タイ人の変わる食生活

ArayZ No.94 2019年10月発行

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タイ人の変わる食生活

公開日 2019.10.05

世界の台所」を目指すタイ。産業の高度化を図る「タイランド4.0」構想の重点12分野の一つに「未来のための食品(Food for the Future)」を挙げ、2036年までに農産物や食料品の輸出額を586億米ドルまで拡大することを目指している。

一方、国内の食品産業は国内総生産(GDP)の23%を占め、国民生活と経済を支える重要な役割を担っている。そこで今回は中間所得層が拡大するタイ人の食生活や食に対する意識の変化を調査し、購買動向・消費傾向を分析する。

(協力:山田コンサルティング・グループ)

はじめに

「食事回数は1日3食ではなく、5食が当たり前です」――タイ人の友人が満腹の笑みを浮かべる。確かに街中を歩いているとそこら中で、小規模の飲食店や屋台が営業しており、バンコクでは真夜中でも食事に困ることはない。

そのためか、タイは家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数(食費÷消費支出×100)」が高い。日本は25%、フランス24%、イタリア27%、米国15%程度に対して、タイは38%と他国と比べて突出している(経済協力開発機構、OECD)。この数値が上がれば上がるほど、一般的に生活水準が低いと思われがちだが、イタリアなど食文化が発達している国の数値は高い。

ただ、700名超のコンサルタントを擁する山田コンサルティング・グループがタイの食生活に関する消費者の意識・行動を把握することを目的に行った「2019 タイ生活者の食に関する調査レポート」によると、2009年と比較した15年の家計消費支出に占める食費の割合は、タイ全体では0.2%、バンコクでは1.5%縮小しており、タイ人の胃袋に変化の兆しが見られた(図表1)。

小売・外食市場ともに年々拡大

タイの小売市場を業態別にみると、「トラディショナル・トレード(伝統的な小売店または生業零細店)」であるパパママショップが3割以上を占めた(2016年)。小売市場の拡大に貢献する「モダントレード(近代的小売り)」の構成比を見ると、ハイパーマーケット(大型の総合スーパー)が最も大きいが、13~16年の伸び率は5%と鈍化。一方、セブン・イレブンがシェア6割以上を占め、圧倒的な強さを誇るコンビニエンスストアが20%増と急成長している。

外食市場も伸長傾向にあり、チェーン系レストランが約3割を占めた。根強い人気の日本食レストランの数は、07年の745店から17年に2774店と約3倍に急増。バンコク市内での出店ペースは鈍化しているが、他の地域では増加しており、国内全体では継続して拡大している(図表3)。

食事スタイルの実態と変化

食に対する「健康」「安全」の関心が高まり、中間所得層以上の生活者を中心に食生活が変化している。直近5年の食生活や食に対する意識の変化については、約75%の回答者が変わったと感じている。地域・所得階層別にみると、特に地方の中間所得層以上の変化が顕著である(図表4)。

では、食生活や食への意識は具体的にどのように変わったのか。最も多い回答は「健康や安全を意識するようになった」だった。高齢化社会、肥満人口など社会問題が顕在化するタイにおいて、所得増加を背景に、高齢者だけでなく若年層の意識にも変化が起きており、健康に良く安全な食品が普段の食生活で取り入れられ始めている。

グレーターバンコク(GB)に住む30代女性(高所得)は、「健康を意識し、安全な食品を選ぶようになった。例えば、オーガニック商品やメーカーの信頼性などを重視する」と述べた。

「前より健康に関心を持つようになり、料理や菓子を買うときに低カロリーのものを心掛けている」とソンクラーの30代男性(中間所得)。

チェンマイ県の20代女性も「健康に関心を持つようになって、低脂肪で栄養価の高い、コレステロールの低い健康に良い食料品を選ぶようになった」と自意識の変化を実感しているようだ。

中食:調理済み食品や冷凍食品など

手軽な「中食」が食生活に浸透

タイの生活者にとって、食事は手間なくすぐに食べられることが重要である。タイ全体で食事形態(外食、中食、内食)ごとに「ほぼ毎日」と回答した割合をみると、最も高いのは「内食」だが、3割以上が「外食」「中食」も利用している。このことからも、約9割の夫婦が共働きと言われるタイにおいては、手間をかけずにすぐ食べられることが重視されていることがわかる(※日本の共働き夫婦の割合は約65%)。

食事形態の頻度をほぼ毎日~週1回までを合計すると、中食が最も多い。中食事業の主な販売の形態は、屋台やフードコート、コンビニエンスストアなどの店舗販売による持ち帰り、もしくは宅配の2通りに分かれる。

直近5年間の各食事頻度の変化(増えた・減った)でも、中食が最も増え、また、減った割合が少ないことからも、手軽に家ですぐ食べられる中食を選択する人が増えていることが分かる(図表5)。

地方の中間所得層や高所得層を中心に、特に調理済み食品や冷凍食品などの購入が増加している。中食をほぼ毎日~週に1回以上利用を合計した割合は、どの地域・所得階層でも約9割。特に地方の中間所得(高)層が最も高く、約半数がほぼ毎日利用している。中食の直近5年間の頻度変化について減った分も加味すると、特に地方の中間所得層以上が増えており、地方でも中食市場は拡大傾向にある(図表6)。

要因として、単身・高齢者・共働き世帯や女性の社会進出の増加などが挙げられる。物流の効率化や冷蔵・冷凍技術の高度化、多様化する消費者のニーズに応えて健康志向の食材を使用するなど手間のかかった料理の普及も後押ししている。

