ArayZ No.139 2023年7月発行BCG経済モデルで豊かな社会へ
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カテゴリー: 特集, バイオ・BCG・農業
公開日 2023.07.10
タイ政府が2021年に入り、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルをアピールし始めたことを受けて、バンコク日本人商工会議所(JCC)も同年10月に「BCGビジネス委員会」を発足させたが、当時はまだ、日本企業もタイの「BCG経済モデルとは何か」といった戸惑いを隠せなかった印象もある。
しかし、22年になると、地球温暖化問題への世界的な関心の高まりも背景に、「脱炭素」とともに「BCG」のセミナーが相次いで開催され、BCGがタイ経済界で本格的に認知される「元年」ともなった。
東京都中小企業振興公社タイ事務所が22年11月中旬に開催したセミナーでは、タイ工業省の産業経済事務局(OIE)のワラワン局長が、BCG産業の振興について、「タイの発展には、農業部門をより強化していくことが重要だ。天然資源の豊富さ、多様性という強みを生かしたBCG経済の発想が国力の強化につながる」と強調。
そしてタイ投資委員会(BOI)のデータを引用し、タイでBCGに投資したプロジェクト数は15年から21年の累積で2,900件、金額では6,750億バーツに達し、21年の単年度のBCG投資額は1,500億バーツと前年比123%増加したと報告。「これらのデータは、タイのBCGビジネスモデルが進化している証拠だ」との認識を示した。
また同セミナーでは、東洋ビジネスエージェンシーの梅木英徹代表がタイのバイオ経済について、「農産物の付加価値を上げて、農家の収入を増やすのが狙いであり、政策のターゲットの農産物はサトウキビ、キャッサバ、アブラヤシ(オイルパーム)、そして新しい農産物がヘンプ(大麻)だ」と報告。
そしてBCGで日本とタイがどのような視点で取り組むべきかについて両国の地理的条件の違いを指摘した上で、食料とバイオエネルギーを生産する農業ではタイの方が圧倒的に優位であり、日本は食料・エネルギーの安全保障のために産地を確保しなければならないと問題提起。特にバイオエタノールでは日本にマーケットがあり、タイには資源があり、相互補完が可能で、タイは日本への供給基地になれると強調した。
22年11月中旬にタイ・バンコクで第29回アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催された。タイでの開催は19年ぶりだ。今回のAPEC首脳会議ウィークでタイ政府が最もアピールした経済政策の1つがバイオ・循環型・グリーン(BCG)政策だった。首脳宣言の第16項で、「APECの持続可能性目標をさらに推進するための包括的枠組みとして、われわれはBCGに関するBangkok Goalsを承認した」と盛り込んだ。
ただ、今回のAPEC首脳会議に関する、少なくとも日本の大手メディア報道で「BCG」という言葉を耳にすることはほとんどなく、その後もBCGという言葉が世界で経済用語の1つになったという話も聞かない。しかし、BCGという言葉が世界的に普及しなくても、タイは自信を持ってこの経済戦略を持続的に推進していくべきだろうと思う。
特にタイの強みは豊富な生物資源と農業、そしてそれを利用するバイオ産業であることは間違いない。
バイオ・循環型・グリーン(BCG)ビジネスに対する熱視線は23年にも引き継がれていった。バンコク日本人商工会議所(JCC)が23年2月21日に開催した2023年新年景気討論会でもBCGは一つのテーマになった。
当日行われた、「2023年に注目されるビジネストレンド」をテーマにしたアンケート調査で、「BCG経済はどのような影響があるか」との質問には、「大きなチャンスがある」が14%、「多少のチャンスがある」が36%、「影響はない」が29%、「悪影響がある」が1%、「わからない」が21%という回答結果で、日本企業の間でもようやくBCGの認知度が少し上がってきた印象だ。
TJRIでは、23年にタイのバイオ、エネルギー関連企業トップのインタビューを相次いで行ったが、BCG経済モデルに対する関心は高かった。
