ArayZ No.106 2020年10月発行今こそ攻めのオフィス移転
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2020.10.10
目次
今年に入って新型コロナウイルスの感染拡大を受け、感染リスクをはらんだ通勤電車や社内における3密(密閉、密集、密接)を避けるため、多くの企業がリモートワークを取り入れました。
日本のパーソル総合研究所が企業の正社員2万人以上に行った調査によると、国内での感染が広がり緊急事態宣言が出される前の3月のリモートワーク(原文ではテレワーク)実施率は13.2%でしたが、4月7日の緊急事態宣言(当初は7都府県対象)発令後は27.9%と2倍近くに伸びました。東京都に限れば、49.1%(3月は23.1%)に上ります。
タイでも国内感染の拡大を受けて3月26日に非常事態宣言が出され、その前後からWork From Home(WFH)という言葉でリモートワークの導入が広がりました。
自宅でのリモートワークに加えて、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたローテーション勤務、本社・本拠地から離れた場所に設置されたサテライトオフィス勤務など、多様な働き方が企業の間に広がりました。
リゾート地に滞在しながら働く、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた「ワーケーション」なる言葉も浸透しました。そして感染拡大が一段落した後も、一部の企業はそれらを常態的に導入する方針です。
新型コロナウイルスをきっかけに働き方が変わり、企業は今後のオフィスの在り方を見直し始めています。社員全員が一律に出社するという既存のオフィス概念が揺らぎ、「ウィズコロナ」や「アフターコロナ」におけるオフィス環境の「ニューノーマル(新常態)」を考え、オフィスの再構築に取り組む必要に迫られています。
リモートワークのメリットとして、企業からすれば社員が出社しないことで交通費やオフィスの光熱費が削減できます。出社する社員が減ったことでオフィスそのものを縮小などすれば、企業にとって人件費の次に大きな経費であるオフィス賃料も下げることができます。災害時などの緊急事態にも、事業継続性が確保しやすくなります。
社員にしても、通勤や身支度がなくなることで時間を有効活用でき、通勤に伴うストレスからも解放されます。自分のペースで仕事ができるようになり、家族との時間も増やすことができます(図表1)。
ただ一方で、様々な点からオフィスの重要性も再確認されました(図表2)。
オフィスが持つ大きな機能の一つに、社員同士のコミュニケーションの活性化があります。同じ空間にいることで意図せず会話が生まれ、今まで気付かなかった相手の考えを知ることができたり、新たな視点を得ることができて仕事が円滑に進んだ経験は多くの人にあると思います。
リモートワークではオフィスという共通の場がなくなることで、社員同士のコミュニケーションが希薄となって報連相が疎かになったり、直接話せばすぐに解決できるような小さな問題が尾を引いて大きな問題になってしまうことがあります。仕事のON/OFFの切り替えが曖昧になり、結果として長時間労働になってしまったという声も挙がっています。
企業にとっても社員への目が行き届かなくなり、労務管理が難しくなります。また、社内データのセキュリティ体制も新たに構築する必要があります。若手社員の教育や企業の価値観、ビジョンの共有も課題です。
特にイノベーションが求められる仕事では、対面の会話などから得られる創造性や偶発性が重視されます。オンライン会議システムもかなり普及していますがまだ一部の機能補完に留まり、複数の部署がコラボレーションするような業務には、オフィスという場が必要なことも判明しました。
2013年に米Yahoo!はそれまで推進していた在宅勤務(≒リモートワーク)を禁止したことで話題となりました。当時のメリッサCEOは「在宅勤務は今現在のYahoo!にとっては適切ではない」「人は集団になった方がイノベーティブになる」と語ったそうです。
オフィスは単に社員が仕事をするという物理的な機能だけでなく、イノベーションの創出を支えるインキュベーション(孵化)機能も提供してます。オフィスがなくなることでこのような機能が失われ、企業の成長に欠かせないイノベーションが生まれづらい組織になる恐れがあります。短期的には問題がなくても、中長期的に見ればマイナスの影響が生じかねません。
しかし、「ニューノーマル」のオフィスの在り方として、社員全員の原則出社が当たり前の時代には戻らないでしょう。新型コロナウイルスを機に、大量の社員を一箇所に集めて働くため、主要な駅から近くて広いスペースを確保するという今までのオフィス観は揺らいでいます。
完全にリモートワークにする企業、オフィスへの出社に戻す企業、リモートワークと出社の併用をする企業というように、企業に応じて多種多様な選択ができるようになっていますが、それに伴いオフィスの空室率は上昇していくかというと、一概に断言できません。いわゆるグレードAと呼ばれるような、人気エリアの最新オフィスビルには依然として需要があると想定できるためです。
仮にそういったオフィスビルに空室が出たとしても、これまで入りたくても入れず、グレードBに入居していた二番手企業によって空室は順次埋められていくでしょう。また、オフィスビルも一番手企業の退去に応じて、賃料を下げる可能性もあります。
