日系、「揺れ」への備え鈍く~地震1年、タイの変化は(1)

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日系、「揺れ」への備え鈍く~地震1年、タイの変化は(1)

公開日 2026.05.12

NNA掲載:2026年3月26日

2025年3月28日に発生したミャンマー中部を震源とするマグニチュード(M)7.7の地震は、タイの首都バンコクで長周期地震動を引き起こした。建設中の政府庁舎ビルが全壊したほか、多くのビルで壁の剥落や亀裂などの被害が出た。交通も一時まひし、地震リスクが低いとされてきた都市の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りとなった。発生から1年を前に、NNAはタイの日系企業に当時の影響や講じた対策を尋ねるアンケートを実施。「地震対策をしていない」と答えた企業は6割に上った。

NNAは在タイ日系企業を対象に、2月20~27日にアンケートを実施し、有効回答社数は118社となった。業種別では製造業56社、非製造業55社、その他2社で、無回答が5社だった。

ミャンマー地震によるタイでの企業活動(操業・物流・調達など)への影響を尋ねたところ、「影響がなかった」が96件(81.4%)で最多だった。「影響が出たが、現在は解消した」が22件(18.6%)、「影響がまだ続いている」はゼロだった。

影響の内容は、「安全確認のため一時的に業務を停止・見合わせ」が最多で13件。「従業員の出社困難・帰宅命令」が11件で続いた。「その他」としては、ビル内での漏水や安全確認のため、在宅勤務に一時切り替えたとの声も複数聞かれた。「納入予定の案件が中止となった」「在庫が損傷し、保険金を請求した」との回答もあった。

タイ拠点のオフィスや工場などに物理的な被害があったかを尋ねたところ、「被害があった」との回答が45件(38.1%)寄せられた。企業活動への影響は限定的だった一方、オフィスや工場などの物理的被害は一定数に上った。回答企業のうちバンコクを拠点とする61社に限ると、物理的な被害があったのは38件(62.3%)に達した。

物理的な被害があった箇所を尋ねると、「オフィス(建物自体)」が38件で最多。「オフィス什器(じゅうき)」「倉庫(建物自体)」「工場(建物自体)」「電気、水道などのインフラ」「在庫」などの意見も若干数みられた。

物理的な被害への対応方法については、「壁の塗り直し、ガラスの交換など軽微な対応を実施した」が39件で最多。「設備・IT機器などの修理・更新を実施した」との回答も5件あった。

対策「していない」が6割超

タイでの地震対策については、「地震対策はしていない」が76件(64.4%)と最多。「地震対策を見直した」が23件(19.5%)、「地震対策を初めて策定した」が19件(16.1%)だった。先の質問で「地震で企業活動に影響が出たが、現在は解消した」と答えた企業の中でも、「地震対策はしていない」との回答が9件あった。

地震対策を策定した・見直したと答えた企業にその内容を尋ねると、「社内連絡網や安否確認の整備」「避難場所の確認」が各17社で最多。「防災訓練の実施」が13社、「帰宅命令の判断ルール」が10社と、ソフト面での対応に着手した企業が多かったようだ。「その他」の回答では、「地震以外も含めた防災対策全般を見直した」「大型装置へ感震器を設置した」「外部倉庫の保険加入状況を確認した」「在宅勤務を導入した」との回答も寄せられた。

一方、「地震対策はしていない」と答えた企業にその理由を聞くと、「今後のリスクを低くみている」が32件で最多。「現状の対策が十分だと感じる」が22件、「実効性が分からない」が13件、「従業員からの要請がない」が10件と続いた。

「これから実施予定がある、または実施したい地震対策」を聞くと、「特にない」が43件に上った。「社内連絡網や安否確認の整備」が31件、「情報・データ消失への備え(バックアップ)」が20件、「避難場所の確認」「帰宅命令の判断ルール」が各18件と続いた。

自由記述回答では、「事業継続計画(BCP)に地震発生時の行動指針を追加した」「全従業員と来客用にヘルメットを準備した」「高層階の賃貸オフィスからの移転を検討している」などとの回答が集まった。

ハードとソフト両面の対策を

タイの地震の特性について、建設材料工学が専門でタイのタマサート大学などでも教える、埼玉大学の睦好宏史名誉教授はNNAに対し、地域によって大きく違うと説明した。活断層が集中するタイ北部ではこれまでも地震の発生頻度が高かった一方、バンコク近傍が震源となって地震が起こることはほとんどなかったという。今回のミャンマー地震では震源から約1,000キロメートル離れたバンコクにも揺れが及び、軟弱な地盤で増幅されて、ビルや長い橋などに大きな影響を及ぼす長周期地震動を起こしたと解説した。

タイでは07年に耐震基準が改められたが、それ以前から立つ建物も多い。また建築から40~50年を超えるとコンクリートや鉄筋が劣化し、耐震性が徐々に失われてくる。こうした建物について睦好氏は、「今回はたまたま被害がなかったかもしれないが、次回も全く被害が起きないとは言えない」と指摘する。

今後のハード面での地震対策としては、「簡単なものでいいから耐震診断を受けるのがいい」と勧める。診断後、専門家の助言に従って、必要な対策や補修、補強を進めるべきだという。また柱や床といった、建物を支える構造部材に大きなひび割れが入っていると、構造的に弱くなっていることが十分考えられる。この場合も耐震診断を受けるのが望ましいとした。

NNAのアンケートでは、「建物にひびが入ったが、修繕せずそのまま使用している」と回答した企業が複数社あった。睦好氏は、「構造に関係ない化粧壁などのひびは、すぐに耐震性能の低下につながるとは考えられない。ただ、ひび割れの種類にもよるが、水が入ってくると中の鉄筋がさびることもあるので、補修はしておいた方がいい」と話した。

低層の工場や倉庫でも、天井や壁、重量物が落下しないための対策のほか、防災訓練などの社内教育も必要だとした。地震に備えた防災や減災では、「ハード・ソフトの両面から、どちらも手を抜かないことが重要だ」と強調した。

「低リスク」前提に揺らぎ

アンケートの結果を見ると、企業の備えはソフト対策中心で、リスク認識にもばらつきがみられた。一方、タイの政府や研究機関では防災体制や建築基準の見直しが進み、設備・保険の分野でも地震リスクを織り込む動きが強まっている。日系企業にも、地震を「低リスク」として片付けない備えが求められそうだ。

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