カテゴリー: 対談・インタビュー, バイオ・BCG・農業, 食品・小売・サービス
公開日 2024.11.25
先週配信したタイでオーガニックビジネスを展開するハーモニーライフの大賀昌社長インタビューの(上)では、タイのオーガニック野菜・果物の安定栽培に苦闘しながら事業をどのように軌道に乗せていったかをリポートした。今回の(下)では、タイ産オーガニック食品のタイ国内販売、日本や米国への輸出など同社の事業の最前線と、その際にもっとも重要なオーガニック認証取得の取り組み、さらにはタイのオーガニック市場の今後の展望について日本との比較を含め大賀社長の見解を紹介する。
(取材・11月8日など、聞き手・増田篤)
目次
大賀氏:タイ国内が7割、海外が3割ぐらいだ。タイ国内ではオーガニックショップの「サステナ」で生鮮野菜・果物を販売しているほか、自社デリバリーと通販にも対応している。加工食品はロータスズやトップス、マックスバリュー、ビッグCなどの大手スーパーにも出荷している。主力商品であるモロヘイヤヌードルは大手タイスキレストランチェーンにも納入している。海外は米国と日本向けが多いが、シンガポールや香港、アラブ諸国の5カ国にも輸出している。シンガポールではベーカリーでハーブティーを販売してもらっている。
2010年から米国への輸出を始めた。米国の代理店を通じてオーガニックスーパー大手ホールフーズにオーガニック食品を出荷・販売している。ホールフーズが取り扱うクオリティーの製品を作ることを目標にしている。ホールフーズで販売できれば、あとは自動的に他のスーパーにも入っていける。現在では米国内で約540店舗のスーパーが取り扱っている。
大賀氏:今、世界のマーケットが求めているのはオーガニックなので、タイの農業・協同組合省がオーガニックにも非常に力を入れている。もちろん従来型の農薬・化学肥料を使う慣行農業も支援しており、いわば「両刀使い」だ。タイ農業省は2002年に「オーガニック・タイランド」という独自の認証制度を作った。農業省はこの認証取得のための検査費用を無料にしてオーガニック農業を積極的に奨励している。しかし、オーガニック・タイランドは国内だけの認証であり、海外では通用しない。ただ、その認証制度はかなり厳しくなっており、将来は世界の認証制度と相互認証も可能になっていくのではないか。
オーガニック認証とは農薬と化学肥料を3年以上使用せず、さらに農作物、土壌、農業用水からも農薬が検出されないことが条件だ。無農薬有機栽培より厳しい条件をクリアした農場に対しオーガニック認証が認められる。ハーモニーライフオーガニック農園は、①米農務省(USDA)②国際有機農業運動連盟(IFORM)③EURO ④カナダ ⑤日本の有機JAS ⑥タイ農業省―の6つの国際認証を取得している。認証は毎年取得する必要がある。このうち、②~④は1つのパッケージで取得できるが、米国、日本とタイは別の検査を受けることになる。日本の有機JAS認証は他の認証の3倍ぐらいのコストがかかる。
大賀氏:ハーモニーライフ農園の農地面積は当初は40ライ(1ライ=1600平方メートル)だったが、土地を買い増して現在は70ライだ。スタッフ数は農場と工場が約60人、本社、レストラン、ショップを含めると100人を超える。堆肥を作るためもあり飼養している家畜は、牛は約30頭、鶏は約1000羽を超える。しかし、ハーモニーライフだけでオーガニックを実践しても、身体に良い食べ物が増えるのは限界があり、環境が大きく改善するわけではない。
そこでより多くの人にオーガニック農業をやってもらうために2010年頃からオーガニック研修も始めた。年間の研修生は500人ぐらいになっている。20~30人程度を募集して行う2日間の短期研修を毎年、数カ月おきに実施している。東京大学などの学生や日本の農業団体などのグループの研修もある。また数カ月以上の長期研修もあり、現在は日本人1人を受け入れている。東南アジアの別の国からも来る。また、最近バンコクで注目されているオーガニックレストランの経営者たちもわれわれの農園で研修を受けた。
研修に参加する人は、最初はやはり農家がほとんどだった。しかし、研修が終わった時、「オーガニックが良いのは分かるが、病虫害で収穫できなかったらどうやって家族を養っていけばよいのか」という声も聞いた。私自身も最初の5~6年は本当に苦しみ、借金ばかりしていたので、農家の気持ちはよく分かる。こうした農家への対策として、土地の半分に病虫害がほとんどないハーブを植え、ハーブで生活費を稼いでもらい、野菜のオーガニック栽培は時間をかけて経験を積んでもらうようにしたら、農家の取り組みも大分変わってきた。
最近では研修を実施すると、農場の駐車場にBMWやベンツなどの高級車が停まるようになっている。タイ人富裕層の子息が勉強に来るようになり、例えば30人の研修生の半分ぐらいがそういう方の時もある。なぜオーガニック農業をやるのかとたずねると、「今の食べ物は農薬まみれで食べたくない」と言い、土地はあるのでまずは自分と家族が食べる分を作り。それでうまくいったら、ビジネスに入っていくと言うタイ人がここ7~8年で急に増えてきた。彼らはオーガニックにビジネスチャンスを見ているのだろう。
サステナのレストランの顧客も、昔は7割ぐらいが日本人で、残りがタイ人や欧米人だったが、ここ5~6年でその比率は逆転しつつある。新型コロナウイルス流行で駐在日本人が減ったということもあるかもしれないが、タイ人の富裕層が増える中で、オーガニックについて勉強して知識が増えていることも背景だ。
大賀氏:日本はオーガニック農業がすごく遅れてしまった。日本の農協は、農薬や肥料を販売することで利益を挙げているため、オーガニック農産物を買わないことも原因かもしれない。日本の農協や農水省も両刀使いでオーガニック農業を推進すべきだ。有機JAS認証のコストも高いし、多くのオーガニック認証を取得することも大変なので、オーガニック認証を世界中で統一してほしいと日本の政府当局者に提案している。また、ドイツなどでのオーガニックの国際展示会では、世界中からオーガニック産業の関係者が参集するが、日本からの参加者は少ない。これでは世界についていけない。
日本の行政が今のままだと日本の農業は衰退していくだけだ。若い人が楽しめる農業にしないといけない。従来型の農業では農協がすべて価格を決めてしまう。やはり、食べて健康に良いものを自分たちで値段を決められるようにすべきだ。若い人がマーケティングをして、農業を楽しくしていくことも大切だ。
ハーモニーライフ農園での研修の経験者が増えるとともに、タイでオーガニック農業が少しずつ広がってきた。現時点ではタイの農家の99%は農薬を使う従来型の慣行農業だが、これからオーガニック農業が毎年着実に増えていくだろう。
THAIBIZ編集部
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