東南アジアのコンテンツ市場動向と日系企業の事業機会(前編)

THAIBIZ No.173 2026年5月発行

THAIBIZ No.173 2026年5月発行いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由

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東南アジアのコンテンツ市場動向と日系企業の事業機会(前編)

公開日 2026.05.11

高市政権「17の戦略分野」の一つとして、日本政府が海外展開を積極支援するコンテンツ領域。東南アジア市場も大きな伸びが期待されるなか、前編となる本稿では、当地域での事業機会を探る日本企業に向けた基礎情報として東南アジアコンテンツ市場の現状を概観する。

東南アジアコンテンツ市場動向

日本発コンテンツを東南アジアへ

日本コンテンツ(ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写等)の海外売上が約5.8兆円に達し(2023年)、「半導体産業・鉄鋼産業の輸出額を超えた」として、日本の基幹産業の一つに位置付けられて久しい。

「2033年日本発コンテンツ海外売上20兆円」という政府目標のもと、経済産業省が日本コンテンツの海外展開「重点国」4ヵ国の一つにインドネシアを挙げ、また日本貿易振興機構(ジェトロ)が全世界7都市に設置する「コンテンツ海外展開支援拠点」をバンコクに置く等、東南アジアは国をあげて注視されるホットな地域となっている。

成長する東南アジアコンテンツ市場

東南アジアのコンテンツ市場規模は、例えばインドネシアが276億米ドル・2022〜2027年の成長率7.82%、タイが174億米ドル・同4.19%と大幅に拡大中だ※1
※1 出所:経済産業省「令和5年度補正文化芸術コンテンツ・スポーツ産業海外展開促進事業」最終報告書

2025年公開の「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」がタイで約700万米ドルの興行収入(2025年9月時点)を記録。またバンコクで2025年に開催された「gamescom Asia x Thailand Game Show」には4日間で約20万6,000人が来場と報じられている例からも、その熱量の高さがうかがえる。

進む日本企業の市場進出

こうした追い風を受け、日本のコンテンツ関連事業者による東南アジアへの拠点設立や現地企業に対する買収・出資・提携の動きは近年一段と活発化している(図表1)。

出所: デロイト作成

近年の進出傾向から読み取れるのは、日本にとっての東南アジアの位置付けが「制作委託先」から「市場」、さらには「新規事業・IPのインキュベーション拠点」へと質的に転換しつつある点であろう。

東南アジアと日本コンテンツの関係は長く、1990年代に東映アニメーションがアニメの仕上げ工程を担う合弁会社をフィリピンに設立する等、制作拠点としての進出は以前から行われてきた。その後2020年前後を境に地域統括会社の設立が増え、直近では新規IPの共同企画・制作を見据えた現地企業とのパートナリングも見られるようになっている。

東南アジア市場の競争環境変化

一方で、「アニメ・マンガ・ゲームといえば日本」という一強構造を前提にした戦い方は、すでに見直しを迫られている。その背景には、少なくとも二つの変化がある。

①中国・韓国系プレイヤーの存在感拡大 

Tencent(中国)は、2010年にタイ最大級のWebポータルSanook Onlineへ出資・2016年完全子会社化、また2017年にタイUGC(ユーザー生成コンテンツ)投稿プラットフォームOokbeeと合弁会社設立、2020年にはマレーシア動画配信プラットフォームiFlixのコンテンツ・リソース等を取得するなど、コロナ以前から多角的に域内事業基盤を強化してきた。

またNAVER(韓国)は、2014年のタイ語版Webtoon(オンラインマンガ配信)サービス開始を皮切りに各国版を展開しており、タイやインドネシア発の複数のマンガ作品がアニメ・実写映画化されるなど、現地発IP創出のエコシステム形成にも貢献している。

さらに、動画配信サービスBilibili(中国)の展開するBstationが低価格プランや広告付きの無料視聴オプション等を武器にユーザー基盤を拡大し、日本アニメだけでなく中国アニメへの接触機会も増加。

その他、「POP MART」や生活雑貨チェーン「MINISO」、雑貨専門店「KKV」といった中国系のIP商品小売も東南アジア各国で急速に店舗数を伸ばしており、デジタルと併せて実店舗の商品・店頭体験を通じても中国発のトレンドが継続的に流入する環境が形成されている。

②東南アジア発IPの台頭 

加えて、東南アジア発のグローバルIPも登場。インドネシアのアニメ映画「Jumbo」(2025年)は公開後2ヶ月で興行収入2,470万米ドルを超え、30以上の国・地域への販売・配給が決定するヒット作となった。

また、タイのいち菓子店のマスコットキャラクターとして生まれた「Butterbear」はダンス動画が中国のSNSで注目を集め、アジア圏を中心に広くファンを獲得。店舗には国内外から客が殺到し、2024年売上が前年比約73倍の5億4,487万バーツ(約1,690万米ドル)へと急成長したほか、タイ政府観光庁の観光客誘致キャンペーンにも起用された。

これら中国・韓国・東南アジアプレイヤーは、日本企業にとって脅威となりうる一方で有力なパートナーにもなりうるため、プレイヤー層の厚みが増すこと自体は産業全体の発展のため歓迎すべき側面もある。

しかし、このような環境下で日本コンテンツが今後も熱狂を生み続けるためには、コンテンツ・グッズの輸出やライセンスアウト(第三者への自社IP使用許諾)を超えた、より戦略的かつ立体的な事業展開が求められる局面にあるのは間違いないだろう。

後編では、こうした事業環境変化の中で日本企業はいかなる勝ち筋を描きうるのかを考えていきたい。

(※注)本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをご了承ください。

Deloitte SR&T (Thailand) Co., Ltd.
Senior Manager, TMT Industry

喜多 めぐみ 氏

2016年デロイトトーマツコンサルティング参画、2024年よりDeloitte Southeast Asiaに出向。東南アジア主要国を対象に、メディア・エンターテインメント領域を中心とした市場調査・新規市場参入戦略策定、事業戦略策定案件等に参画・リード。
E-mail: mkita@deloitte.com


Director, Strategy / M&A, TMT Industry

渡辺 敏弘 氏

新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社し、ハイテク・TMT業界中心に戦略策定やM&A支援を担当。2020年よりDeloitte Thailand事務所へ出向し、東南アジアの日系TMT業界をリード。
E-mail:toswatanabe@deloitte.com

Deloitte SR&T (Thailand) Co., Ltd.

デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

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