THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想
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カテゴリー: ビジネス・経済
連載: Deloitte Thailand - M&Aの基礎
公開日 2025.01.10
2024年のタイの実質GDP成長率は、高止まりしている家計負債により下押しされている。一方で観光客数は回復傾向が続いており、2025年はさらに伸びるとの予測もある。本稿では、タイにおけるM&Aのトレンドを振り返ることで、2025年のビジネスにおける明るい兆しを探る。
2024年のタイの実質GDP成長率について、タイ国家経済社会開発委員会は2.3〜2.8%、世界銀行は2.4%程度と見込んでいる※1
。世界銀行の予測は2024年7月のものであるが、2023年12月時点での予測では3.2%であったため※2
、下方修正したこととなる。依然2023年の1.9%よりは高いものの、高止まりしている家計負債が下押し要因となっている。
2024年の第2四半期時点では、家計負債はGDPの89.6%に達している。300万バーツ以下の住宅ローンは70%前後が否認されていると言われており、依然経済に暗い影を落としている。2024年第2四半期までの新規住宅ローンの実行は前年同期比で-10.1%となっており、不動産業界が厳しい状況にある※3
。また、特にピックアップトラックを中心とした自動車販売の落ち込みも顕著であった。
一方で明るい兆しとして、観光客数の回復傾向が続いている。昨年は外国からタイへの観光客数が2,820万人であったが、今年は7月時点で既に2,060万人、年末までに3,650万人に達すると見込まれている。これがさらに2025年には3,900万人になるとの見込みもある※1
。
※1 Deloitte “Thailand’s Economic Outlook 3Q2024” https://www2.deloitte.com/th/en/pages/about-deloitte/articles/thailand-economic-outlook.html
※2 JETRO「世界銀行がタイの2024年GDP成長率を2.4%と予測、二次都市の成長に期待」https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/905d7a3a19efea27.html
※3 Deloitte “Thai Housing Market Faces Challenges, Future Trends to Monitor”
このような経済状況ではあったが、タイにおけるM&Aは図表1に示すような状況であった。業界別のM&Aの件数(公表案件のみ)をこちらでまとめており※4
、弊社にご相談いただいている内容も踏まえてどのようなトレンドであったのかを振り返っていきたいと思う。
※4 SPEEDA、各社プレスリリース等を元にデロイト分析
製造については件数が前年の3件から6件に増えているが、実はこの6件のうち4件が合併の案件であった。昨年に民商法の改正で吸収合併が可能となり、徐々に制度の利用が進んできている印象がある。また冒頭で述べた通り、特に裾野の広い自動車業界の状況があまりよくないこともあり、長年タイでオペレーションを続けてきたことにより増えた法人を減らし、効率化することを検討している日系企業が増えている印象がある。
吸収合併について、税務面では実行の際にタックスルーリング(Tax Ruling)に従い全事業譲渡とほぼ同じ取扱いとなり、かつ事業譲渡よりもライセンス等の継承がやりやすいこともあり、法人の再編の有力な選択肢となっている。
しかし一方で、事業パートナー等の外部株主がいるため、二の足を踏んでいるケースも散見される。外部株主からすると、合併することで株式の保有比率が減ってしまうケースが大半であり、難色を示される場合もある。そのような場合は、合併で生まれる各種シナジー(主にコスト効率化のシナジー)で配当が増えることを訴求する、また株主間契約で議決権に関する事項を設定するといった形で交渉するような手もある。
また、従業員からすると、ややもするとポストが減ってしまうなど、ネガティブな捉え方をされる場合もある。実際に取り組む場合は、コスト効率化だけでなく会社の再成長に向けてどのような道筋を考えているのかということを示していくことが肝要であると考えている。従業員に対し合併をアナウンスする際は、労務対策やオペレーションの再編など実務的な面に焦点が当たりがちではあるが、合併を通じてどのような会社にしたいのかということを改めて振り返ることも、スムーズな移行には大切である。
コンシューマーのM&Aが2023年に比較すると増えているが、これは食品関連のディールによるものである。実際に弊社に食品関連のM&Aのご相談は多く寄せられており、食品製造業だけでなくコールドチェーン、食品包装といった多様な領域で買収ニーズは高いと感じている。
背景として、①タイにおける食品製造業のレベルの高さ、 ②観光客数の回復が挙げられると考えている。①については、タイはフードバリューチェーン上で高いシェアを持つ商品が多く存在する。例えば、タイは世界で第4位の鶏肉の輸出国であり、日本でも多く消費されている。
また、ツナ缶を中心とした水産加工食品も伝統的に強く、インスタント食品の輸出も世界で5位である。外資も含む2,000社以上の食品包装メーカーがタイには所在しており、食品に係る幅広い領域に強みがある※5
。
※5 タイ投資委員会「タイの食品・農産品産業に対する投資奨励策」https://www.boi.go.th/upload/content/BOI_JP.pdf
東南アジアの中でも、タイは全体的に食品関連の事業のレベルが以前から高く、日本の会社が投資するのに適したクオリティを持つ会社が多くあるものと考えている。例えば、タイを食品製造のハブとして活用し、東南アジアの事業展開を進めていくような戦略も想定される。
また、②については、冒頭触れた観光客数の回復に伴い、食品含むコンシューマー系の商品の市場が拡大基調にあることも後押ししているものと考えられる。
ここで挙げた2つのトレンドは一過性のものではなく、2025年も続いていくものと考えている。何かと暗い話題が多い状況ではあるが、観光客数の回復や引き続き底堅い食品製造業など、明るい兆しもあり、2025年は日系企業においては効率化も進みつつ、新規投資も増えていくことを願っている。
(※注)本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをご了承ください。
THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想
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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Associate Director
谷口 純平 氏
商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。
【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
[email protected]
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Manager
柴 洋平 氏
大手電機メーカー等を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2022年8月からDeloitteバンコク事務所に出向し、M&A関連業務や市場調査業務などに従事している。
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。
Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html
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