同調査では「手間を省き、時間を節約するために、調理済み食品を買って食べることが増えた」という人が散見され、屋台やコンビニエンスストアで調理済み食品や冷凍食品を購入する人が増えている。

「食生活や食の意識変化は具体的にどう変わったのか」との問いに対して、プーケット在住の20代男性(中間所得)は「自炊からコンビニエンスストアまたは屋台で食品を買って食べるようになり、手間を省いている。休日は自宅で料理している」と語る。GBの50代男性(高所得)は「時間がないため、よく食べ物を外から買ってきて食べている。料理をするより便利だし、時間も節約できる」と述べた。

利便性が高く全国に浸透

調理済みの惣菜の主な購入場所は、伝統的な「露天商」のほか、「コンビニエンスストア」「ハイパーマーケット」などモダントレード(MT)の割合が高く、半数以上を占める。所得階層別にみると、高所得も他階層と同様に露天商を利用。低所得層においてもMTが半分以上を占める。

タイのコンビニエンスストアでは、弁当も40バーツ前後(約136円)と露天商とさほど変わらない価格で気軽に購入することができる。全国で1万店舗以上展開するセブン・イレブンは、チルド(低温冷蔵)食品をほぼ全店で取り扱っており、エリア・所得階層関係なく、気軽に購入しやすい環境が整備されている(図表6)。

8割が自己管理能力を重視

商銀大手のカシコン銀行は、タイ人消費者の健康意識が高まると同時に、より利便性の高い食品を選ぶ嗜好へと変化していると指摘する。

最近の消費者の特徴として、△高まる健康志向△増加する高齢者△時間に追われる生活△定期的な運動――が挙げられ、食品産業も調理済み食品や機能性食品といったより健康的で安全な食品の開発を続けている。

市場調査などを行うマーケットインテリジェンス大手ミンテルが行った調査(2018年5月実施 バンコク首都圏に住む16歳以上のインターネット利用者1500名が対象)によると、首都圏に住むタイ人消費者の79%がもっと健康に良い食事をとることを考えている。

また、約半数の48%が、自身の健康を考慮して、今後1年間で献立を見直す予定。うち、90%が「果物や野菜をもっと摂取」、53%が「肉の摂取を減らす」、45%が「菜食に目を向ける、もしくは食事療法を行う」と答えた。

健康的な生活を追求する首都圏のタイ人は、「健康食品は何か」という問いについては、「天然成分(67%)」「低脂肪(61%)」「有機(56%)」「低カロリー(55%)」「微糖(54%)」と認識。一方、「飽和脂肪(53%)」「精糖(43%)」「塩(33%)」「赤身の肉(33%)」を避けていることが分かった。徐々にではあるが、植物由来の食料・飲料への理解度が深まってきており、肉由来のものと同等の栄養があり、旨いことに気づき始めた。

一方、米系市場調査大手ニールセン・タイランドは、大多数のタイ人消費者は定期的な運動をするよりも健康を維持できる食生活を選択する傾向が3年以上続いていると指摘する。

健康食品・飲料に関してかなり高い意識を持っているが、どのような恩恵を得られるかの知識は限られている。テレビ番組やソーシャルネットワークサービス(SNS)といった複数のメディアから入手した情報を元によい食品かどうかを判断する材料にしている(図表7)。

ただ、およそ4人に1人しか、「高繊維」「高タンパク質」などが、健康にどのような効果をもたらすかを理解していないようだ。

外食:路面屋台・レストランなど

強まる「外食」傾向

「中食」の代替は「外食」である。外食産業は付加価値化で中食との差別化を図り、客単価を増加させている。外食の頻度は、所得が増加するにしたがって高まる傾向にある。中間所得(高)層以上は、直近5年間で利用頻度が増加。ほぼ毎日~週1回利用する回数の合計が約9割を占め、グレーターバンコク(GB)だけでは約半数がほぼ毎日利用。外食頻度が増えている背景として、レストランの選択肢が増えていることや、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達による口コミ情報の影響が挙げられる。

地方での外食頻度の変化をみると、中間所得層以上が増加傾向にある。同階層は中食頻度も増えていることから、所得増加により外食と中食を柔軟に使い分けていることが窺える。日本食レストランはバンコク市内で飽和状態にあるものの、地方では増加する傾向にあり、今後さらに利用頻度が増えていくと考えられる。

では、食生活や食の意識変化は具体的にどう変わったのか。GBに住む40代女性(中間所得)は、「以前よりレストランの選択肢が増えてきたので、外食の頻度が増えた」と語る。

また、「何でも食べる。利用者が口コミを投稿している新しいレストランを試しに行くのが好き(20代女性 コーンケーン 中間所得)」、「外食が増えた。海外料理もたくさん食べるようになった。特に日本・韓国料理。新鮮度、清潔さ、安全性で安心できる店を選択している(30代男性GB 中間所得)」というコメントも聞かれた。

エリア・所得階層に関係なく、「路面屋台」が利用されている。外食業態別に利用頻度をみると屋台が最も高い。ほぼ毎日利用する割合は、エリア・所得階層に関係なく高い。GBの高所得層も約3割がほぼ毎日利用しており、安価で気軽に利用できるため、幅広い層に根強く支持されている(図表8)。

根強い屋台人気

「レストラン」や「フードコート」等のモダントレード(MT)を、ほぼ毎日~週1回以上利用する割合は約5割を占める。前述したように、外食比率が高い中間所得層以上で、MTの利用頻度が高まることから、MTも重要な選択肢となっていることがわかる。地方のレストランをみると、中間所得(高所得)層以上はGBより利用頻度が高く、モダントレードの需要は高まっている。

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THAIBIZ編集部

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