EEC×大阪市が都市間連携で脱炭素社会の実現へ 〜サステナビリティへの投資活況〜

THAIBIZ No.159 2025年3月発行

THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術

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EEC×大阪市が都市間連携で脱炭素社会の実現へ 〜サステナビリティへの投資活況〜

公開日 2025.03.10

近年、持続可能な経済成長の鍵として「脱炭素化」や「グリーン経済」が注目を集めている。タイにおいては、日系製造業が多く進出する東部経済回廊(EEC)が、産業ハブとしての地位を確立する一方で、環境対策への対応が急務となっている。

こうした背景を踏まえ、EECと大阪市は1月28日、都市間連携プログラムの一環として「EEC地域におけるサステナビリティへの投資機会」セミナーをチョンブリー県パタヤで開催した。同セミナーのハイライトを紹介し、日本企業の投資機会や日タイのグリーン経済に向けた取り組みを探る。

投資トレンドのキーワードは「サステナビリティ」

開会挨拶では、EEC事務局(EECO)のチョラチット・ヴォラワンソー・ヴィラクン事務局長補佐が登壇し、EECの投資動向について「これまで日本企業のEECへの投資累計額は2,065億バーツに達している。

近年はサステナビリティ関連への投資がトレンドであり、特にバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済を推進している」と説明した上で、「EECでは独自の投資恩典を提供しているが、環境に配慮した投資であることが必須となっている。脱炭素社会の実現に向けて、大阪市との都市間連携を通じて日本企業とタイ企業の協力を推進していく」と訴えた。

EEC独自の投資恩典制度で、脱炭素社会を加速

投資恩典といえば、タイ投資委員会(BOI)の制度が最もよく知られているが、EECでも独自の投資恩典制度を設けている。チョラチット事務局長補佐は、「EECでは特定の産業クラスターごとに投資優遇措置を設け、企業ごとにカスタマイズされたインセンティブを提供している。

企業が恩典付与の要件を満たした場合、ビザ・労働許可の優遇措置や長期的な税制優遇を受けることができる」と説明し、EECの投資恩典制度の仕組みとして次の「3T」を紹介した。

1. Targeted Investment(投資対象):対象地域として27の工業団地、EECa(航空都市)やEECd(デジタルパーク)など8つの経済特区、EECに承認された特定事業者の施設を指定。対象産業クラスターは、「医療・健康」「デジタル」「次世代自動車」「BCG」「サービス」の5つ。

2. Tailor-made Incentives(個社に合わせた奨励):最大15年の法人税免除、10年間の法人税50%減税、関税の免除・減免などの恩典を提供。

3. Total Solutions for Starting Operations(操業開始のためのトータルソリューション):高度人材を対象に最大10年間滞在可能なEECビザ・労働許可証を発行(扶養家族の滞在権も付与)。

2023〜2027年までのEECの環境計画では、持続可能な事業投資を目的として、①廃棄物および環境汚染管理、②天然資源の保全、修復、維持、および持続可能な利用、③持続可能な生活と事業運営の促進、④関連セクターの強化—の4つの戦略分野を定めている。同事務局長補佐は、「脱炭素社会の実現には、クリーンなモノづくりへの技術移転等が必要となる④関連セクターの強化が最も重要だ」と訴えた。

EECへの投資状況について、「2018〜2023年までの国別投資順位では、タイを除いて日本と中国が1位だった。2018〜2024年第3四半期までの日本からEECへの投資総額は、60億6,800万ドル(2,065億1,400万バーツ)、プロジェクト件数は513件だった。産業別では次世代自動車が22億3,300万ドル(760億500万バーツ)、146件で最多となり、次いでデジタルが11億2,800万ドル(383億9,200万バーツ)、67件だった」と報告した。

都市間連携による脱炭素化の加速

日本最大手の総合技術コンサルティング日本工営の環境技術部長の石川賢氏は、都市間連携事業について、「大阪市とEECの協力はすでに6年以上にわたり、現在も脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進行している。当社ではこれまで多くの都市間連携プロジェクトを手掛けており、タイでもそのノウハウを移転していく」と考えを述べた。

大阪市とEEC間の具体的な施策として、「①温室効果ガス(GHG)排出量ゼロに向けた政策対話の実施、②ノウハウや技術活用による脱炭素ドミノ開発、③日タイの企業間のネットワーク構築によるモデルの作成、④カーボンニュートラル達成に向けたカーボンクレジット作成支援—の取り組みを行っている」と説明した上で、過去の活動内容を紹介した。

