カテゴリー: ビジネス・経済, カーボンニュートラル
公開日 2022.08.30
セメントや建築資材から、化学、包装容器など広範囲の事業を展開するタイ大手財閥企業サイアム・セメント・グループ(SCG)は7月19日、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内でのESG(環境・社会・企業統治)を強化し、世界的な危機への対処を目指す「ESGシンポジウム2022」を開催した。今号のFeatureではタイ企業のESGへの取り組み事例として同シンポジウムを紹介するとともに、環境やESG投資に対するタイの消費者意識を調査・分析したカシコン・リサーチ・センターのリポートを掲載する。
今回のシンポジウムのタイトルは「Achieving ESG and Growing Sustainability」で、低炭素社会への移行を目標に、政府と民間部門、そして女性、若者など315グループが参加。特に地球温暖化、新型コロナウイルスの後遺症、インフレ、エネルギーコストの上昇といった危機後のESGでの連携強化と温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロのイノベーション開発に向けて、タイ初のコンソーシアムを今年末までに発足させることで合意した。コンソーシアムはエネルギー、ロジスティクス、電力、石油化学、建設、消費財などのさまざまな民間業界の経営幹部と研究者で構成され、国内外の官民連携を推進するという。
さらに民間部門はバリューチェーン全体でのグリーン経済ネットワークの積極拡大を宣言するとともに政府と低炭素社会支援に関する協力について議論。具体的には、クリーンで再生可能なエネルギーの使用を促進するインフラストラクチャー、グリーンファイナンスの支援、効率的な廃棄物管理システム、ごみの分別の促進、持続可能なデザインなどが含まれるという。
バンコクのバンスー地区にあるSCG本社内に開設されたパネル展示会場ではSCGのスタッフが、「Cleaner-gy」と命名したエネルギーリサイクルシステムや浮体式太陽光発電システム、チュラロンコン大学と共同研究しているハイブリッドセメント、サイアム・クボタと共同で取り組む土壌改良・メタンガス削減ソリューション、農業残さからの燃料ペレット製造、小売り流通企業と連携したリサイクル事業などを紹介した。
SCGのルンロート社長兼最高経営責任者(CEO)は今回のシンポジウムに関するプレスリリースで、「過去11年間、毎年開催してきた(持続可能性達成に向け循環型経済を促進するための)SDシンポジウムが今回のESGシンポジウムにつながった。次から次へとわれわれに迫っている危機に対処するために、ESG指針に従ってコラボレーションを拡大していく。このプラットフォームはグローバルな連携を地域に提供し、変化と具体的な危機解決策を生み出す。例えば、タイのセメント・コンクリート業界とグローバル・セメント・コンクリート協会(GCCA)は共同でGHG排出量を実質ゼロにするロードマップを作成し、11月にエジプトで開催される国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で発表する予定だ。また、海洋プラスチック廃棄物問題に持続可能な方法で取り組むため、製造業者、供給業者、消費者までプラスチック産業のバリューチェーンの企業で構成される世界的な非営利組織『プラスチック廃棄物をなくすための連合(AEPW)』と協力している」と報告した。
同社長はさらに、「家庭、コミュニティー、地域レベル、世界的な協力における過去の認識と行動にもかかわらず、指数関数的に増加し、人類に迫った世界の危機にわれわれはまだ対応できる段階にない。これは予測不可能な気候、深刻な干ばつ、洪水、不十分な資源、食糧危機、そして世界中のエネルギー不足などだ。この状況は、新型コロナウイルス流行、新たな感染症、社会的不平等の格差を拡大するインフレと貧困によって悪化している」指摘。「ESGシンポジウム2022は世界の危機を乗り越えるために、より多くのコラボレーションを加速させる。これは環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)のすべてをカバーする」と訴えた。
また、同シンポジウムでは東南アジア諸国連合(ASEAN)のリム・ジョクホイ事務総長が「Towards a resilient ASEAN Community」 と題する基調講演を行った。同氏はまずASEAN経済の現状について「新型コロナウイルス流行がASEANの経済成長、特に観光分野に大きな影響を与えている。しかし、この危機はASEANにとってテクノロジーやデジタル経済分野の投資家の注目を集めるチャンスであり、成長への大きな可能性となる」と概観した。
