世界の食料農業課題に、日本発の処方箋を。FAOがつないだ日系スタートアップと世界

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世界の食料農業課題に、日本発の処方箋を。FAOがつないだ日系スタートアップと世界

公開日 2026.10.09

年々複雑化する世界の農業・食料システムを巡る課題の解決には、政府だけでなく、民間企業が持つ革新的な技術やノウハウの活用が欠かせない。国連食糧農業機関(FAO)は昨年、アジア・太平洋地域の政府代表と民間企業が直接対話する「ハンド・イン・ハンドイニシアチブ 地域投資フォーラム」をタイで開催。日系スタートアップであるフェイガー、ストラウトの2社は同フォーラムへの参加を通じて各国政府とのネットワークを築き、自社技術を世界の食料農業課題の解決に生かす可能性を広げている。

国際機関との連携を、企業はどのように新たなビジネス機会へと結び付けているのか。 FAOアジア太平洋地域事務所プログラムオフィサーの藤原和幸氏、ストラウト代表取締役社長の平林馨氏、フェイガー代表取締役CEOの石崎貴紘氏に、詳しく話を聞いた。

Interviewee’s Profile

藤原 和幸 氏

藤原 和幸 氏 国連食糧農業機関(FAO)
アジア太平洋地域事務所
プログラムオフィサー


石崎 貴紘 氏

石崎 貴紘 氏 株式会社フェイガー
代表取締役CEO


平林 馨 氏

平林 馨 氏 株式会社ストラウト
代表取締役社長

世界の課題解決に必要な民間企業の力

Q. 投資フォーラムを開催した経緯について教えてください

藤原氏:世界ではスーパー・エルニーニョ現象等の気候変動や中東他の紛争などにより農業・食料システムを取り巻く環境が急速に変化しています。FAOを含む5つの国連機関が発表した最新報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI 2026)」によると、2025年に飢餓に直面した人口は、世界人口の約7.8%に当たる約6億4,500万人と推計されています。

こうした課題は、政府だけで解決できるものではありません。そこでFAOは2019年、「ハンド・イン・ハンド・イニシアチブ」を立ち上げ、SDGsの中でも「貧困の撲滅」と「飢餓ゼロ」の実現に向けて、各国政府と民間企業、開発銀行等をつなぐ官民連携のプラットフォームを構築しました。

天然資源データから社会経済データまで幅広い情報を網羅するビッグデータや地理情報システム(GIS)などを活用して投資ポテンシャルの高い地域を可視化し、加盟国と民間企業、開発銀行等の連携を促進しています。毎年ローマの本部で全世界を対象に投資フォーラムを開催していますが、昨年はアクセスの良さや政治的な安定性を踏まえ、タイでアジア・太平洋地域を対象とした地域フォーラムを開催しました。

同フォーラムには、23ヵ国から16社の民間企業を含む総勢約120名が参加。以前からFAOとつながりのあった日系スタートアップのフェイガーとストラウトも招待し、ご参加いただきました。

フォーラム参加を機に広がった事業機会

Q. 地域投資フォーラムへの参加は、実際にどのような成果につながりましたか

平林氏:ストラウトは静岡県で60年以上続くニジマス養殖業から生まれた水産テック企業です。疾病や気候変動による生産ロス、新興国での技術・人材・資金へのアクセス不足といった課題に対し、当社がオペレーターやアグリゲーターとして入り、生産から販売までを一手に担うソリューションを国内外で提供しています。

昨年、地域投資フォーラムでブータン農業畜産省の事務次官と面談したことが海外展開における大きな転機になりました。ブータンでは「ニジマスを国家産業に育てたい」という構想があり、当社の技術と一致したことで、農業畜産省と覚書(MOU)を締結し事業がスタートしました。

さらに、その後参加したローマの世界食糧フォーラム(WFF)では、FAOからカザフスタンやエクアドル、パラグアイなど新たな国への展開も提案いただきました。

コロナ禍を経て、多くの国が食料安全保障、とりわけタンパク質供給の重要性を再認識しています。東南アジアだけでなく、アフリカや中南米、中央アジアにも大きな可能性があると感じています。

石崎氏:フェイガーは持続可能な農業を目指し、稲作分野に特化しています。事業は大きく二つあります。一つは脱炭素農法を導入し、カーボンクレジットを創出すること。もう一つは、高温や干ばつなど気候変動への適応技術を提供することです。十分な投資余力を持たない農家を対象に、カーボンクレジットによる追加収入を活用して、気候変動への対策を進められる仕組みを構築しています。

当初は「フェイガーという会社を知ってもらうこと」を目的としてフォーラムに参加しました。しかし実際には、FAOを含む国際機関、各国政府、アジア開発銀行(ADB)など、通常では一度に会えない方々と率直な意見交換ができました。

一般的な展示会とは異なり、参加者全員が「持続可能な農業」という共通目的を持っているため、最初から課題や役割を共有した状態で話ができる点が非常に印象的でした。

地域投資フォーラム終了後には、FAOフィリピン事務所長への表敬訪問が実現。当社の間断灌漑(AWD)やデジタル測定・報告・検証(MRV)アプリなどの取り組みに関心を持っていただき、FAOが実施する持続可能な農業機械化プロジェクトの農家向け研修のAWD講師を務めることになりました。また、FAOとフィリピン農業省が進める気候変動適応プロジェクトの連携可能性に関しても協議が進んでいます。

これらの取り組みが現地の人々との信頼関係につながり、事業拡大への大きな足掛かりになっています。

フェイガーとタイのWave BCGによる連携

タイを起点としたグローバル連携が世界を変えていく

Q. 国際機関との連携は、企業にとってどのような価値があるのでしょうか

平林氏:第一次産業のスタートアップは、設備投資が大きく、事業が軌道に乗るまでに時間がかかります。そのため、ADBなどの融資を活用する場合でも、まずは現地政府やFAOのような国際機関から「この事業には社会的な意義がある」という評価を得ることが重要になります。

海外では技術力だけで事業が進むわけではなく、「誰とつながっているか」が非常に重要です。FAOという信頼できる第三者が間に入ることで、政府との対話も進めやすくなり、その後の資金調達や事業展開にもつながっていくと実感しています。

石崎氏:国際機関と民間企業は、それぞれ得意分野が異なります。緊急支援や制度づくりは国際機関が担い、その後の事業を継続的に回していくのは民間企業の役割だと考えています。

社会課題は一時的な支援だけでは解決できません。ビジネスとして持続可能な仕組みを構築することで、真の意味で課題解決が実現できるのだと思います。

藤原氏:国際機関として私たちは、企業が安心して挑戦できる環境を整え、投資のリスクを低減・共有・分散できるような取り組みを後押しし、各国政府や開発銀行との橋渡しをすることが農業・食料システムの革新に不可欠であると考えています。また、企業の現場の声を政策立案に反映し、より実効性のある制度づくりにつなげるための、多様なアクターが対話する場を提供することも重要な役割です。

世界の農業・食料システムを巡る課題に対応するには、民間企業が持つ技術やビジネスモデルを社会実装していくことが不可欠であり、私たちはその挑戦を後押ししたいと考えています。

タイは立地的な優位性などから、地域投資フォーラムのような国際会議の開催地に選ばれる機会が多くあります。微小粒子状物質(PM2.5)の原因となる稲わら等の農作物の残さの野焼き問題など、日系企業の技術や知見を生かせるテーマも豊富です。今後もタイを起点に、日本企業と世界をつなぐ橋渡し役を担っていきたいと考えています。

>>本連載「国際機関と企業が創る新たな価値」の記事一覧はこちら

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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