同社は、技術コンサルティングサービスの提供に加え、日本の環境省が推進する「二国間クレジット制度(JCM)」の枠組みを活用した事業も複数手掛けている。石川氏は参加者に対して「JCMを活用した海外進出を希望する企業はぜひ問い合わせて欲しい」と呼びかけた。

JCMとカーボンクレジットの活用

JCMは、脱炭素化を推進する上で日タイ両国の企業にとってメリットをもたらす制度である(図表1)。

出所:環境省およびTGOの公開資料に基づきTHAIBIZ編集部が作成

タイ温室効果ガス管理機構(TGO)カーボンクレジット認証事務局のパウィーナー・パーニッチャヤピチェット氏は、タイにおけるJCMの活用について「タイでは昨年末時点でJCM支援事業として48プロジェクトが実施中であり、そのうち5件がすでにクレジットを発行している」と報告した。

日本企業がタイで低炭素技術を導入する際、「JCMの枠組みを活用すれば、最大で50%の補助金を受け取ることができるため、日本企業はコストを抑えながら環境負荷を削減し、さらにカーボンクレジットを活用した利益創出も可能となる。カーボンクレジット発行後は、日タイ間で取引ができ、GHGの相殺が可能となるため、両国の企業にとってもメリットがある」と強調した。

一方で「補助金の支払いには、プロジェクト件数の上限がある点に注意が必要である。例えば太陽光発電のような人気のある技術は、すでに上限数を超えているため、補助金申請はできない」と付け加えた。

リーン&クリーンなモノづくりで脱炭素化を加速

セミナー後半では、「産業界がネットゼロに向けて脱炭素化を推進する方法」をテーマに、各界のキープレイヤーが集まりパネルディスカッションが行われた。

パネルディスカッションの様子

サイアム・デンソー・マニュファクチャリングのティーラワット・リムピバンテン社長は、デンソーの脱炭素化への取り組みについて「2020年を基準値として、工場から排出されるCO2を2035年までに65%削減する目標を掲げている」とした上で、具体策として「電力由来のCO2は再生可能エネルギーへの切り替えを進め、ガス由来のCO2についてはカーボンクレジットで相殺している」と説明した。

製造部門では、省エネに加え、エネルギーの可視化やイノベーションを活用した低カーボン素材の開発、リサイクル可能な素材への転換、バイオ燃料や水素の活用などが重要となるが、アジア諸国では日本ほど技術が進んでいないため、「リーン&クリーンなモノづくりのコンセプトを取り入れ、環境投資と競争力のバランスをとりながら、カーボンニュートラルの実現を目指す」と強調した。

またモビリティ製品分野では、「ハイブリッド車(HEV)やバッテリー式電気自動車(BEV)、燃料電池自動車(FCEV)に加え、電動垂直離着陸機(e-VTOL)など、あらゆる先端技術を活用した脱炭素製品の開発に取り組んでおり、カーボンニュートラルの実現に貢献していく」との考えを示した。 

サステナブルファイナンスを通じて、脱炭素投資を促進

続いて、三井住友銀行(SMBC)の油井宏一郎バンコック支店長は、SMBCグループの脱炭素化の取り組みについて、「われわれも事業会社と同様に、サプライチェーン全体のGHG排出量のスコープ1、2、3に取り組んでいる」と述べた。スコープ1は自社の事業運営に伴う直接排出、スコープ2はエネルギー使用に伴う間接排出、スコープ3は投融資に伴う排出を指す。SMBCでは特にスコープ3が課題となっており、業界別に見ると「①電力、②石油・ガス、③化学製品の3業界が排出量の大半を占めている」という。  

油井支店長は、「これらの業界の顧客と協力して取り組むことが不可欠だ」とした上で、「関係機関とパートナーシップを組みながら、脱炭素の研究開発や排出量削減の計算方法、エネルギートランジションなどの支援を進めている」と説明した。同グループでは、2030年までにスコープ1、2のネットゼロ、2050年までにスコープ3のネットゼロを目指している。

また同グループでは、サステナブルファイナンスにも注力している。例えば、風力や太陽光発電などへの貸付を行うプロジェクトファイナンス、省力化・脱炭素化を支援するグリーンローン、社会課題に貢献するソーシャルローン、脱炭素重要業績評価指標(KPI)の達成に応じたインセンティブが設定されるサステナビリティ関連ローンなど、多様な金融商品を展開。2030年までに50兆円のサステナブルファイナンスを達成する見込みで、そのうち20兆円をグリーンファイナンスに割り当てる方針だ。

EECの有機廃棄物管理事業ハブを目指す

チョンブリー県で天然ゴム加工を手がけるタイ・イースタン・グループ・ホールディングス(TEGH)のシニーヌット・コーカヌターポーン社長は、同社の事業について「天然ゴム加工を主要事業とし、パーム油生産や再生可能エネルギー事業、有機廃棄物事業を展開している」と説明した。

