連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2023.02.07
今年、日本ASEAN友好協力50周年を迎える中で、日本の大手商社のタイ法人トップが新たなビジネス展開に向け、日本とタイ、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済関係についてどう考えているのかを探る連続インタビューの第2回は、丸紅泰国会社の日高和郎社長だ。
(インタビューは1月中旬、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
日高氏:丸紅泰国会社が設立されたのが1974年、来年でちょうど50周年だ。ただその20年前、1954年にバンコク支店を開設していたので、この支店時代を含めると70年になる。タイにおける最初の活動は支店時代を含め主にインフラ事業だった。
例えばチョンブリ県レムチャバン港のコンテナターミナルの運営をしていた「ESCO」という会社に出資、一昨年に売却するまで事業を継続した。また、バンコク・エクスプレス・アンド・メトロ(BEM)が運営する都市鉄道「パープルライン」事業では当社と東芝さんの合弁会社で鉄道システム一式を納入し、2016年の開業後はJR東日本さんにも参画頂いた3社合弁会社でメンテナンス事業を請負っている。
インフラで大きいのは発電所だ。タイ発電公社(EGAT)の火力発電所の40%は当社が建設を請け負うなど、当社にとってはインフラ関係がビジネスの大きな柱の1つだった。産業構造や取り巻く環境の変化もあり、従来のような大型火力発電所の案件を推進するのは難しくなってくるだろう。
もう一つは、トレード(貿易取引)だ。歴史的に一番大きかったのは日本からタイへの輸出であり、タイにないものを日本から持ってきた。現地生産を始める前のことだ。その後、現地生産に切り替える中で商社も一部出資をさせてもらう形が1990年ごろまでは主流だった。しかし、その後、大半の案件で当社は出資を引き揚げた。マイノリティ出資では、その事業における発言権はなく、バリューも提供できないためだ。
日高氏:たくさんあり、数え上げたらキリがないが、やはり、日本がASEANに貢献したのは雇用と国内総生産(GDP)だろう。そして、タイで日常的に使われている日本製品は多い。例えば、タイ人も好きなインスタントラーメンは日本が発明した究極の商品だと思う。また、家電、コンビニ、文化ならカラオケやアニメ、マンガだ。これらは当たり前のように浸透している。
日高氏:合弁事業はほとんど撤退してしまい残っていない。一方で、当社独資の事業会社では自動車のカーメンテナンスをしている「B-Quik」の存在が大きい。主にタイヤの交換・販売、オイル交換の事業を行っている。非常に定着し、タイだけで200店舗以上ある。丸紅の世界の「B2C」リテール事業では数少ない成功例だ。B-Quikで店舗数を増やすには設備投資が相当必要で、資金を投入しながら事業拡大をしていく。そのほかでもタイにある企業の買収や資本参加で進めている案件が幾つかある。
日高氏:金融・物流・与信が3本柱だ。これがなければ誰も商社を必要としない。また、タイなどでは「看板」「信用力」というのがまだあると思う。例えばタイでの大手商社ではバンコク日本商工会議所(JCC)や泰日協会の幹部も務め、タイ経済界とのネットワークを持っており、それを顧客にバリューとして提供できている部分もあると思う。もう一つの魅力は、総合力だ。例えば、われわれが金属の原料を売っているお客さんがいる。これに対するさまざまなソリューションを発揮できるのが総合商社だと思う。金属原料を買うだけだったら、金属の専門商社から買っても構わない。安いところから買えば良い。
日高氏:いろいろやっている。例えば売り出し中のバイオ・循環型・グリーン(BCG)関係などもその場で少なくともさわりは説明できるようになるまで教育している。総合力について理屈で分かっても身体は簡単についていけない。これは、私が一番力を入れているところだ。
研修もさまざまな取り組みをしている。将来の幹部候補生に対しては、各国から優秀なローカルスタッフを集めた会社全体のワークショップに参加させている。さらに、部署によっては日本の本社に期間限定で送って研修させている。それでも、まだまだ足りないのが実感だ。
日高氏:現在、マネジャーはいるが、ゼネラルマネジャー(GM)はまだいない。将来的にGMレベルはタイ人に変えていきたいが、正直に言えばハードルは高い。本社側との会議がすべて日本語で行われていることもある。また、タイ人側の問題もあり、総合商社パーソンは幅広い知見を持ってなければならない。
日本人の場合、GMクラスであれば、過去にどこかで海外駐在をしている。サッカーのタイ代表監督をされていた西野朗さんとお話しした時に、タイ人のプロサッカー選手は能力がある選手は沢山いるが、外に出ていこうという選手がいないと仰っていた。タイ人にはもうちょっとアグレッシブに、自分から手を上げてでも海外に出ていってほしいと思う。
日高氏:相手が求めるものが何なのか、相手が商社から何を欲しているのか、それを感じなければならない。お客さんに「何かお困りですか?」と聞いても答えようがない。商社パーソンは「好奇心の塊」であることが必要だと思う。例えば、バンコクでもさまざまなところに行き、人々がどういう暮らしをしていることを感じるなどだ。自分で実際に歩いて感じることが大事だと思う。
日高氏:循環型・グリーン(BCG)経済モデルでは製糖大手ミトポンと農業残渣を使いながら、環境対応型のプラスチックを共同開発する覚書(MOU)を締結している。さらにバイオマス燃料ビジネスがある。現在木質ペレットを作っているタイ企業と取引をしているが、将来は製造にも入っていくことを考えている。石炭の代わりに木質ペレットを使いたい顧客がいる。
電気自動車(EV)では圧倒的に中国になっており、日本はまだ白黒はっきりさせていない部分もあり、相当な設備投資が必要だ。当社としては、EV製造よりフリートマネージメントだ。例えば、冷凍倉庫以外の通常の倉庫では基本的に電気の需要がない。その屋根の上にソーラーパネルをおいて、電気を作れるが、今はそこに需要がないので誰もしてない。その下に充電装置を付けて、トラックをEVに変えれば一気通貫でできる。このようなモデルをタイのパートナーと一緒にやっていきたいと考えている。
日高氏:これは私の持論だが、10年が潮時で、同じ形でずっと続くビジネスモデルはないと思っている。昔はミドルマンとしてのトレードだったが、出資によって商売の権利を維持し、持分法適用会社、あるいは連結子会社で事業を行う。メーカーに任せきりではなくて、独自でやるモデルに変わってきている。つまり、商社が誰かの間に挟まる時代はもう終わりだと思う。
タイのように進んでいる国もあれば、まだまだインフラが進んでいない国もある。社会課題はそれぞれ違うので、それに対応する必要がある。西村康稔経済産業相がタイに来た時にタイのコングロマリットは今、何も困っていないと申し上げた。よほどエッジの利いた機能・技術でなければ日本企業との協業・合弁というのは難しいのではないか。一方、タイ以外の国に一緒に出ていくことの可能性は大きく、タイ・日本企業の将来像の一つと考えている。
TJRI編集部
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