の活用状況について分析を行った。本記事においては同サーベイから一部結果を抜粋して紹介しながら、各組織における内部通報制度の取り組み状況を共有する。

調査結果

回答者のプロフィール
対象国 :アジアパシフィック各国
回答数 :500件以上(内、200件以上は非英語圏)の回答
組織形態 :上場企業44%、非上場企業48%、その他8%
役職 :74%は経営幹部・取締役クラスや 内部監査/コンプライアンス/法務等の責任者
業種 :コンシューマー、建設、産業機械、輸送・物流、テクノロジー・メディア・通信、ライフサイエンス、ヘルスケア、金融、その他専門サービス、公共サービス、行政

内部通報制度の重要度について

まず、内部通報制度を組織内でどの程度重視しているかに関する回答結果から見ていきたい(図表1)。内部通報制度の優先度が高いと回答した割合は58%であり、やや優先している32%と合わせると合計で90%となった。このことから、基本的にどの組織においても内部通報を重視していることが確認できた。

過去の報告内容について

次に通報内容の種類をみると(図表2)、不正行為や利益相反、贈収賄といった本質的な不正/法令違反の他、不公正な人事(48%)やセクハラ(25%)といった組織内におけるより広範な問題に関する問い合わせが多かった。このことから、職場や地域社会において、より広範な問題が内部通報の対象となっており、内部通報の役割が高まっていることを示している(本質的な不正の検知のみならず、組織内の様々な課題の芽を早期に発見することが可能である)。

内部通報制度の運用について

制度の周知方法:内部通報制度を従業員へ周知する方法について、社内イントラネット及び研修で行われることが多く、半数の組織においては従業員ハンドブックに記載するなどの対応も見られた。他方で定期的なメール通知など積極的な周知というよりは受け身の形(イントラネットに掲載するのみ)での運用が目立った(図表3)。

通報窓口の種類:続いて、各組織で設置している通報窓口の種類を見ていく。設置されている通報窓口としては、Eメール及びホットラインが最も多かったが、これは比較的コストがかからず設置が可能というメリットがあるためと推察できる(図表4)。

内部通報制度に関する課題について

内部通報に関する課題に目を向けると(図表5)、そもそも従業員が内部通報制度の独立性を懸念している(60%)や報復行為に対する不安(42%)など、従業員側で実際に同制度を利用することへの不安を持っていることが分かった。

また同時に、従業員に対する周知不足(58%)など、企業から従業員への周知も十分とは言えないことから、制度導入で終わるのでなく、実際の運用及び独立性・安全性について丁寧に説明することが重要である。

更に、通報内容の審査や多言語対応などに対する社内リソース不足も課題の一つとして挙げられており、解決のためには外部アドバイザーのサービスも上手く活用することが求められる。

外部の内部通報プロバイダー活用の勧め

サーベイ回答者の48%は、何らかの形で外部の内部通報サービスプロバイダーからサポートを得ていると回答した。一方で42%は内部通報制度が完全に社内で運用されていると回答しており、外部プロバイダーを活用しない理由として、コスト及び機密性のある情報を第三者に委ねることへの不安が考えられている。

他方、外部という経営陣から独立した形で内部通報制度が運用されることで、制度に対するステークホルダーの信頼が高まることが期待され、従業員からの通報インセンティブを高める効果も期待できる。これによって組織風土が向上すると同時に、コンプライアンス強化が期待される為、より堅牢な組織構築を目指し外部プロバイダーの活用を検討することをお勧めする。


各グラフ出所:2023年 アジアパシフィック 内部通報調査レポート

本記事は、原文(英語)でまとめられたオンラインサーベイの内容を基に、デロイトトーマツグループが日本語に翻訳・加筆した「内部通報調査レポート」を基に筆者が執筆したものです。同レポート及び原文(英語)とで差異が発生した場合には、原文を優先いたします。尚、上記「内部通報調査レポート」をご希望の方はご遠慮なくお問い合わせください。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

寄稿者プロフィール
  • 谷口 純平 Jumpei Taniguchi プロフィール写真
  • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory Services / Manager谷口 純平 Jumpei Taniguchi

    Deloitte入社以来、一貫してM&A・事業戦略をテーマに活動。特に各関係者の調整やスピード感を持ったプロジェクト推進で高い評価を得ている。主な実績は、大手ファンド向けBDDと事業戦略検討。総合商社のクロスボーダーM&AのPMIリードなど。2020〜22年8月タイ駐在。同年9月〜シンガポールに赴任。

    TEL:+65 (0) 8-763-6373
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  • 柴 洋平 Yohei Shiba プロフィール写真
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    Financial Advisory / Manager
    柴 洋平 Yohei Shiba

    大手生命保険会社、大手電機メーカーを経てDeloitte入社。M&A関連や事業戦略策定、マーケティング支援などのプロジェクトに従事。入社以来、金融・テクノロジー・ライフサイエンス・消費財・電力など幅広い業種における支援をリード。22年8月からバンコクに赴任、特にPre M&AやPMIに力を入れて活動中。

    TEL:+66 (0) 6-3079-4893
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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.<Financial Advisory>

Deloitteは会計・財務・税務・M&A等のサービスを世界各国で行うプロフェッショナルグループの一つであり、 主にタイの日系企業様向けにM&Aやリストラクチャリング/再編に関わるサービス提供を行っております。

AIA Sathorn Tower, 23rd – 27th, Floor11/1 South Sathorn Rd. Yannawa, Sathron, Bangkok 10120

https://www2.deloitte.com/jp/ja.html?icid=site_selector_jp

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Financial Advisory Associate Director

谷口 純平 氏

商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。

【谷口 純平】
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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.

デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

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