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連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2025.05.23
コピー機の販売を軸に、1967年からタイで事業を展開してきた富士フイルムビジネスイノベーションタイランド。近年は提案型ソリューション営業への転換に加え、地方拠点の再編や代理店との連携による新カバレッジ戦略も推進中だ。タイに合わせた営業変革の背景や今後のビジネス拡大の展望について、同社の柳谷正明社長に話を聞いた。
(インタビューは4月22日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
柳谷社長 : 富士フイルムビジネスイノベーションの前身となる富士ゼロックスは、1962年に富士写真フイルムと米ゼロックスによる50:50の合弁で設立され、独立性の高い経営を続けてきました。2001年、米ゼロックスの経営危機を機に富士フイルムの連結子会社となり、その後、製造や技術で優位性を確立。2019年には完全子会社化に伴い、2021年に現社名へと改称しました。
柳谷社長 : タイの事業は2027年で60周年を迎えます。富士ゼロックスが設立された5年後にバンコク支店を開設しました。
きっかけの一つは、当時アジアに駐留していた米軍や米国企業でコピー機を使用する必要があり、そこからサービスを始めたという経緯があります。その後、日系企業のタイ進出の流れに伴い、日本と同様のコピー機レンタルや保守サービスを提供するようになりました。
その後、タイを皮切りに周辺国へと順に事業を展開し、ASEAN地域でのビジネスを広げていきました。当時のコピー機ビジネスは、アメリカや日本で確立されたサービスモデルをそのまま輸出する形で展開していたのが特徴です。
柳谷社長 : 当社では、複合機、ソリューションサービス、グラフィックコミュニケーション(印刷業向けデジタル印刷)の3事業を展開しています。なかでも複合機は創業当初からの中核事業であり、現在も多くのお客様にご利用いただいています。2010年頃は売上の約半分を日系企業が占めていましたが、現在は2割以下にまで減少し、顧客はタイ企業が中心になっています。
現在は複合機のドキュメントコミュニケーション機能とその顧客基盤を活かし、FUJIFILM IWproやIT Expert Servicesといったソリューションサービスへの転換を進めています。単なる製品提供から、業務効率化や情報活用を支援する提案型の営業へと軸足を移し、業務プロセスの自動化や文書管理の最適化など、デジタル技術を活用した価値提供を強化しています。
柳谷社長 : 当社の営業部門には300名ほど在籍しており、まずは小規模な顧客を担当し、徐々に経験を積んで大手顧客を任されるという育成型のモデルを採っています。提案内容も、単なる複合機の販売に加えデジタルサービスの提案を伴うものへと進化しています。
そのため最近では、業種別(製造業・物流・金融など)のチームを設け、それぞれの業界に特化した理解力と課題解決力を高めています。また、営業活動の質と再現性向上のため、顧客関係管理(CRM)ソフトを活用し接点管理と分析も徹底。これは、富士フイルムビジネスイノベーション全体としての強みでもあり、直販営業体制の競争力を支えています。
柳谷社長 : 2021年以降、全国一律でカバーしてきた直販体制を見直し、現在はバンコク中心の11県に集約。その他66県は、パートナー企業に販売・保守を委託する「チャネルトランスファープロジェクト」を進めてきました。価格競争が激しくなる中、地方での直販体制はコスト的にも限界があり、対応エリアを分けることで、サービス品質と営業効率双方の向上を図っています。
柳谷社長 : 当然、地方で長年働いてきた社員の中には戸惑いもありました。また、直販の縮小によって短期的な売上減も避けられませんでした。それでも、地方のオペレーションを地元に根差したパートナー企業に委ねることで、より地域に密着した柔軟な対応とコストの最適化が可能になり、バンコク周辺の11県に集中してソリューション営業に注力できる体制が整いました。エリアを明確に分けたことで、営業戦略もよりクリアになっています。
柳谷社長 : タイ市場は、東南アジアの中でも人材の流動性が高いため、業務プロセスの標準化や自動化といったDXの取り組みが非常に重要です。
単純作業が多く残る現場では、デジタル化によって業務を効率化し、従業員がより付加価値の高い仕事に集中できる環境を整えることが、生産性の向上と人材育成の両面で鍵となります。
また、変化の激しいサプライチェーンや政策リスクへの対応力を高めるためにも、業務データの蓄積と活用による意思決定支援が不可欠であり、タイ市場はDXソリューションの導入によって競争力を高める余地が大きいと考えています。
当社では、営業担当一人ひとりが、お客様に伴走して仕事の生産性を高める「デジタルソリューションコンサルタント」として成長できるよう、人材育成に取り組んでいます。
柳谷社長 : 今後はタイ市場を起点に、業種別アプローチやソリューション営業のノウハウをASEAN諸国へ横展開していきたいと考えています。ただし、単なるコピーではなく、それぞれの国の文化や業務慣習に適応したローカライズが不可欠です。基本的な戦略の骨組みは共有しつつ、各国の販売会社で協力してビジネス拡大を進めていきたいと考えています。
同時に、属人性から脱却し、タイ人リーダーが主体的に動ける体制づくりも進めています。個人プレーではなく「コーポレーション」、互いの挑戦を支え合う「トラスト」の考え方を軸に、現地主導の営業とサービス体制の強化を図っています。
柳谷社長 : 現地の一体感を高めるため、 1300名の社員のうち特に200名のマネージャー層との直接対話を大切にしています。日本人同士で固まらず、日々の現場の声を拾うことで、経営と現場の距離を縮めています。
また、単なる即戦力採用ではなく、「育てる文化」「継続的な学び」を重視。転職が多いタイだからこそ、社員一人ひとりが成長を実感できる環境をつくり、現地の人材とともに価値を築く経営を目指しています。
富士フイルムビジネスイノベーションタイランド
柳谷正明 社長
1997年に富士ゼロックスに入社。バブル崩壊後の日本市場で20年間営業として携わった後、2018年に初の海外・ベトナムへの赴任を経て、2021年より現職。
THAIBIZ編集部
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