公開日 2024.03.26
東京都中小企業振興公社(東京SME)は2月21日、電気自動車(EV)産業のイノベーション促進を目的に日本とタイの起業家がそれぞれの技術情報を交換し、EVサプライチェーンでの協業の機会を模索する「日タイEVスタートアップピッチ2024」を開催した。その第1部では「タイのEV振興戦略やテクノロジー開発の現状や今後の展望」についてタイ政府機関の代表者が講演。第2部では日タイEV関連の先端技術を持つ日本とタイのスタートアップ企業4社ずつ合計8社がピッチを通じて、それぞれの技術やソリューションをアピールした。
目次
今回のイベントの開会あたり、東京都中小企業振興公社の矢田部裕文専務理事が主催者挨拶をし、「現在、世界中でEVの開発競争が繰り広げられている。日本やタイでも、数多くのスタートアップ企業がEV産業に参入し、公道上や商業施設、工場、農地、地域コミュニティーなど、さまざまな場所での人やモノの移動に関する社会課題の解決に挑戦している。日本企業とタイ企業が連携して革新的なアイデアやビジネスモデルを構築し、オープンイノベーションを促進するため、本イベントを開催した」と説明した。
一方、タイ工業省産業振興局のワッチャルン・ジュイジャンローン副局長が来賓あいさつで、「昨年の日本のタイへの投資額は300億バーツを上回り、トップを維持した。その大半は自動車部品、電子部品などの製造業分野だ。自動車産業に関しては、タイは既存の内燃機関(ICE)車産業を維持すると同時に、EV化を進めていく。これはタイをEV産業とICE車産業で世界のリーダー的な生産・輸出拠点にするためだ」と訴えた。
続く基調講演では、タイ工業省産業経済事務局(OIE)のグリット・チャンスワン副局長が登壇し、2023年12月16日に開催された「日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」出席のため訪日したタイのセター首相と日系自動車メーカートップとの会合を報告した上で、日本の自動車メーカー4社がタイでEVへの投資を拡大する計画を持っており、今後5年間の投資額は1500億バーツに達すると見込みだとのタイ投資委員会(BOI)の発表を改めて紹介した。そして同氏は、「タイをEVとEV部品の生産拠点にするために振興策を実施する。当初のEV政策では主にEV乗用車を対象としたが、今後は、電動バスやEVトラックに焦点を合わせていく」との方針を明らかにした。
グリッド氏はさらに4500人以上のシステムインテグレーター(SI)の人材育成や185のロボットと自動化システムのプロトタイプを開発するなどのEV産業を支援する取り組みを表明。具体的には、「現在、システム・インテグレーターとして認定した企業は121社だ。さらに、生産工程を自動化するための投資促進を申請した企業は271社となった。その投資総額は277億1000万バーツで、タイでのEVと関連部品の生産拡大につなげていく」と述べた。
一方で同氏は、「現在、使用済みバッテリーの再利用により付加価値を生み出すため、タイでのバッテリー管理に関する基準やガイドラインを検討している。タイ工業団地公社 (IEAT)は、ラヨーン県でバッテリー再利用向けの工業団地の造成を検討しており、振興策とガイドラインを策定していく」ことも明らかにした。
続いて、タイ国立エネルギー技術研究所(ENTEC)の低炭素研究グループ長を務めるヌウォン・チョンラクップ氏も基調講演を行った。同氏は2023年のバッテリーEV(BEV)の登録台数について、「約7万6300台のBEV乗用車が登録されたが、これは全乗用車の登録台数約63万4948台の12%に相当する。タイのEV支援政策は軌道に乗っており、このままのペースならタイ政府が推進する『30@30』政策は達成できるだろう。また現在、電気バスとEVトラック市場に参入する起業家が増加している。この市場ではまだ競争が少ないため、タイでも大きな可能性を秘めている」と見通しを示した。
第2部の日本とタイのEVピッチイベントに登壇したのは以下の8社だ。
<日本>
・Terra Charge(Thailand)=ハード、ソフトの「eMobility」事業をプラットフォームとして次世代交通インフラの構築、アジア全体での展開を目指す
・ORLIB=独自のシリコン負極を使った高機能2次電池で世界最高レベルの蓄電量を達成
・NOCO NOCO=長寿命・高耐熱性を達成した画期的なバッテリー技術を中心にカーボンニュートラル社会の実現を目指す
・eMoBi=EV3輪車を基軸としたモビリティー事業を展開する
<タイ>
・UVOLT=コンケン大学発の新世代電池により、地球に優しい社会の実現を目指す
・Gen Surv Robotics=搬送ロボットのエキスパートで、タイの自動化のパイオニアとして、物流システムのEV化を推進し、エコ・フレンドリーな社会を創造する
・Siam Able Innovation=EVイノベーションで障害者に移動の自由を与え、快適・安心な社会を実現する
・Thai Architect(TACT)=農業機械の自動化を推進し、タイの農業を守る
ピッチ終了後、タイ国家イノベーション庁(NIA)のシニアマネージャーのウクリット・キットシリチャローンチャイ氏がタイ政府によるEV開発支援策や開発事例を紹介した。具体的には「2024年に『Mandatory Innovation』という補助金を始めた。これは技術革新のプロトタイプの開発や機能テスト、基準テストなどを行う起業家を対象に一部を補助するものだ。国家的なイノベーションであり、産業に経済効果を生み出すことができるプロジェクトが対象だ。申請資格は、タイ人の株主が51%以上いることや明確な事業計画があるなどだ。EV事業では①EVインフラと重要部品②EVソリューション・プラットフォーム③乗用車やトラック、バイクなどのEV開発-の分野で募集している」と説明した。
TJRI編集部
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