タイ人の変わる食生活

ArayZ No.94 2019年10月発行

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タイ人の変わる食生活

公開日 2019.10.05

その他のタイ食生活におけるトレンド

日本食の位置づけ

地域を問わず中間所得以上のタイ消費者にとって「日本料理」はポピュラーな存在で、中間所得層以上の大半が日本食を食べたことがある。今回調査した海外料理の中で「アメリカ(ハンバーガー・ステーキ等)」に次いで高かった(図表12)。

日本食を外で食べる機会について、「普段の食事」が約半数を占め、グレーターバンコク(GB)の中間所得以上の大半は日常的に日本食を楽しんでいる。低所得層や地方では「特別な時(イベント)」に日本食を外で食べる傾向が見られる。

バンコク市内の日本食レストランは飽和状態だが、地方では増加傾向にあり、今後は中間所得以上を中心に日常的な利用が増えることが期待される。

エリア・所得階層別でみると、エリア問わず低所得層は低い。この背景には低所得層が外食頻度や海外渡航経験が低いことや、タイ料理(屋台の食べ物など)と比較して海外料理は割高なことなどが挙げられる。

健康志向が高まるタイでは健康的なイメージの日本食にはまたとない商機だが、値頃感がないことが課題。健康志向が高まるタイでは日本食との親和性がある。

日本食に対するイメージの上位3位「美味しい」「品質が良い」「人気がある」に次いで「健康的」が4位にランクイン。所得が増加するほど「体に良く、健康的」が高まっており、近年健康志向が高まるタイは日本食との親和性があることから、今後も市場機会は大きい。

潜在ニーズ(客がこれが欲しいという商品やサービスの必要性をはっきり自覚している状態)があるが、食べたことがない多くの低所得者にまず試食してもらうことが課題である。

加速する都市化、調理済み食品を後押し

調理済み食品は健康的と思われていないが、便利さからついつい手が出てしまう。生活様式が変化しているが、消費者は利便性で健康を犠牲にする意思はなく、食品各社は健康的な調理済み製品の開発を迫られている。

都会の消費者はどの食品、どの飲料を選ぶかの判断として「栄養」と「新鮮」を重要な要因として挙げている。食品メーカーは高めの価格設定を正当化するために、屋台と露天商との競争で勝つには、栄養と新鮮に加えて衛生面での優位性をアピールする必要がある。

ミンテル・グローバル・ニュープロダクツ・データベースによると、サラダ製品の人気が上昇している。より健康的で、便利な調理済み食品を求める動きに乗じて、各社は取り組みを始めているようだ。タイ料理だけでなく、日本、メキシコ、イタリアなど外国料理から着想を得て新商品の開発を行っている企業もある。

また、宅配サービスでもレストラン並みの味を期待する消費者が増えている。テレビの料理番組から刺激を受けたミレニアル世代(一般的な定義は、1980年~90年代に生まれた世代)は大量に生産される調理済み食品に飽き足らない。タイではセブン・イレブンが「アイアンシェフ・タイランド(タイ版料理の鉄人)」と連携して、入賞者が調理し厳選された12品を消費者に届けるサービスを行っている。

移動販売トラック、斬新な料理とアイデアで勝負

イベント会場などで馴染みの移動販売のフードトラックが、存在感を増している。初期投資が抑えられ、手軽に新規参入しやすい業種。価格設定は飲食店より安く、従来の屋台より高めだが、個性的なアイデアと料理で差別化を図っている。

2019年5月時点で670以上のフードトラック業者が加盟する「Food Truck Club (Thailand)」は今年2月に、バンコク国際展示場(BITEC)で「Food Truck EXPO 2019」を開催。同クラブによると、全国で1,300~1,500のフードトラックがあり、市場規模は130億バーツ。うち、7割がバンコク首都圏で営業をしている。

事業者はスズキの小型トラック「キャリイ」などの荷台を改造し、調理機器を設置。60%がハンバーガー、ピザなどの料理を、40%がコーヒー、アイスクリームなどの飲料・デザートを販売する。多様化する消費者に合わせた料理の提供や、顔が見える経営者によるきめ細かい対応などが強みと言える。

初期投資額は小型トラックを含めて10万~40万バーツ(新車もしくは中古車)程度。同クラブは加盟者同士が情報や知識を共有する機会を設けるなど、共存共栄を目指している。

工業省工業振興局は23年までに移動販売トラックの数を5,000まで増やすことを目標としており、国営銀行2行は起業家を低金利のSME(中小企業)ローンで支援する予定だ。