ウボン・バイオ・エタノール(UBE)のスリーヨット社長は、BCG経済モデルについて、「タイは水や土壌などが農業に適している。政府がBCGモデルを推進することで、より多くの研究事業開発が行われるだろう。そうなれば、これまで長く発展から取り残された農業にも良い影響を与え、多くの利益がもたらされるだろう。さらに、バイオ化学産業ではバイオプラスチックに大きな需要があり、市場が成長する可能性は高い」との期待を表明した。
一方、化学品販売会社UACグローバルのチャチャポン最高経営責任者(CEO)は、TJRIが2月に実施した『Open Innovation Talk』の中で、「UACはバイオガス発電、ソーラーパネルなど再生可能なクリーンエネルギープロジェクトを展開していく。(中略)さらに、学校、商業施設、産業廃棄物からの有機廃棄物でバイオガス発電の実証実験を行う。現在、ラオスでごみ固形燃料(RDF)生産をしているが、インドネシアやカンボジアにも同様な事業での実現可能性調査をしている」とした上で、「BCG経済モデルに貢献できる事業を展開していきたいと考えている。
これは世界の脱炭素・低炭素社会の流れに沿ってこれから需要が高まる見通しであり、当社もこのトレンドに合わせて事業展開していく」と強調した。
2020年10月初旬、TJRIではタイ政府観光庁(TAT)のユタサック総裁(当時)にインタビューした。同氏は「タイ観光の最大の魅力とは」との質問に対し、「観光商品は本来、自然、ディズニーランドのようなテーマパーク、アクティビティの大きく3分野があるが、タイの場合は90%が自然であり、美しいビーチがあるから旅行者が来る。
しかし、コロナ後は新たに『NFT』というコンセプトで分野を再構成した。NはNature(自然)だが、環境保護が求められる。FはFood(食)の探求で、タイにはストリートフードからミシュラン店まである。TはThainess(タイらしさ)で、フェスティバル、伝統、ファッションなどだ」と答えた。
その上でBCG経済モデルにおける観光産業の位置付けに関し、TATは「BCGのアイデアを導入している。タイが促進したいと考えている商品を見ると、NFTのN(自然)があり、国内外のタイ旅行者には自然を維持してほしいと望んでおり、これはBCGだ。F(食)に関しては食品廃棄物を減らそうとしている。T(タイらしさ)では、われわれが世界中の旅行者に取り入れてほしいと思っている製品はBCGモデルに沿ったものだ」と強調した。
過去1年ほどタイの経済ニュースで最大の話題はやはり、電気自動車(EV)と中国自動車メーカーのタイ市場参入に関するものだ。タイ政府が正式にバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルの主要対象分野として位置付けているのは、先にも挙げたように「農業・食品」「健康・医療」「エネルギー・素材・バイオ化学」「観光・クリエイティブ経済」の4分野だ。しかし、タイ政府関係者は当初、電気自動車(EV)やデジタル関連の産業もBCGの対象に含めて話すこともあった。
タイ政府は現在、中国勢のロビー活動もあってEVシフトを急加速している。EVが自動車の動力源の脱炭素化の切り札になるならば、広義のBCG経済モデルに含まれると解釈して良いのかもしれない。しかし、EVの動力源である電気の大半が化石燃料で賄われている限りはBCGモデルとはいえないだろう。
さらに、バッテリー原料の生産地では資源争奪戦による環境破壊が伝えられ、バッテリーのリサイクル問題は世界的にもようやく研究が始まった段階だ。完全EV化がBCGモデルに沿ったものなのかもじっくり精査する必要もありそうだ。
先の紹介したクルンタイ・コンパスのリポートに掲載されていた「バイオ化学」の基本コンセプト図で、最も付加価値の低い農産物と最も付加価値の高いバイオ化学製品の中間に位置付けられいたのがバイオ燃料とバイオプラスチックだ。世界各国でEVと自動車の動力源をめぐる侃々諤々の議論が続く中で、バイオ燃料が静かに注目を集め始めている。
