デンソー・インターナショナル・アジア 犬塚直人CEO ~EVに対応、中国系サプライヤーの競争力を見極める~

デンソー・インターナショナル・アジア 犬塚直人CEO ~EVに対応、中国系サプライヤーの競争力を見極める~

公開日 2024.03.04

トヨタ自動車の電装部門が分離独立してスタートしたデンソーは、日本国内最大手の自動車部品会社としてというだけでなく電装機器を中心に自動車関連のあらゆる先進技術、サービスを提供するグローバル企業に発展、タイには1972年に海外初の生産拠点として進出した。豪亜地域を統括するデンソー・インターナショナル・アジアの犬塚直人最高経営者(CEO)兼社長にデンソーの経営理念、タイでの事業戦略、組織運営、人材育成、そして電気自動車(EV)への対応などについて話を聞いた。
(インタビューは2月7日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)

デンソー・インターナショナル・アジアの犬塚直人CEO
デンソー・インターナショナル・アジアの犬塚直人CEO

ステークホルダーの支援で順調に成長

Q. タイでの事業規模やこれまでの歩みは

犬塚CEO:デンソーは1949年創業で、現在35カ国・地域に展開し、190社のグループ会社があり、従業員は世界全体で16万4000人、売上高は約6兆円だ。1972年に海外初の生産会社としてデンソー・タイランドを設立し、一昨年(2022年)に50周年を迎えた。タイ国内のグループ会社は10社で、約1万1000人の従業員を抱えている。

デンソーはグローバルに「環境(Green)」と「安心(Peace of Mind)」の価値を最大化して、社会から「共感(Inspiring)」をいただくことを目指しており、英語を使ってグローバルに共有している。タイでも1990年代後半のアジア通貨危機や、2011年の洪水などの危機も何度かあったが、そのたびに完成車メーカーやタイ政府関係、お客様、日系や地場のサプライヤー、従業員、大学などの多くのステークホルダーの皆様に支えられ、これまでの52年間、比較的順調に成長できた。

デンソーの企業文化を次世代に継承

Q. デンソーの現在の取り組みと今後の経営方針は

犬塚CEO:タイを含めたアジアの中長期的な取り組みとして、完成車メーカーへの部品供給にとどまらず、貢献分野をさらに拡大して持続的な成長につなげるべく事業ポートフォリオ変革にチャレンジしているところだ。

具体的には、安全・品質・コンプライアンスなどの「経営基盤強化」と、アジア事業の成長の3本柱と位置付けている「カーボンニュートラル」「将来のモノづくり」「マーケットソリューション」に取り組んでいる。

経営基盤強化は、ステークホルダーの皆様の信頼・共感を得て事業継続するための大前提であり、デンソーが74年の歴史の中で磨き続けてきた「安全・品質」という基盤を人の力だけではなく、「仕組み化」と「DX化」に取り込んでいく。また、近年は事業環境の変化が非常に激しくなる中で、原点回帰の重要性をグローバル社員に浸透させながら、デンソーの企業文化の次世代への継承にも積極的に取り組んでいる。

「LASI」でシステム・インテグレーター育成

Q. アジアでの事業成長の具体的な取り組みは

犬塚CEO:事業成長の3本柱は、デンソーだけで進めることはできないと考えており、タイの産官学のパートナーの皆様に、当社の考えや取り組みに共感いただき、共創・協業関係を構築することが不可欠だと考えている。

例えば、2018年以降、タイの工業省(MOI)や日本の経済産業省(METI)の協力をいただきながら LASI(Lean Automation System Integrators)プロジェクトを進め、これまで学生や企業の若手を対象に1500人以上のシステム・インテグレーターを育成してきた。今後は、このシステム・インテグレーターの方自身に彼らのタイ工場へ当社のモノづくりのコンセプトである「リーン・オートメーション」を導入していただき、「タイランド4.0」の実現に貢献していきたいと考えている。事業成長3本柱について、既存のパートナーだけではなく、これまでパートナーになっていなかった皆さまにも働きかけて、連携していくことが大事だと思っている。

DENSOインタビュー - LASIプロジェクトの研修風景
「LASIプロジェクトの研修風景」出所:DENSO INTERNATIONAL ASIA

タイ人リーダーが率先して社会の成長に貢献

Q. 人材育成についてはどう取り組んでいるか

犬塚CEO:デンソーでは設立当初から「モノづくりはヒトづくり」の精神を継承してきているが、最近では日本本社の林新之助新社長が「人的資本経営」を大変重視しており、その枠組みである「育てるべき人財の質と量」「働く環境・制度」「風通しの良い風土」「最適なモニタリング指標」などのアップデートにグローバルで取り組んでいる。