タイ食生活のホットトピック

販売・決済などのIT機能を充実させた利便性を売りに、食事の宅配サービス市場が急成長している。宅配を専門に行う企業を中心に大手スーパーマーケットやコンビニエンスストアといった他業種のプレイヤーもサービスを強化しており、群雄割拠の様相を見せている。

カシコンリサーチセンターによると、食事宅配アプリケーションは、デジタル技術による破壊的変革の一例で、消費者行動だけでなく、レストランなど外食産業のサプライチェーンを変える「デジタルディスラプション」をもたらした。

食事宅配サービス市場の年間成長率は2014年から毎年10%以上伸びており、レストランの3~4%を大きく上回る。19年は昨年比14%増の330億~350億バーツに拡大する見通しだ。

同センターの調査では、同アプリの登場によって消費行動が変化したという回答者が63%に上った。スマホで料理を注文しオンライン決済するため、外食率が減る一方、ビジネスモデルの再考を迫られるレストランチェーンにとって、新たな顧客層を開拓し、業績を伸ばす好機でもある。副業で収入を増やす二輪車運転手も少なくない。

レッド・オーシャン化する市場

現在、シンガポール系の「Food Panda」、「GrabFood」、日系「LINE MAN」、インドネシア系「Get!」が、顧客獲得で激しい競争を繰り広げている。

老舗の「Food Panda」は、12年にタイで最初のオンライン食事宅配アプリによるサービスを確立。現在、バンコクなど全国8県で5千以上の料理店と提携し、約2千人の配達員を確保。4社で唯一、日本語での注文が可能だ。

「GrabFood」は17年11月に事業を開始。18年の宅配回数は計300万回と前年から40倍に成長した。年内にチェンマイやパタヤなどにも進出する計画で、10バーツという低宅配料などを売りに差別化を図っている。

「LINE MAN」は16年にLINEのメッセージアプリから派生。利用者45百万人を誇るLINEの波及効果が大きなメリットだ。今年2月に新規参入した「Get!」に寄せられる注文の4割はバブルティーなどの飲料。平均の宅配時間は28分と利便性が高い。ほかに、「Uber Eats」や、ファストフードのマクドナルド、KFCなどは独自のオンライン宅配サービスを行っている。

オンライン食料品宅配プラットフォームの「HappyFresh」は14年に設立。スーパーマーケットの「Tesco Lotus」、「Big C」や「トンロー日本市場」などと提携し、宅配を行う。消費者が外出を控える雨の日に注文が増えるという「Food Panda」と「Grab Food」に対して、嵩張る生鮮食品を中心に扱う「Happy Fresh」は配達に苦労しているという。
 

生活水準の向上や食生活の変化により、タイを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)で肥満人口が増加している。格付け大手フィッチ傘下フィッチ・ソリューションズ・マルコ・リサーチによると、東南アジア6ヵ国(タイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ベトナム)の肥満人口は2010~14年にフィリピンを除く5ヵ国で20%以上、タイでは27%増加した。

体重と身長の関係から肥満度を算出する体格指数(BMI)でもタイは、肥満人口が二桁台(10%)に乗り、ASEANではマレーシア(15.6%)、ブルネイ(14.1%)に次ぐ高さだった(図表14 World Population Review 2019)。

タイの肥満者数は15年時点で2,100万人に上る(タイ厚生省)。アジア開発銀行(ADB)によると、肥満率は一人当たりのGDP伸び率と同じ速度で上昇している。地域別では、バンコクが男性38.8%、女性49.4%。中部がそれぞれ33.3%、44.5%、南部27.4%、44.7%、北部27.5%、36.3%、東北部が22.5%、39.1%と、一人当たりの所得水準が肥満率に反映されている。「運動量の少なさ」「生活様式の変化」「加工食品と炭酸飲料水の摂取」が起因とされるが、マヒドン大学のタニット栄養学者は、タイには余るほどの食糧があるため、肥満者になる環境が整っていると指摘する。

また、世界保健機関(WHO)は、成人の一日における砂糖摂取量を小さじ6杯分に抑えるべきと推奨しているが、タイ人は28杯分と4倍以上を摂取。1997年に19杯、2007年に25杯と年を追うごとに増えている。特に、女性の約4割が肥満と警鐘を鳴らす。国立チュラロンコン大学が行った調査では、食べ物を喜捨される托鉢僧の40%以上が高脂血症、約25%が高血圧、10%が糖尿病を患っていることが判明した。

