大麻栽培、植物工場内で厳重に品質管理 〜 サイアムレイワ社長インタビュー

大麻栽培、植物工場内で厳重に品質管理 〜 サイアムレイワ社長インタビュー

公開日 2022.07.19

タイでは6月9日の大麻(カンナビス、ヘンプ)の栽培自由化以後、その是非をめぐり侃々諤々の議論が続いている。すでにこのTJRIニューズレターの6月21日号でも紹介したように、2019年2月に医療目的の大麻使用の合法化後、化粧品や飲料など産業用での利用も可能となり、娯楽、消費財、不動産、エネルギー会社などさまざまな業種の企業が続々と大麻ビジネスに乗り出している。日本企業としては東南アジアで初の大麻栽培許可や種子輸入ライセンスを取得し、2022年2月から大麻の栽培を始めたのがサイアムレイワだ。同社の藤代浩司社長に参入の背景、ビジネスの見通しなどについてインタビューした。
(聞き手:TJRI編集長 増田篤)

ブリラム県に植物工場を開設

Q. 大麻ビジネス参入の動機と経緯は

私は父が日本人、母がタイ人のハーフとしてタイで生まれ、高校(アメリカンスクール)までタイで生活していたが、日本での就業後、カナダのトロント大学に留学した。その時、医療用大麻の解禁を求めるデモを毎週のように目の当たりにした。この動きはいずれ日本やタイにも来ると思ったが、タイの方がチャンスがあると考えタイに戻り、2020年7月にタイ東北部ブリラム県クームアン市にサイアムレイワを設立した。

ブリラムに新設したサイアムレイワの植物工場

2021年1月に産業用カンナビスの法律が施行され、当社は同年8月に美容・化粧品類などを取り扱える産業用カンナビスのライセンスを取得。2021年7月~2022年1月にかけてブリラム県に大麻栽培の植物工場を建設した。ブリラムにした理由は当時の県知事が医療用大麻栽培を地場産業として注力し、タイの医療用大麻の中心地だったためだ。また、ブリラム・クーマン病院という公立病院があり、販売先になる可能性もあった。そして2022年2月に植物工場での栽培を開始した。

Q. そもそも大麻はタイでどのように利用されてきたか。その効用とは何か

タイでは病気になると、大麻を石臼ですりつぶして塗るなど、ハーブ系の伝統医療の一つとして使っていたようだ。「吸う」文化は米国から持ち込まれたもので、タイにはもともとなかったようだ。タイには「ハンガローク(リスのしっぽ)」という固有品種があり、屋外での栽培、暑い気候に強い。映画のランボーに出てきたようにベトナム戦争の時に使われた。陶酔作用が強く、酔っぱらったような状態になる。その状態で銃を持つと危ない。

CBDは医療用、産業用として世界で普及

Q. CBDとTHCの特徴と相違点は

大麻成分は「カンナビジオール(CBD)」と「テトラヒドロカンナビノール(THC)」に大別される。CBDはストレス緩和や不安軽減、不眠症、鬱、癲癇、精神疾患の治療に有効とされ、その安全性と有効性は世界保健機関(WHO)が認定、それがきっかけで医療用に使われるようになった。CBDは医療用、産業用、嗜好用に分類される。抗酸化、抗炎症化作用が高いため産業用として化粧品、スキンケア商品、サプリメント、食品、飲料として世界中で利用されている。一方、嗜好用が認められているのはカナダやウルグアイなど数カ国だ。

陶酔作用が強いTHCの濃度や含有量は各国ごとに規制されている。タイの品種はこのTHCの濃度が高い。もともとはCBGという親があって、そこからCBDとTHCが生まれた兄弟みたいなもの。空気に触れると酸化するが酸化の度合いによってCBDや「CBN」に変質する。CBDに25度以上の温度を与えると段階的にCBNになる。これはTHCに限りなく近い。国によってはTHCの研究も進んでいて、THCも医療用に使える。カナダや米国、英国など欧州、タイもそうだ。CBDはリラックスし、動悸がゆっくりになるのに対し、THCは逆にハイになり、動悸は早くなる。THCはモルヒネに代わる鎮静効果があり、ガンの痛み止めとしても使われる。THCとCBDを組み合わせたものが一番、効果が高い。

Q. 日本でのCBD利用の現状は

日本でCBDは産業用として商品化され、その抗酸化、抗炎症化作用を生かしてシャンプーやハンドクリーム、化粧品、お菓子の中に入れられている。比較的若年層のムーブメントとして、4~5年前からCBDのサプリメント、オイル、リップスティックなども出てきた。日本はストレス社会なので、リラックス効果のニーズが高く、さらに睡眠不足、冷え性の改善、女性の場合は生理不順などにも効果があるとされる。