欧州連合(EU)が今年3月末に承認した2035年にICE車の販売を事実上禁止する法案で、CO2と水素で製造する合成燃料(e-Fuel)を使用する内燃機関(ICE)車が例外として認めたとのニュースは大きな話題となった。合成燃料が認められるなら、同様にCO2排出削減効果のあるバイオ燃料はなぜ認められないのか。
おそらく、バイオ燃料は食料と競合するからとの理由だろう。しかし、農業大国は基本過剰基調だ。欧州の方針はすぐには変わらないように思われるが、すでにバイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料が普及している米国、ブラジル、そしてタイでは少なくとも将来可能性のある本格的EVシフトあるいは合成燃料の実用化までのつなぎとしてのバイオ燃料の価値は認知されており、その他の地域でもバイオ燃料が再評価される可能性はある。バイオ燃料がいったん葬り去られた日本でも合成燃料とともにバイオ燃料の利用促進を求める動きも出始めている。
タイではバイオ燃料はすでに普及が進んでおり、農業生産性の低さを考えれば、バイオ燃料作物増産のポテンシャルは高いと思われ、BCG経済モデルの有力製品の一つとなる可能性もある。
東洋ビジネスエージェンシーでタイ産バイオエタノールの日本への輸出を検討してきた梅木英徹氏は最近、 大麻草由来成分のカンナビジオール(CBD)の製造で世界4位のデンマークのENDOCA(エンドカ)が5月に設立したエンドカ・サイアムのCEOに就任し、 大麻草を原料とするバイオエタノールの研究開発、実用化にも取り組もうとしている。
昨年の栽培解禁以来、大麻産業が一気に盛り上がりつつあるタイで、大麻がバイオエタノールの原料ともなり、タイ政府のバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済の主役の1人になれるかを長い目で見守っていきたい。
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【募集要項】
1)ネピアグラスの高付加価値化、輸出用の土壌改良材の開発パートナー
2)油田のCCS / CCUSの技術パートナー
3)有機廃棄物のバイオマスガス発電への投資パートナー
4)データ管理 / マネジメント分野のパートナー
5)グリーン水素のバリューチェーン構築に向けたパートナー
6)タイでEV充電ステーションの共同開発と投資が出来るパートナー
UAC Global Public Company Limitedは電力、化学事業の2つをメインで事業を行っており、2021年総収益の56%がエネルギー、23%が石油化学を占めている。工業向け化学品や設備の輸入販売業事業を展開しており、天然ガスの探査・生産、石油精製、石油化学、潤滑油、ポリマーおよびプラスチックなどさまざまな業界における顧客のニーズに対応。08年にはバンチャク・コーポレーション(BCP)の子会社との合弁事業を通してバイオディーゼル工場に投資し、再生可能エネルギーおよび代替エネルギー分野にも進出を果たす。スコータイ県で石油精製工程でガスを分離して再利用する石油製品工場の開発に投資、チェンマイ県でバイオマス発電所を開設したほか、屋根型太陽光発電所、ガス火力発電所にも投資している。
【募集要項】
1)農業廃棄物を製品化する炭素回収プラントの管理技術
2)炭素隔離の経験を持つ日本企業のノウハウ
3)日本のニーズに合わせたプラントベース食品の商品開発
4)タイから日本へプラントベース食品の販路拡大
5)日本のニーズに合わせたペットフード商品の開発
6)タイから日本へペットフードの販路拡大
調味料、レトルト食品、プラントベース食品、ペットフードなどの製造・販売を行う食品会社。創業1991年、SET上場企業。タイ国内外に生産工場があり、2022年の売上高は約22億バーツ。自社製品とOEM製品を合わせて、イギリス、アメリカ、インドネシアなど世界30カ国以上・2000アイテム以上の製品が販売されている。近年では、PTT の子会社 Innobic (Asia) Co., Ltd. と提携したプラントベース食品工場や、同じくInnobicと共同出資している代替たんぱく質レストラン 「alt.Eater」事業など、イノベーティブな食品事業にも進出している。NRFはタイ国外でのペットフード業界に成長の機会があると考えているのだが、日本への輸出経験はないため 、経験豊富な輸入代理店を探している。
