外資規制についての違反と罰則

ArayZ No.140 2023年8月発行

ArayZ No.140 2023年8月発行2030年 タイの消費財・ 小売りビジネスの未来

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外資規制についての違反と罰則

公開日 2023.08.09

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

違反は手続き面に集中、 実体面が認定されるケースは少ない

外資規制を規定する「外国人事業法」は、タイで事業を行う日系企業にとって、もっとも気を配るべき重要な法律の一つである一方で、違反によって罰則を受けた事例は、あまり耳にしません。しかし商務省の月次レポートによれば、これまでの約20年間で違反が認定された事例は800件超、年平均で40件程度と、相応の件数に達することが分かります。

しかし、近年の違反件数の内訳には明確な偏りが見られます(図表1)。

累計で全体の6割を占めるのは40条違反で、これは担当官からの要請があったにもかかわらず書類を提出しなかったものとされています。特に、最近の3年間に限っては、違反認定のほぼ全てが、この40条違反に集中しています(なお、この統計は残念ながら2021年10月分までで公開が停止されています)。

他方、それ以外の違反については、2019年に38条違反(最低資本金の不足)が1件あることを除くと、この3年弱の間に違反認定の事例はなく、大幅な減少傾向にあると言えます。日系企業にとって気になる37条違反(無許可での事業実施)や、36条違反(名義貸し)についても、累計でもそれほど大きな数ではありませんし、近年では事例が見られません。

こうした傾向からは、商務省も決して積極的に外国人事業法違反を認定したいということではなく、まずは企業に対して説明を求め、問題がある場合には改善を促し、それでも対応されない場合に違反を認定する、という外資企業に配慮した抑制的なスタンスにあると理解することもできます。

ただし件数の多い40条違反は、手続き上の違反ではあるものの、求められた書類を提出しなければ、当局からの不信感を招く可能性も考えられ、痛くもない腹を探られることにもなりかねません。また、違反件数が多いということは、それだけ書類提出を求められるような事例も多いということです。

最近も日系企業で、商務省から外国人事業法に関する照会があり、書類提出と出頭を要請される事例がありました。期限は通知から約2週間と、かなりシビアなものです。商務省からの通知は、当然ながらタイ語でしか届きませんので、日本人が見落とし、意図せず対応が遅れるようなこともあり得ると思われます。

最近追加された商務省の資料によれば、例えば2020年の1年間で、約300件もの外国人事業法に関する検査を行っており、うち50件程度で何らかの課題が検出されているとのことです。ここでも、やはり大部分は40条(書類提出義務違反)に関係するものとされています。

図表2でご紹介するように、40条違反の罰則は大きいものではありませんが、そこから他の違反に伝播すれば、より厳しい罰則も生じえます。前回も述べたように、タイ人の法務スタッフによっては外国人事業法に対する理解が十分ではないこともあります。違反認定事例が少ないことに安心せず、特に外資ステータスとなっている企業の場合には、日本人もよく注意しておくことが必要です。

罰則には懲役刑も規定、日本人取締役にとって違反リスクは高い

タイの法律の一般的な特徴として、違反に対する罰金の額はそれほど大きくないものの、規定上は懲役刑が設けられていることが多い、というものがあります。特に外国人事業法は、制定から20年ほど経過している法律で、この間に改正等もされていませんので、こうした特徴が顕著に表れています。

図表1でご紹介した6種類の違反類型について、それぞれ図表2のような罰則規定が設けられています。

違反認定件数が圧倒的に多い40条違反は、実は5千バーツ以下の罰金と、罰則としては非常に小さいものです。しかし、40条違反に問われるということは、外国人事業許可書(FBL)を取得している場合であれば、19条違反(許可取り消し)に発展する可能性も商務省資料には言及されていますので、単に5千バーツ払えば解決するという問題ではありません。FBLを取得していない場合であっても、他条の違反を疑われるリスクを招くことは前述した通りです。

日系企業にとって気になる36条(名義貸し)と37条(無許可での事業実施)は、違反認定件数こそ少なく、また罰金額としてはそれほど大きくないものの、条文上は懲役刑の可能性が規定されています。この場合、特に取締役として登記されている日本人は、自身が認識していないリスクを負っていることもあります。もちろん直ちに懲役刑につながるというものではありませんし、実際に懲役とされた事例が多いわけでもなく、そもそも違反認定の件数自体も限られるものですが、だからといって蔑ろにできるようなルールではない、ということが読み取れます。

どちらかと言うと名義貸しは意図的に行われるものですが、他方で無許可での事業実施については、外国人事業法の理解不足から意図せず行ってしまうケースも多々ありますので、次回、詳しくご紹介していきます。

なお37条は「外資企業」として事業を行なっている企業に対して適用されるものであるのに対して、36条は表面上「タイ資本企業」として事業を行なっている企業に対して適用されるものである点にも注意が必要です。外国人事業法は、外資ステータスであるか、タイ資本ステータスであるかを問わず、タイでビジネスを行なっている全ての日系企業にとって、気を付けるべき法律であることに変わりはなさそうです。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Head of Consulting Division

吉田 崇 氏

東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

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