しかし、日本では種や茎から抽出したCBDしか認可されておらず、花だけでなく枝も使えない。しかし本当は、CBDが一番取れるのは花の部分で、茎と種からではほとんど抽出できない。CBDが1キロ分欲しいのであれば、茎と枝だけでは100万本、100万平方メートルの面積が必要になり、ビジネスにならない。茎は栄養分を通す血管のようなもので、CBDはほとんど存在しない。CBDはOKと言いながら、茎からのみCBDを作ることはロジカル的にはナンセンスだ。

THC濃度のコントロールが鍵握る

Q. 大麻ビジネスの課題と最大のリスクは何か

タイ政府は6月9日に大麻を麻薬リストから除外した。タイ保健省食品医薬品局(FDA)としてはいったん解禁して皆が自由に使い始めた後、そのフィードバックをもとにさまざまなルールの導入を検討している。トライアンドエラーなのかと思う。ある種を輸入したものの、後から今の法律ではこの種はダメだったので破棄してくださいという命令が来るかもしれない。そのため法律の整備を踏まえて段階を踏んで事業を推進する方が良いという企業判断をしている。まずTHCを含まない品種の大麻草を育てて、製品化していく。

今回の規制緩和では一般家庭で大麻草が無制限に栽培できるようになった。タイではTHCの濃度は0.2%以下に制限されており、その確認のためのサンプル届け出、分析が必要だが、それが徹底されるかどうか。温度管理を間違うとTHC濃度がすぐに基準値を超えてしまう。当局もすべて対処しきれないので、違法基準値の大麻草が乱立する可能性もある。

バルコニーで自家栽培して大量にできたらどうするか。企業に売ることはできない。個人間の取引になるとトラッキングができない。THCが多いと事故が発生する可能性がある。一方、病院はTHCがたくさん入っている大麻を市場から安く調達したい。成分を抽出してCBDと混ぜて薬として治療に使えるからだ。ただ、家庭での栽培では農薬も入ってくる。また正しく育てるのは手間もお金もかかる。普通の人には難しい。

栽培管理にブロックチェーンを導入

Q. 栽培方法と品質管理は

われわれは栽培許可だけでなく、種子輸入許可も取得し、CBDが多く含まれる大麻の種を米国から輸入し、植物工場の室内で栽培、品質管理している。屋外ではTHCの濃度をコントロールできないからだ。植物工場内では温度と湿度、そしてLEDの光量が重要だ。高価だが植物栽培用の特殊なLEDもある。それぞれの成育環境に対応した光を選ぶ。製品化では違法業者を排除し、提携農家としかやらない。日本のクオリティーでやっていく。日本人がやっているので安全で、タイの企業とも違うということ。

サイアムレイワ工場では湿度、温度、光量を徹底管理して栽培

また、われわれは安全を確保するため、タイのデンソーの協力を得てブロックチェーンのシステムを導入し、トラッキングができるようにする。今後、岐阜大学医学部との共同研究を行い、日本で作ったシステムをそのままタイに持ってくる。世界中の人々がわれわれの商品が本物であり、タイのブリラム県で栽培、加工されたものだと確認、トラッキングできる。安心を担保するということ。

今、日本市場に出回っているのはほとんどが米国や欧州でパッケージされたもので、米国カリフォルニア州で生産などとしか表示されていない。日本人がやっている事業であり、適切なものだということを発信し、講演会などの啓発活動をやっていきたい。

Q. 製品販売の開始目標は

製品はまずクリーム、ボディーローションなどコスメティックから始める。日焼けのあとの肌の再生が促される。抗炎症化作用、抗酸化作用がある。他のアンチエイジング商品との違いは自然由来であること。心と体にリラックス効果がある。ストレスが減って睡眠効果がある。癌も抑えられる。医薬部外品、コスメティックスとして、タイのFDAの認可をこれから取得するが、認可に2~3か月かかる。8月には間に合わせたい。

Q. ビジネスモデルと売り上げ目標は

年商500~700億円の中堅製薬会社の規模を目指したい。日本でのCBD業界のリーディングカンパニーの年商は8億円。当社も8~10億円が最初の売上高目標だ。当然ながら厚生労働省の法律を遵守し、THC成分を含まない製品のみで日本のアングラ的な市場を駆逐していきたい。

インタビューに答える藤代社長

こうした商品を今、若い人がインターネット通販で購入しているが、本当に必要なのは60~80歳などの比較的高齢の方だ。体が痛いとか、リラックスしたいとか。CBDのことを知らず、病院しか頼れない。本当はこういう人たちが利用できるようになると良い。またCBD商品が社会的に認知され、普通のサラリーマンが一般的に買えるような商品の展開を目指している。CBDをもっといい意味で表に出して啓蒙していきたい。ストレスだらけの日本人によりリラックスしてもらいたい。日本の厚生労働省の認可が得られたらまず日本に輸出する。その後、タイでも販売していく予定だ。

TJRI編集部

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