アジアのエネルギーと移動手段の未来を模索 ~ PTTグループなど150社以上が出展 ~

アジアのエネルギーと移動手段の未来を模索 ~ PTTグループなど150社以上が出展 ~

公開日 2022.08.02

タイのエネルギー省は7月20~22日、国営タイ石油会社(PTT)、PTTエクスプロレーション・アンド・プロダクション(PTTEP)、イベント企画会社DMGイベンツと共同で「フューチャー・エナジー・アジア(FEA)」と「フューチャー・モビリティー・アジア(FMM)」の2つの展示会を開催した。会期中にはアジア地域のエネルギー政策当局者や世界各国の民間企業幹部ら130人以上が講演するサミット会議やネットワーキングイベントも行われた。

写真:FEA / FMA主催者提供

FEAは今年が4回目で、アジア地域各国のエネルギー相や、将来のエネルギー転換を担う民間企業トップが集まるとともに、ガスや液化天然ガス(LNG)、再生可能エネルギー、電力分野の専門家4000人以上が参加した。一方、FMMは今回が初開催。アジアでのクリーンで自動運転可能な移動手段を推進するのが狙いで、アジア各国政策当局者や世界の技術リーダー・専門家など6000人以上が集まった。

展示会場はバンコクのバイテック国際展示場の1万4000平方メートルスペースにFEAとFMM合計で150社以上が出展。FEAの会場は主に「水素」「ガス&LNG」「カーボンキャプチャー(炭素回収)」「再生可能エネルギー」の4つのゾーンに分けられた。その中では二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)事業のコンソーシアムの展示が注目された。

写真:FEA / FMA主催者提供
写真:FEA / FMA主催者提供
写真:FEA / FMA主催者提供
写真:FEA / FMA主催者提供

エネルギー転換とEV車の目的は表裏一体

20日に行われた開会式ではまず、タイ・エネルギー省のプレムルタイ副次官が登壇。「われわれは現在、新型コロナウイルス危機とエネルギー危機とともに、エネルギーの大変革という課題に直面している。タイは国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、2050年までにカーボンニュートラル、2065年までに温室効果ガスの排出をネットゼロにする目標を発表した。国家エネルギー計画2022では、持続可能な将来に向けエネルギーにおける安定と競争、そして世界を救うというコンセプトの下で、グリーンでクリーンなエネルギーを目指している。それはDecarbonization、Decentralization、Deregulation、Digitalizationの4D政策によって運用される」と強調した。

タイ・エネルギー省のプレムルタイ副次官 = 7月20日、バンコク

同副次官は一方で、「タイは現在、電気自動車(EV)や自動車部品の世界的な生産拠点になりつつある。国家電気自動車政策委員会は、2030年までに国内のEV生産台数を総自動車生産台数の30%にする(30@30政策)というゼロエミッション車(ZEV)促進政策を承認した。この政策に基づき、政府は充電ステーションのネットワーク構築に対する投資恩典を導入し、EVのデータプラットフォームの開発許可の基準やルールを策定している。さらにバッテリー業界は全国で急速充電装置を1万2000台設置する計画で、2030年までにバッテリー工場の年間生産能力を40ギガワット時(GWh)まで高めることを目指している」と説明。エネルギーの転換とクリーンエネルギー車の目的は表裏一体の関係にあるとの認識を示した。

BCG経済モデルとコミュニティー発電

またタイのエネルギー効率向上策についてプレムルタイ副次官は、「顧客をプロシューマー(生産活動を行う消費者)に変えるルーフトップ太陽光発電技術を用いた住宅プロジェクトでは、ブロックチェーンを活用したピア・ツー・ピアの再生可能エネルギープラットフォームの導入にタイは成功した」と指摘。この「スマート・グリーン・エネルギー・コミュニティー」モデルでは「コミュニティー全体の電力の最大20%をグリーンエネルギーでまかない、二酸化炭素排出量を削減し、太陽光発電により住民の電気代を1戸あたり15%削減することができる。さらに、水力発電所に浮体式太陽光パネルを設置するハイブリッドシステムを全国で約2700メガワット(MW)分導入している」と報告した。

このほか、脱炭素化およびエネルギーの革新的技術では、「CO2回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage=CCUS)」「バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)」「炭素リサイクル」「グリーン水素技術」などがあり、またタイ湾の「Arthitガス田」の開発生産プロジェクトでは、CO2回収・貯留(CCS)の事業機会を模索していると説明した。

タイ政府は現在、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを推進しており、タイが議長国を務め今年11月に開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で発表する予定だ。BCGモデルはグリーンエネルギーや再生可能エネルギー資源の恩恵を最大限に活用し、持続可能な経済成長を促進するのが狙いだ。