そして、二番手企業が退去した物件は、そこに入りたかった三番手企業が埋めていくといった連鎖が生じ、最終的に不人気エリアにある築年数の古いオフィスビルは淘汰されていき、建て壊しやリノベーションへの転換を迫られると展望できます。
リモートワークは企業のコスト削減など大きな恩恵を得られることが分かりましたが、先に触れたようなデメリットもあり、今後も完全なリモートワークの導入が社会の趨勢にはならないと予測されます。
現に、世界的に見ても企業の判断は分かれています。FacebookやTwitterのように全面的なリモートワークに切り替える企業もあれば、日本の伊藤忠商事は緊急事態宣言解除後に生産性の低下などを理由に、段階的に原則出社へ切り替えました。ただその後、国内の感染再拡大を受けて再度リモートワークに戻しています(図表4)。
グーグルの親会社アルファベットは9月、米カルフォルニア州の約16万㎡の土地に住宅や小売店、公園、娯楽施設、約12万4000㎡のオフィス空間を建設する「ミドルフィールドパーク・マスタープラン」を発表しています。通勤の負担や感染リスクの少ない職住近接の、言わば企業城下町を新たに作り出す計画です。
不動産大手のCBREグローバルリサーチが6月に各国のオフィステナントを対象に行ったアンケート結果によると、感染が収束した後に「オフィスの重要性は大きく減る」と考える回答者は13%と少数に留まりました(図表3)。
人と人とを結び付けるオフィスの役割がまだ期待されていることを示唆しており、個々の企業の特性に応じて様々な働き方、オフィス形態を使い分ける企業が多くなると見られます。
新型コロナウイルス感染拡大の中で行わざるをえなかったリモートワークは、働き方の概念を覆させるほどのインパクトがありました。
今後、社会の変化が見込まれる中、オフィス賃貸に支払っている固定費は、本当に適正なのか改めて考える時期に来ています。リモートワークがスタンダード化した「ニューノーマル」の働き方を視野に入れ、オフィスに持たせる機能の見直しが必要になっています。
これまでオフィスの縮小移転と言うと、事業の衰退や失敗といったネガティブなイメージが付きまとうものでした。しかし、新型コロナウイルスによって、その考え方に大きな変化が生まれています。固定費の中で人件費の次に占めると言われるオフィス賃料を見直し、固定費を削減して事業を持続化、その上でオフィスの付加価値向上を図る企業が増えてきています。
リモートワークの導入で人が少なくなったオフィススペースに賃貸料を払い続けるのではなく、これからの働き方の再構築と、それに見合うオフィススペースの戦略的見直しをする大きな機会です。
今、オフィスを縮小移転することは、決して後ろ向きで消極的な決断ではありません。今後の企業運営の在り方までを視野に入れた、攻めの経営判断だと言えます。
現オフィスから新オフィスへ移転した際に得られるメリット・デメリットを把握し、移転の目的や何に優先順位を置くかを踏まえ、移転先を検討することが重要です。
オフィス移転の具体的な検討に入る前に知っておきたいのは、「どれくらいのコストを削減できるのか」という概算です。
企業が活動するためには、様々なコストが掛かります。健全な経営状況となるには、節約できるところはできるだけ節約して、なおかつ売上を増やすことが必要です。売上は目標通りにはいかないこともありますが、コストならば比較的正確に把握できます。売上を伸ばすだけではなく、経費を削減することで純利益を増やすこともできます。
どこに無駄が多いのかは各企業によって異なります。まずはオフィスに掛かるコストを正しく理解して、自分の会社のどこに無駄があるのか把握します。その上でコスト削減できるところはしっかりと削っていくことが大切です。
オフィスのランニングコストの内、①〜④は無駄な部分があればすぐに改善に取り掛かることができます。一方、⑤のオフィス賃料についてはその他と比べると高額でもあり、きちんとした計画に基づき取り組むことが重要です。コストパフォーマンスに優れたオフィスに再構築するため、思い切って移転してレイアウトから考え直すというのも一つの方法です(図表5)。
コスト削減は無駄遣い防止というだけではなく、企業の純利益を増やすという営利活動でもあります。
健全な経営を維持するためには、オフィス賃料は粗利益の10%~20%以内に設定するのが妥当と言われています。例えば月間の売上が2000万バーツで粗利益率が30%ならば、60万~120万バーツがオフィス賃料として適切となります。
立地条件が良く賃料が高額なオフィスへ入居することで増収を見込める事業ならば120万バーツ、周辺環境の影響をあまり受けないならば60万バーツで問題ないといえるでしょう(図表6)。
現在、好立地にある賃料の高い物件にオフィスを構えているものの、実はどこにオフィスを置いても業務にはあまり関係がないという場合、より安い物件に引っ越すのも一つのコスト削減方法です。
もちろん移転コストは必要ですが、毎月の家賃の差額を考えれば1年ほどで回収できることも珍しくありません。
オフィスの移転・縮小を検討する際には現在の契約条件を見直し、移転までに掛かる費用を把握した上でコストシュミレーションをすることが重要です。
賃料、広さ、契約条件、内装内容により異なるため、それぞれの企業の状況を把握した上で具体的なコストシミュレーションが必要です(図表7)。
次のページで具体的なケースを紹介します。
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THAIBIZ編集部
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