デジタル人材を育成し、時代の変化に対応していく 〜タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー

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    デジタル人材を育成し、時代の変化に対応していく 〜タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー

    公開日 2025.07.04

    デジタル時代において、工学やテクノロジーの知識とスキルは不可欠だ。タマサート大学シリントーン国際工学部(SIIT)は、国内外の市場で求められるテクノロジー人材を育成する教育機関として重要な役割を果たしており、設立当初から現在に至るまで長きにわたり、日本と強固な関係を築いている。

    今回は、SIITのディレクターであるクリアンサック・パーヌワットワニット准教授に日本との友好関係や学生の就職活動、タイの競争力のある産業について話を聞いた。

    (インタビューは3月6日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

    タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー04
    mediatorのガンタトーンCEO(左)、タマサート大学SIITのディレクターのクリアンサック・パーヌワットワニット准教授(右)

    経団連と共同設立、日本との強いつながり

    Q. SIITの設立経緯について

    クリアンサック准教授:シリントーン国際工学部(SIIT)は1992年に設立され、タイへの外資、特に日本からの投資が活発な時期でした。しかし当時は、タイのエンジニアたちは外国語をあまり身につけていませんでした。そこで、経団連とタイ工業連盟(FTI)、タマサート大学が共同で「英語工学プログラム」を設立し、国際的に活躍できる人材を育成することを目指しました。そして、翌年にプログラムから学部に変更し、現在の「シリントーン国際工学部(SIIT)」に改称しました。

    タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー03

    Q. SIITと民間企業のつながりは

    クリアンサック准教授:経営面では、SIITには民間企業の取締役会のような役割を果たす評議員会が存在しています。メンバーにはFTIや経団連の代表を兼任している者もおり、アドバイスや情報提供、トレンドの共有などのサポートをしています。

    運営面では、主に研究を通じて連携やネットワークの構築をしており、民間企業と協力し、課題解決を目指す研究開発も行っています。 また、教育面では、産業界から講師を招き、大学生たちへ知識や経験を共有することもあります。

    時代の変化への大学の適応

    Q. SIITはどのように変化に対応してきたか

    クリアンサック准教授:当初、SIITは製造工学と建設工学に重点を置いていました。その後、コンピューター、ICT、経営工学のプログラムを追加しました。時代が進むにつれ、業界の変化に対応するため、ICTプログラムを「デジタルエンジニアリング」に、経営工学プログラムを「ビジネス&サプライチェーン分析」に変更しました。

    近年は教育機関としても、世界的なトレンドであるAIに適応する必要があります。そのため、私たちは、教育課程にAIを取り入れ、カリキュラムを調整してきました。例えば、コンピューターエンジニアリングプログラムとデジタルエンジニアリングプログラムでは、AIが役割を果たす科目があります。さらに、ビジネス&サプライチェーン分析プログラムでもデータとAIを活用しています。

    タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー05

    Q. SIITの中で、特徴を持つ分野・プログラムは

    クリアンサック准教授:学生数が多いのは、コンピューターエンジニアリングプログラムとデジタルエンジニアリングプログラムです。企業とのインターンシップ連携もあり、1学期で約4~5ヶ月の長期プログラムとなっています。学生がプロジェクトを作成して発表することで成績が評価されるという点で、他の大学のインターンシップと異なります。

    日系企業との関係が良好な分野としては、日系企業を含む多くの工場と覚書(MOU)を結んでいる製造業、日系企業に勤務経験を持つ教授が所属する土木工学が挙げられます。なかでも建設材料において日系企業との関係が強いです。

    自己発見を重視する若者に、企業が魅力を伝えるインターンシップ

    Q. 現代の学生は就職活動についてどう考えているか

    クリアンサック准教授:最近の若者はギャップイヤー(Gap Year)を取るのが一般的になっています。就職活動を始める前に、自分探しのために海外に行く人が増えています。この考え方は欧米から影響を受けていると思われます。ギャップイヤーを取ることで、さまざまなことを学び、成長できる人もいるでしょう。私は、教師としてもこのような変化に対応することが重要だと考えています。

    タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー01

    Q. インターンシップ終了後その企業へ就職できる制度について、学生はどう感じるか

    クリアンサック准教授:2つの考え方があります。卒業後の就職が確実に保証されるため、魅力を感じる学生もいれば、2〜3年間も続けられるほどその仕事が自分に合っているのか心配になる学生もいます。 しかし、多くの学生はすでにその企業に興味を持って応募するため、概ね、条件には同意するでしょう。

    デジタル人材不足に対応した育成支援の取り組み

    Q. タイ市場の需要に対してデジタル人材が不足していることについてどう考えるか

    クリアンサック准教授:この問題を認識しており、多くの大学が入学者数を増やしています。一方で、関連分野を卒業していない人が市場の需要を満たすことになると考えられます。そのため、教育部門だけでなく、FTIの「FTIアカデミー」など、人材育成を支援する機関も活動しています。FTIアカデミーは、求職者や転職希望者、企業が能力開発のために送った人に対する、アップスキリング・リスキリングに注力しています。

    タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー02

    Q. 民間企業と連携した人材育成の取り組みは

    クリアンサック准教授:SIITは外部機関への研修も行っています。ニーズに合った効果的なコースを設計するためには、まず企業が何を求めているのか、どのような人材を育成したいのかを把握する必要があります。そのため、関心のある企業、特に社内にトレーニングを持っていない中小企業には、私たちに相談していただきたいです。SIITの講師陣は定期的に研修を行い、スピーカーとしても招かれることが多いため、十分な人材が揃っています。

    タイの強みである製造業と農業を強化

    Q. 今後、新Sカーブになる産業は

    クリアンサック准教授:製造業と農業がタイの強みとしてさらに成長できる分野だと考えています。製造業については、タイの労働者は品質や細部へのこだわりに優れ、高品質の製品を作り出しています。しかし、自動化が重要になった現在では、労働者の強みであるソフトスキルを自動化システムと組み合わせ、能力をさらに高めることで、このトレンドに対応すべきです。

    農業では、日本のように技術を導入し、付加価値を高めることができれば、さらに発展する可能性があります。一方で、技術開発については、現時点では難しいかもしれないです。私たちの強みと技術を活かし、新たな知識を強化・創造するのが適切でしょう。

    タマサート大学・SIITのクリアンサック准教授インタビュー06

    Interviewee Profile

    クリアンサック・パーヌワットワニット准教授(Assoc. Prof. Dr. Kriengsak Panuwatwanich)
    Director, Sirindhorn International Institute of Technology (SIIT)

    タマサート大学SIITの土木工学科卒業。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の建設工学マネジメント修士号取得。オーストラリアのグリフィス大学工学部博士課程修了。2025年にSIITのディレクター就任。


    THAIBIZ編集部

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