ヘルスケア市場の成熟と新たなビジネスチャンス

THAIBIZ No.153 2024年9月発行

THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法

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ヘルスケア市場の成熟と新たなビジネスチャンス

公開日 2024.09.10

タイは実質的に国民皆保険制度となっており、国民の健康を支えてきた。しかし近年、高齢化の波が押し寄せ、医療費の増大は政府にとって大きな負担となりつつある。そのようなタイのヘルスケア市場ではあるが、成熟し課題がある中でも、新たなビジネスチャンスも生まれてくるのではないかと予想される。本稿では保険制度の概要を紹介すると共に、仮説を交えて市場の今後を考えていきたい。

タイの健康保険制度:国民の健康を支える3つの柱

タイには、主に3つの健康保険制度が存在する。公務員とその家族を対象とする公務員医療給付制度(CSMBS)、民間企業の従業員を対象とする社会保障制度(SSS)、そして上記以外の国民を対象とするユニバーサル・カバレッジ・スキーム(UCS)である。

CSMBSは、財務省が運営し、国庫から予算が充てられている。公務員とその家族約500万人が対象で、自己負担なしで幅広い医療サービスを受けられるメリットがある。SSSは、労働省が運営し、被用者と雇用主の保険料および税を財源としている。

民間企業の従業員約1,600万人が対象で、医療費の一部が給付されるメリットがある一方、給付額に上限があり、高額な医療費は自己負担となる。UCSは、保健省が運営し、国庫から予算が充てられている。上記以外の国民約5,000万人が対象で、低額な保険料で基本的な医療サービスを受けられるメリットがある一方、医療機関の混雑や待ち時間が長い場合もある。

これらの制度に加え、民間保険も広く利用されている。病院を選ぶ際には、加入している保険制度、医療機関の専門性、設備、医師の評判などが一般的には考慮される。

タイの保険制度の現状:増大する医療費と課題

タイでは、高齢化や生活習慣病の増加により、医療費が年々増大している。各制度においても、財政難や医療サービスの質のばらつきなど、様々な課題が顕在化している。CSMBSは高齢化による受給者数の増加と医療費の高騰に直面し、SSSは保険料収入の減少と医療費の増加により給付水準の維持が課題となっている。UCSも医療機関の過剰利用や医療資源の偏在が問題視されている。

今後のビジネスチャンス:4つの有望領域

タイのヘルスケア市場は、医療費の増大による保険制度維持が難しくなりつつあるという課題を抱えながらも、民間企業にとってビジネスチャンスとなる可能性もある。以下、4つの有望なビジネス領域を詳しく紹介する(医療バリューチェーン上の各プレーヤーとの関係は図表1を参照)。

①オンライン健康増進・疾病管理サービス

タイ国民の健康意識の高まりや医療費抑制に関する関心の高まりを受け、健康増進や疾病管理サービスが近年ローンチされている。例えばタイのヘルステックスタートアップ「OOCA」は、個人の健康データに基づいたパーソナライズされた健康アドバイスを提供するアプリを開発し、大手病院チェーンから出資を受けた。

また、タイの遠隔医療プラットフォーム「Doctor Raksa」は、医師と患者をオンラインでつなぎ、遠隔診療や健康相談を提供している。現在はシンガポールのDoctor Anywhereに買収されたものの、引き続きタイにおける遠隔医療プラットフォームのナンバーワンの存在になっている。今後、こういったサービスの需要がさらに伸びていくものと予想される。

②病院事務代行・セントラルキッチンサービス

最低賃金の引き上げなどにより、病院の経営環境は厳しさを増している。日本では受付、会計、診療報酬請求といった医療機関向けの事務代行サービスや、病院向けのセントラルキッチンサービスなどが提供されているが、タイにおいては現在そこまで一般的ではないと想定される。外資規制があるため外国企業には取り組みが難しい可能性はあるが、病院経営が苦しくなればこういったサービスにニーズが生まれる可能性はある。

③医療情報管理のデジタル化

タイでは、医療情報のデジタル化が課題となっており、電子カルテの普及率は50%程度と言われている。医療情報管理システムの導入は、紙カルテの電子化だけでなく、診療データの共有や分析、AIによる診断支援など、様々なメリットをもたらす。タイ政府はeHealth戦略を策定し、医療データの電子化に取り組んでおり、こういった領域でもビジネスチャンスはあるものと想定される。

④医療サービス適正化(マネージドケア)

タイでは、保険制度別の民間医療保険の占める医療費の割合が約3割程度と、民間保険の役割が意外と大きい。民間保険においては、医療費の過大請求や医療費の高騰が問題になるケースがある。医療サービスの適正化を図るためのマネージドケアという仕組みがあり、保険会社が医療機関と契約し、加入者の医療費や治療内容を管理することを指す。

具体的には、保険会社が医療機関のネットワークを構築し、加入者はそのネットワーク内の医療機関を受診することで、質の高い医療サービスを適切な価格で受けられる。また、保険会社は、医療機関の診療内容や費用を審査し、過剰診療や不正請求を防ぐ。タイではまだ普及していないが、医療費抑制と質の高い医療サービスの提供を両立する手段として、今後注目される可能性がある。  

(※注)本文中の意見や見解に関わる部分は見であることをご了承ください。出所:経済産業省「医療国際展開カントリーレポート 新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報 タイ編」、高等教育科学研究イノベーション省「タイのヘルスケア産業の現状と投資機会」、Techsauce「Ooca BDMS Closes Series A Investment Deal」、Bangkok Post

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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Associate Director

谷口 純平 氏

商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。

【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
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柴 洋平 氏

大手電機メーカー等を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2022年8月からDeloitteバンコク事務所に出向し、M&A関連業務や市場調査業務などに従事している。

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デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

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