プレムルタイ副次官によると、現在、幾つかのBCGのベストプラクティスが実行に移されている。例えば「ワンチャンバレー・スマートシティ」は、ラヨーン県に住む人々のためのスマートシステムに、「BCGサングリサムモデル」は、ウボンラチャタニ県でコミュニティレベルの電力取引の活用にそれぞれ焦点を合わせている。ナコンサワン県の「バイオエコノミックコンプレックス」は、高付加価値のバイオ化学製品を作ることに注力。さらに、再生可能資源を原料とするコミュニティー発電制度は、「Energy for All(すべての人のためのエネルギー)」政策に基づきプロシューマーのコンセプトが適用され国内の多くの地域で導入されている。同副次官は「エネルギー分野への積極的な投資には、民間企業の発展と長期的な官民パートナーシップを確保する政府の支援が必要だ」と強調した。

タイをLNG取引のハブに

続いて今回のFEAを共催した国営タイ石油会社(PTT)のアタポン最高経営責任者(CEO)が主に液化天然ガス(LNG)政策について講演した。同CEOはまず、新技術の導入や変化の要因となっている環境問題など、多くの国でエネルギービジネスのやり方が変わってきているとした上で、「石炭、石油、天然ガスという伝統的なエネルギーの利用方法は将来的に変わらざるを得ない」との認識を示した。

このうち最もクリーンな化石燃料とされている天然ガスについて同CEOは、長期的な需要はまだあると見ており、PTTのエネルギー転換計画に含まれ、未来のエネルギーの1つだと強調。タイをASEAN地域のLNG取引の中心(ハブ)にする目標を掲げているとした。

世界のエネルギー需要とLNG需要の見通しについて

同CEOはその背景について、「タイのLNG輸入量は2021年に590万トンだったが、2022年には800万トンに達する」との予想を明らかにした上で、「タイは中国、日本、インド、東南アジア各国など世界のLNG取引量の70%を占める需要国に囲まれている」ことがあると説明。PTTは今年、新ターミナルを整備するとともに、2030年までにLNGの買い手と売り手の両方となることで取引量900万トンを目指していると述べた。PTTは昨年、LNGを購入する一方で、日本にも輸出したと報告。またLNGを小型のタンクに貯蔵し、近隣諸国に輸出するという別の方法もあるという。ラオスやカンボジアにはタイのようなLNGの貯蔵港がないため、タイがLNGのハブ拠点になることを目指し、中国、カンボジア、ラオスなどとISO規格の小型タンクで売買することを検討していることを明らかにした。

CO2回収・貯留プロジェクトに注目

また、PTTの資源開発会社PTTエクスプロレーション・アンド・プロダクション(PTTEP)のモントリ最高経営責任者(CEO)は講演で、「2050年のカーボンニュートラル目標の達成と2065年の温室効果ガスのネットゼロ化では、CO2回収・貯留(CCS)プロジェクトの実施が重要だ」と訴えた。

同CEOはCCSプロジェクトの主要なポイントは、利用権のない場所で運営できるよう石油の規制を変えることだと指摘。政府は、法律によって炭素貯留に他の場所を利用できるようになるかどうかを見極める必要があるとの認識を示した。その上で、タイ湾は2040年までに最大4000万トンの炭素を貯留できるようになる見込みだと指摘。タイは1日あたり2億5000万トンのCO2を排出しているが、タイ全国の自動車をEVに置き換えることができれば、さらにCO2排出量は1日あたり1億6000万〜1億7000万トンまで削減されるとの見通しを示した。このほか、森林再生などの間接的な削減が可能という。

また、今回のFEA/FMMではタイ政府と多数の業界、研究機関で構成される「タイランドCCUS開発コンソーシアム」の発足が発表された。同コンソーシアムの主な目標はCCUS技術について研究から各産業での実用化を推進することだ。また、FMMではシンガポールとタイの間での2件の覚書(MOU)が調印された。1件目は、交通アプリの開発を手掛けるシンガポール企業SWATモビリティーと国営郵便会社タイランド・ポストの物流子会社タイランド・ポスト・ディストリビューション(THPD)が配送経路の設計において人工知能(AI)活用する案件。もう1件はタイの石炭大手バンプー傘下で再生可能エネルギー事業を手掛けるバンプー・ネクスト、タイのバス運行大手チュードチャイ・モーターセールス、シンガポールに拠点を置くリチウム電池企業デュラパワーの3社がリチウムイオン電池工場の開設に向けて提携に関するMOUに署名した。

TJRI編集部

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