ただ、日本の本社でやっていることをそのまま持ち込んでも経営基盤強化は根付かないし、事業成長も実現できない。日本人出向者がリードするのではなく、タイのことを愛し、成長を願うタイ人のリーダーが率先して自分や家族の将来のために、デンソーの良いところや強いところを理解し、国の成長の方向性とマッチングさせ、パートナーとともに社会の幸福と社員の成長に貢献し続ける企業であり続けたいと考えている。

われわれはリージョナルタレントという言葉を使っているが、タイ人の活躍機会はどんどん増えており、新たな人財の獲得や活躍を後押しする育成施策の強化にも取り組み始めている。グローバルでの画一的な人事制度ではなかなか取り組めないことをタイで先んじて始めている。それがタイ人の心に響くかを検証していきたい。

タイの国策に合ったビジネスを

Q. タイで事業する際のポイントは

犬塚CEO:アジアやタイの特有の戦略を本社にコンセプトだけを説明しても納得してもらえない。日本にはそのマーケットがないからだ。そのため、どうすれば自分自身や地域の権限で意思決定できるかを考える。必要なことはまず既存の事業で本社の信頼を得ることだ。そのうえで新しいチャレンジの成功確度を高め、リスクマネジメントをした上でコミットしていく。

デンソー・インターナショナル・アジアの犬塚直人CEO-インタビュー01

その方法は2つある。タイのマーケットのことを分かっている社内のリージョナルタレント、タイの政府、企業などの考えをよく聞いて、国がやろうとしていることに合うビジネスモデルが1つだ。国の施策の実現を担っているタイ国営石油会社(PTT)やサイアム・セメント・グループ(SCG)、チャロン・ポカパン(CP)グループなどのタイ大手企業、それを後押ししているタイ工業連盟(FTI)などがやりたいことと、われわれがやりたいことを整合させることが実現性を高める。

もう1つは、新しいことをやるので、失敗するのが当たり前だが、失敗した時に、いかにグローバルデンソーにとって致命的な失敗にならないようにする。例えばその1つの施策として、デンソーというブランドを使わずに地域のオリジナルブランドを作ってチャレンジすることがある。

電動化はタイの国家プロジェクト

Q. 電気自動車(EV)ビジネスではタイ企業とも協業していると聞いているが、具体的にどのような事業か

犬塚CEO:ビジネスとして現時点で決まっているのは電動バス用のエアコンを供給すること。この事業をぜひ取りたいと思ったのは、単に当社の製品が売れそうだということだけではなく、公共バスや会社への通勤バスを電動化することが、タイの国家プロジェクトだからだ。これは「タイランド4.0」の1つであり、タイが2050年までにカーボンニュートラルにすると宣言したことを実現するための施策の1つだと考えている。デンソーの環境、グリーンというコンセプトにもマッチする。

また、自動車が電動化していくとバッテリーマネジメントが重要になってくる。バッテリーの状態がどうなっているかなどをモニタリングし、放置されないよう回収し、別の資源としてまた再利用するというバッテリーマネジメントシステムを本社で開発しているので、タイでもわれわれの技術を試してもらいたい。

Q. トヨタ自動車のマルチパスウェイ戦略をどう受け止めているか

犬塚CEO:マルチパスウェイはやはり現実的な解だと思っている。当然のことながら、ある時いっせいに車がバッテリーEV(BEV)に変わるというのは現実的ではない。車を保有している方からすると、内燃機関(ICE)が急に悪者になってしまうのは本意ではない。マルチパスウェイについては積極的に貢献していきたいと考えている。

中華系サプライヤーの競争力を見極める

Q. 中国EVメーカーのタイでの攻勢をどう見ているか

犬塚CEO:中国メーカーがタイに進出に伴い、同時に中華系サプライヤーも来ている。まず、われわれと競合するサプライヤーの競争力をきちんと見極めたい。自動車産業の中で、われわれはTier1であり、中国でもTier1として事業をさせていただいている。中国での競争力がどうなっているかの分析は、当社の中国側と連携していく。こちらに進出した時に中国で今発揮している競争力はタイではどうなるかを客観的なデータに基づいて分析する。もちろん東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でこれまで培ってきたサプライチェーンの活用もあり、あるいはこれから市場がどんどん伸びていくだろうインドとの連携もある。中国メーカーにも既に製品を供給しており、そのメーカーがタイに進出する場合には、もちろん同じように供給させていただく考えだ。

TJRI編集部

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