【募集要項】
1)ベーカリー用有機キャッサバスターチ原料の食品生産・開発のパートナー
ー健康食品やスナックの生産・開発の共同投資または共同研究開発のパートナーを募集
2)機能性食材(食品・サプリメント用)の最先端バイオ技術・素材技術パートナー
ーハイテクかつ革新的な食品添加物の生産パートナー
3)生分解性パッケージの製造に投資または共同研究・生産開発出来るパートナー
4)サステナブルな航空燃料に投資または共同研究開発出来るパートナー
タイ東北部ウボンラチャタニ県を拠点にキャッサバを原料とする加工製品の製造・販売を行うメーカー。主な製品はエタノールとキャッサバスターチ。長年、エタノールやキャッサバスターチを中心に製品を展開してきたが、小麦粉の代替となるグルテンフリーのキャッサバスターチの製造開発のため、子会社のUbon Sun Flower社(UBS)に3億バーツ投資。グルテンフリーのベーカリー用有機キャッサバスターチのニーズはますます増え、ブラウニーやグルテンフリーのパン、即席加工食品の製造・販売を行っている。また、有機キャッサバスターチ、エタノールを利用した高付加価値製品の生産拡大を目指しており、機能性(食品・サプリメント用)素材や、主力製品のキャッサバスターチを利用した生分解性パッケージを製造することで付加価値を高めていきたい。
【募集要項】
1)バイオ技術パートナー
ーバイオ技術を活用した食品の製造。食品添加物、エキス、機能性食品の製造等
2)製品のマーケティングパートナー
ー栄養補助食品、健康食品、プレバイオティクス食品、バイオプラスチック製品等
3)飼料用のバイオベース原料関連の技術パートナー
4)バイオ燃料のパートナー
ミトポンは、65年以上の歴史を誇る、アジア最大の製糖企業で、タイはもとより中国やラオス、インドネシア、オーストラリアにも生産拠点を持つサトウキビ生産と製糖事業のリーディング・カンパニー。現在は、売り上げの60%以上を製糖事業が占めており、次いでエネルギー事業、木材の代替事業となっている。また、近年はタイの新たな国家戦略であるBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済の促進にも力を入れている。今後は持続発展可能な事業を展開していくために、バイオ技術を活用して製品の付加価値を高めていくことを目指しており、特に代替エネルギーへの転換を実現するために研究開発に力を入れている。
【募集要項】
1)タイと東南アジアで市場拡大を目指すパートナ
ーすでに商品を持っており、タイおよび近隣諸国での市場拡大を目指すメーカー企業募集
2)タイでの製造工場を設立から共に行える合弁パートナー
ー医療用食品、医療栄養、患者向けの食品の生産 / 高齢者向け食品、嚥下食等の生産
3)Innobicブランドの製品を製造できるOEMパートナー
ー高齢者向け食品、嚥下食等 / 医療栄養 / 患者向けの食品機能性食品等
PTTの子会社であるInnobic(Asia)は、医薬品や健康食品などのライフサイエンス事業を拡大するために資本金20億バーツで設立。2021年4月、抗がん剤を開発する台湾最大の製薬会社「Lotus Pharmaceutical Company Limited」に15.6億バーツを投じて6.6%の株式を取得した後、同年11月には30.60%増やし、合計37.26%の株式を取得。同社は、既存のネットワークを通じて市場を拡大するための信頼を構築し、新しいパートナーシップを築くとともに、タイとアジアの製薬およびライフサイエンス事業のリーディングカンパニーとして前進するために、持続可能なエコシステムの構築にも注力している。
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THAIBIZ Chief News Editor
増田 篤
一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。
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