その上で「現在、世界が立ち向かわなければいけないのは環境、経済、社会などあらゆる分野に影響を与える気候変動の危機だ。アジア開発銀行(ADB)のリポートによると、気候変動は今世紀末までに東南アジアの経済成長率を11%低下させるという。将来の成長と天然資源の安全保障のバランスを早急に見出さなければならない。ASEAN共同体と国連機関および非ASEANのパートナーは「ASEANコミュニティ・ビジョン2025」を推進するために、①貧困撲滅 ②インフラと接続性 ③持続可能な天然資源管理 ④持続可能な消費と生産 ⑤国家経済社会のレジリエンス-という5つの分野からなるガイドラインを共同で策定した」と報告した。
さらに、「ASEAN共同体は過去1年で資源を最も効率的に利用し、廃棄物の発生を抑えるための循環型経済の概念を採用し始めている。今年の行動計画は農業、エネルギー、輸送の3つの産業に焦点を合わせる。温室効果ガスの排出量が最も多く、二酸化炭素の排出を削減するための新技術開発を最も推進しているグループだ。将来的には他の産業にも拡大していく予定だ」との方針を明らかにした。
カシコン銀行の調査会社カシコン・リサーチ・センターは7月27日、環境の持続可能性やESG(環境・社会・ガバナンス)投資に関する消費者の行動や考え方の調査リポートを発表した。ここでは、SCGに見られるように企業がESG重視姿勢を強める中で、消費者がどう見ているかを知る手掛かりとして同リポートの概要を紹介する。
同リポートはまず、微小粒子状物質PM2.5 、気候変動、新型コロナウイルス流行が問題化した後、消費者の環境問題に対する意識が非常に高まったと指摘。一方で、政府の規制や環境問題の解決に向けた動きから、企業がESGや持続可能性に関する情報を開示する事例が増えているが、これは組織の良いイメージを作り、より多くの投資家に事業に投資してもらうために、自分たちのパフォーマンスを報告しなければならなくなったためだと説明した。
同リポートによると、日常生活に最も影響を与える環境問題は排水、PM2.5、ゴミなどの公害問題で、次に気候変動、気温上昇、干ばつ、洪水、暴風雨、森林火災などの自然災害だと認識されている。そして消費者は環境問題を減らすために、例えば包装材もプラスチックなどの使い捨て製品ではなく、生分解性のある天然素材の製品を選ぶ、廃棄物は分別するなどと生活習慣を変えつつある。
また、メーカーや事業者は環境に配慮した製品・サービスの価格を抑える必要がある。環境負荷低減に貢献するために、より多くのお金を支払うことを望む消費者がいることが分かった一方で、アンケートに回答した消費者の66.3%が購入や環境に配慮したサービスを従来の商品より20%高の水準以下の価格で購入することを望んでいるという。
同調査によると、消費者は環境に配慮した製品やサービスの価格は市場の他の製品よりも高いと認識しているものの、事業者が消費者の意思決定に役立つ他の情報を伝えれば製品の価値を判断できるという。例えば、化学物質を含まない包装材や、生分解性がある、信頼できる機関による認定があるなどだ。調査対象の消費者の32.0%が環境に配慮した製品は高価だと考えている一方で、10.7%がそのような製品では環境問題を解決できないと考えている。
また、環境に配慮した製品を選ぶことに関心を持っている消費者の比率の業種別ランキングは、食品・飲料が71.4%でトップだった。以下、石鹸・シャンプー・洗剤などの消費財が49.3%、自動車が34.7%、事務機器が33.9%、電気機器が33.3%、ソーラーパネルなどの省エネ機器が31.2%などと続いている。
カシコン・リサーチがESGのコンセプトを導入している企業や事業への投資判断について調査したところ、回答者の95.8%以上が事業を運営する上でESGの要素を含めるべきと考えていることが分かった。さらに85.7%が投資判断にESGを考慮していると回答した。
これらの調査結果を踏まえ、カシコン・リサーチは、環境問題の解決はあらゆるセクターの協力によってもたらされ、特に政府の支援が必要だと強調。例えば、メーカーがより環境に優しい製品を生産するためには消費者が許容できる範囲内で価格を通常より高く設定するインセンティブや、メーカーがより環境に優しいパッケージ製品の使用を変更するためにプラスチック、使い捨ての禁止などの規制措置を導入するなどの対策が考えられる。
また消費者は、実際に環境負荷の低減に役立てば製品やサービスにより高い価格を支払う選択もするという。そして今後、消費者はESGの課題解決を企業に期待するようになり、企業がESG課題に伴う問題に直面した場合には投資撤退を検討するリスク要因にもなる。刻々と変化する世界情勢の中で消費者とメーカーが異なる文脈の条件に直面する可能性もあり、企業はその文脈、条件、状況に適した戦略やビジネス手法を見出し、消費者ニーズに応え、変化し続ける状況に対応できるよう準備しておく必要があると結論づけている。
TJRI編集部
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