危機感を持ったタイ政府は、17年から飲料製品に砂糖税を課し始めたが、相変わらず3食後に砂糖だけでなく、コンデンスミルクがたっぷり入ったアイスコーヒーを露天で購入するタイ人を見ていると、想定していたほどの効果は得られていないようだ。
 

インタビュー:タイ味の素社

経済価値と社会価値の共創を目指す


タイ味の素社 嵐田高彰 副社長

「え、タイ味の素社はてっきりタイの企業と思っていた?」――タイの友人が驚いた表情を見せた。それほど、タイ人の食生活に欠かせない存在となっているタイ味の素社は来年、設立60周年を迎える。2015年から2度目の赴任中で、駐タイ歴通算12年目の同社の嵐田高彰副社長に、同社のブランド戦略と商品の特長、タイ人の食生活の移り変わりなどを聞いた。

タイ味の素グループは基礎調味料、インスタントコーヒーから冷凍食品、即席麺などまで、幅広い品物を中部アユタヤ県、北部カンペーンペット県など10を超える工場で生産し、国内販売・輸出している。今後は、生活様式の変化や働き方の多様化で慌ただしい日々を送る会社員や主婦の調理負担を軽減する、簡便ながら本格的な味が楽しめるメニュー用調味料にさらに力を入れる方針だ。

嵐田氏は、「手軽に本物の味が出せることから、家庭だけでなく、屋台や小規模の飲食店でもご使用いただいています」と胸を張る。「タイだけでなく、ASEAN諸国では日本の『ほんだし』に相当する調味料の販売が好調です。ただ、各国で味覚・嗜好が異なることから、十分に市場調査を行い、現地に親しまれる品物づくりを心がけています」と語る。

タイ人の健康意識が高まっており、食品飲料メーカーは食生活の変化に対応する品物を開発する必要に迫られている。例えば、子供の低栄養を改善するため「Prottie(高タンパク・高カルシウム飲料)」を5月にタイで生産開始。ASEAN共通プロジェクトの一環で、タイだけでなく、ミャンマーとフィリピンの市場にも投入する予定だ。

日本で人気の「アミノバイタル(アミノ酸入り飲料)」のゼリータイプの生産もタイで開始。主にスポーツ愛好家をターゲットにしており、8月に初出荷した。嵐田氏は「スポーツを快適に楽しむためには、アミノ酸と水分の補給が欠かせません。タイでもマラソンなどを楽しむスポーツ人口が増えており、科学に基づくアミノ酸の補給をオススメしたい」と説明する。

ただ、「品物を投入すると同時に、プロテインとは何か、アミノ酸の効用など、簡単に分かりやすく説明し、正しく理解していただくことが求められています」と試行錯誤は続く。

時代の変化に対応

すでに知名度抜群の同社だが、さらにブランド価値や認知度を高めるために、工場見学やスポーツ関連イベントの協賛、健康管理のメニューフェアなどを定期的に行っている。年間約4万人が参加する工場見学ツアーでは、「我々は魂を込めて安全・安心な品物を生産しており、工場内での品質・環境・安全管理システム、限られた資源を大切に使い切るエコフレンドリーなモノ作りやバイオサイクルなどを見学・体験・実感していただけます」と歓迎する。

ユニークで効果的な広報活動も得意で、2009年に放送されたテレビコマーシャルでは、「うま味」という日本語をタイ人に浸透させた。

タイ人の感覚を尊重してCMの撮影現場を一任するが、「奇抜で面白いだけのものが出来上がることがあります。印象が強くても、伝えたいメッセージ性が欠如した場合は日本人が手直しすることもあります」と苦笑する。

調味料の購入先は従来の生鮮市場・路面小売店舗や大型のスーパーマーケットなどからセブン・イレブンなどコンビニエンスストアに徐々に移っており、「安全・衛生面や簡便性から購入場所が変化したり多様化するなど、消費者の意識が高まっています」と嵐田氏は指摘する。教育機関などと協力しながら、塩分や糖分を取りすぎる食習慣を見直すメニューを提案する考えもある。

「タイにおいても、安ければ良いという時代から移行しつつあります。少し割高でも信頼できプレミアムな商品が評価を受け伸長しています。タイ人社員と共に、経済価値と社会価値の共創を目指して、身体に良く、美味しく、楽しく食べられる品物づくりを目指します」と力強く語る。

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THAIBIZ編集部

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