日本の食農スタートアップ紹介① 『TOWING』農業向け高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」開発 ~AgriTech Bridge 2023より~

日本の食農スタートアップ紹介① 『TOWING』農業向け高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」開発 ~AgriTech Bridge 2023より~

公開日 2023.06.27

農林中央金庫と、JAグループによるスタートアップ企業支援組織AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)、そしてタイのカシコン銀行が5月17日に開催した食品、農業分野における日本の先端的スタートアップ企業をタイに紹介するイベント、「AgriTech Bridge 2023」では日本企業8社がピッチに参加した。そこで今回から各社のプレゼンテーションを1社ずつ紹介していく。第1回は、名古屋大学発のスタートアップ企業で有機農業向け農地を造成でき、脱炭素化にも貢献する高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を開発したTOWING(トーイング)の木村俊介COOのプレゼンテーションを報告する。

有機肥料活用などサステナブルな農業モデルを

株式会社TOWINGは土壌の微生物の力によって、農業の脱炭素化、そして有機農地への転換など農業分野のサプライチェーン全体をサステナブルなものにしていくことを目指しています。実は本日、8億円の「シリーズA」ラウンドの調達を完了しました。タイも含めて全世界で事業を展開していきたいと思っています。

農業分野の課題は大きく3つあります。1つ目は、化学肥料の価格上昇。2つ目は農業分野の二酸化炭素(CO2)の排出が全産業の中で約10%を占めていることで、実はクリーンなイメージがある農業ですが、農業も脱炭素に向き合っていかなければならなくなっています。3つ目は、バイオマスのゴミがたくさん出てくるので、その処理というアップサイクルも最近求められています。農業分野全体でサステナブルな農業モデルが必要になっており、特にその代表格が有機農業です。

微生物の活用で土づくりの速度を上げる

ただ、今まで化学肥料を使ってきた農地を即座に有機に転換していくと、栄養が足りなくなり、これまでの土づくり手法では収穫量も約34%に減少するので農家の販売量も減ります。このため土づくりに約5年をかけて収穫量を戻していくという作業が必要になります。そこで日本でもタイでも有機農業がなかなか広がらず、さらにカーボンオフセット、バイオマスの利活用に向き合うフェーズまでまだ来ていないというのが農業現場の課題です。

「宙炭とは」出所:TOWING
「宙炭とは」出所:TOWING

われわれはこの課題を解決するために、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を開発しました。地域に余るバイオマスであるもみ殻や家畜の糞を炭に変えた「バイオ炭」に微生物を付加、地域で余る有機肥料を混ぜ合わせて培養していくことで、土づくりの速度を圧倒的に上げるという製品です。

特に宙炭のコア技術は、土壌微生物の培養技術で、土壌微生物の中でも有機肥料をうまく使いこなす微生物は主にアンモニアをつくる菌、そして硝酸体窒素をつくる菌と2種類の菌が必要になります。この2種類の菌を同時に培養するテクノロジーが非常に画期的なものです。この技術は実は日本酒を発酵させる技術を応用しています。

CO2排出削減、そして収穫量増加

「宙炭を用いた農業」出所:TOWING
「宙炭を用いた農業」出所:TOWING

宙炭を使うメリットは2つあります。1点目は有機肥料の利用効率を上げられます。一般的な有機農業をやる農家の土づくりは大体5年かかります。有機肥料の利用効率は1日当たり約5%で、5年かけて5%の土というのが今までです。これに対して、宙炭を入れると1か月で40%の肥料利用効率になります。従来の方法では達成できなかった期間の短縮、そして有機肥料の利用効率の向上を両立させることができます。

2点目としては、カーボンオフセットの観点です。例えば、バイオマスを「生」の状態で農地に入れていくと、数か月後には養分とCO2に分かれ、CO2は大気に放出されていきます。これに対して、バイオマスを炭に変え「バイオ炭」にすると、農地の中で分解されにくくなります。これによって、炭素を農地の中に貯留をしていくことができ、CO2の排出が減るというメカニズムです。

「宙炭による収穫量の増加」出所:TOWING
「宙炭による収穫量の増加」出所:TOWING

さらに、農家のメリットとしては、日本の農家の事例ですが、化学肥料を使った時の収穫量に対して、私たちの宙炭と有機肥料を使うことで収穫量が1.7倍に増加しました。収穫量が増え、売れるものも増え、売り上げも上がっていくということで、経済的なサステナビリティーが生まれてきます。

原料はローカライズ

これらを成り立たせていく上で特に重要になるのが「バイオ炭」です。バイオ炭の原料は、コメのもみ殻(ライスハスク)、家畜の糞、タイでたくさん出るサトウキビの搾りかすなど地域地域に合わせて使いこなすことになります。例えば、タイ北部だと、コメの収穫が多いので、ライスハスクを使います。タイの中部・南部ですと、サトウキビが多いので、サトウキビの搾りかすを使った宙炭をつくる。ローカライズをしていくことで、地域に応じたサプライチェーンを構築していくことができます。

私たちが考えているタイでのビジネスモデルは、主にバイオマスをバイオ炭、「宙炭」に変えるプラントを持って頂けるパートナー企業を見つける。2つ目が、宙炭を売って頂けるパートナーを見つける。そして3点目が、宙炭を農地に入れることによって得られるカーボンクレジットを売買できるパートナーを見つけていく、この3つが重要です。カーボンクレジットに関しては、われわれが発行したカーボンクレジットを売った金額の50%を農家とレベニューシェアすることを考えています。

競合についてですが、特に農業資材の分野では、あらゆる機能を盛り込んだ単一のプロダクトが求められます。われわれの宙炭が持つ機能は複数あり、それぞれの機能ごとに競合はいます。ただ、全ての要素を盛り込めている製品はわれわれしか持っていません。農家はこれまでの手間と変わらず、プロダクトを使いこなすことができるゆえに広まりやすいというポジショニングになっています。

市場規模は約1200億ドル

われわれは現在、日本では20都道府県で実証試験をスタートしています。今回のタイでのプレゼンテーションをきっかけにして、東南アジア、それから米国や英国などグローバルな展開を今年から行っていきます。

マーケットサイズとしては、バイオ炭のマーケットサイズとカーボンクレジットのマーケットサイズを合わせた市場規模で、約1200億ドルです。

最後に、CO2の削減量のインパクトですが、全世界で出ているCO2のうち、農業分野での排出量は合計54億トンあります。これらを、われわれの宙炭を全世界に広めることで、全てキャンセルすることができます。毎年70億トンのCO2を削減できるポテンシャルがあります。

われわれは、タイは非常に大きなマーケットだと思っています。特に、日本との親和性も高く、コメも食べる地域ですので、タイでも日本と同じようなビジネスを組み立てていくということを考えているので、パートナーとなっていただける企業は是非、お声がけください。

TJRI編集部

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