脱炭素化への取り組みとして、シニーヌット社長は「EEC域内に大規模な発電所を構え、パーム廃棄物を活用した再生可能エネルギー発電を推進している。2030年までに発電量の50%、2040年には100%を再生可能エネルギーにする目標を掲げている」と述べた。さらに「発電した電力は自社で使用するだけでなく、パートナー企業や顧客にも供給し、グリーントランジション(環境負荷の少ないエネルギー転換)を推進している」と強調した。

近年、タイでは産業廃棄物管理規制が強化されている。同社は700ライ(約1,120ヘクタール)の敷地内の緑化を進めるとともに、ゼロ・ウェイスト(廃棄物をエネルギー等に変換し、廃棄物をゼロにする取り組み)の研究開発にも注力している。「パーム廃棄物をエネルギーに変換し、排水をパーム農園で再利用するなど、廃棄物を一切出さない完全なリサイクルシステムを構築中だ」という。

また、持続可能な事業運営の一環として、化学肥料から有機肥料への転換も推進している。同社長は「これにより土壌の質が改善され、CO2排出量の削減にも貢献している。この取り組みは取引先農家にも展開しており、農家の生産性向上と収益向上も目指している」と明かした。

こうした取り組みの背景には、同社の顧客が、タイ政府の目標よりも15年早いネットゼロ達成目標を掲げていることも関係している。同社長は、「顧客の要望に対応するためには政府の支援策を待つのではなく、自らサプライヤーを支援していく必要がある」とし、ネットゼロを達成するには、「①持続可能な活動であること、②費用対効果が高いこと、③長期的に対応可能な投資であること」の3点が重要だと指摘した。

脱炭素化は費用対効果の高い省エネから

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局長兼海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所長の藤岡亮介氏は、カーボンニュートラル達成に向けた企業戦略として、以下4つのステップに切り分けて対応する必要があると提言した。

1. CO2排出量を可視化し、具体的な脱炭素化計画を立案する

2. 費用対効果の高い省エネ施策から着手する

3. 再生可能エネルギーを中心としたグリーン燃料を導入する

4. 水素やバイオマスなどカーボンニュートラル燃料と関連設備を導入する

その上で、藤岡氏は「日本企業が集積するASEAN地域において、日本政府は①人材、②資金、③ルールの3つを重点分野として支援している。これら3つが供給されることで、日本企業は脱炭素化に向けて自主的に行動を起こしやすくなる」との考えを示した。

また藤岡氏は、ネットゼロ達成の成功要因として、「1つ目は、脱炭素に関心の低い企業をいかに巻き込むかだ。電気代や燃料費などのコスト削減という視点から改善活動への参加を促すアプローチが有効である。2つ目は、人材育成にかかる時間を、デジタル技術の活用や外部との連携により短縮することである。自社でできない部分は、得意とする企業に任せることで、規模の経済が働き、結果的にファイナンスコストの低減にもつながる」と持論を展開した。

ワンストップソリューションでカーボンニュートラル達成を目指す

産業機器を取り扱うユアサ商事のタイ法人ユアサ・トレーディング(タイランド)のエネルギーソリューション部門ディレクターの藤﨑宏樹氏は、「サプライチェーン全体で省エネや脱炭素化が急務となっている今、当社は日本での省エネコンサル・施工に関する500以上の導入実績を持つ。タイにおいてもエンジニアリング会社や現地スタッフと連携を図り、工場の現地調査やCO2の削減ポテンシャルの診断から機器の導入まで、一気通貫でソリューションを提供可能だ」とし、これまでの導入事例を紹介した。

省エネ・再エネ設備の導入には初期投資が必要となるため、JCMをはじめEECやBOIの減税制度の活用が有効である。同社では、タイでJCMを活用した空調設備制御機器やバイオマスコージェネレーション設備の導入実績があり、今後も補助金申請やJCMの活用を積極的に提案していく方針だ。

EECはタイの脱炭素化を主導できるか

脱炭素化には新たな投資が必要で、特に中小企業にとっては大きな負担となる。ティーラワット社長らが指摘するように、環境対策は重要だが、利益確保ができなければ、持続可能な取り組みとはいえない。一方で、JCMなどの政府支援策だけなく、大手企業が提供している支援を積極的に活用することもサプライチェーン全体の脱炭素化において重要である。

藤岡氏が提言するようにコスト削減の視点から、企業の関心を高め、いかに巻き込んでいくかが鍵となる。産業の集積地であるEECがそれを主導していけるのか、今後の動向も注視したい。

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THAIBIZ編集部

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