
連載: 在タイ日本人駐在員の挑戦
公開日 2026.01.09
日本で「攻めの営業」として成果を上げてきた営業人材の中には、タイ駐在で「守りの業務」に比重が移ることで、もどかしさを感じる人もいるだろう。「守りだけでは届けられない価値の提供を模索した結果、お客様の課題を解決できる新事業を立ち上げることができた」そう語るのは、リョーサンタイランドのセールスマネジャーである藤本晋太朗氏だ。新しい事業をいかにして立ち上げ、軌道に乗せたのか、同氏に詳しく話を聞いた。
目次
リョーサンは、半導体や電子部品を取り扱うエレクトロニクス商社です。2024年には、菱洋エレクトロと経営統合し、「リョーサン菱洋ホールディングス」として新たにスタートしています。日系企業のタイ進出に伴う調達や技術支援のニーズに応えるため、2001年にリョーサンタイランドが設立されました。社員数は現在40名弱で、そのうち日本人は4名です。
私は2016年にリョーサンへ新卒入社し、半導体・電子部品の営業を担う第一販売部に配属されました。自動車関連、コンシューマー、電子楽器などの分野で新規顧客の開拓や対応を行い、製品採用から納品、さらに導入後の保守までを含む一貫したお客様対応を担当していました。
2024年6月、初の海外赴任としてタイに着任し、現在はタイのお客様サポートに加え、新たに立ち上げたグリーントランスフォーメーション(GX)ソリューション事業の推進も主導しています。

日本では、新規顧客の開拓や製品提案など、自ら市場を切り拓く機会が多くありました。しかし、タイのお客様の場合、部品の選定は日本本社で行われるため、従来のビジネス領域において提案や開拓の余地はほとんどなく、主に守りの業務に注力する形となりました。
守りの業務とは、日本で採用された製品をタイのお客様に確実に届ける「デリバリー対応」を指します。半導体・電子部品は製造工程が複雑でリードタイムが長く、さらに外交問題や自然災害、工場トラブルなど外的要因の影響を受けやすいため、生産スケジュールが乱れることも少なくありません。加えて緻密な製品であるため、代替品も簡単には確保できません。こうした特殊な製品を扱うからこそ、先手を打った調整やリスク管理など、守りの姿勢が強く求められるのです。
一方で、お客様の約6割が自動車関連であり、タイの景気低迷に加え、自動車産業の停滞が懸念される中、「限られた状況で、どのように市場のニーズに応えるべきか」という葛藤がありました。
タイは物価が安いというイメージで赴任しましたが、実際に住んでみると電気代の高さに驚きました。お客様に伺うと、多くの企業が同じ課題を抱えていることが分かりました。
そこで、お客様の事業全体に価値をもたらす解決策とは何か、ニーズの先にある課題の本質は何かを検討する中で視座を広げた結果、お客様のコスト削減と社会課題の解決を同時に実現する打ち手としてGXソリューション事業の構想にたどり着きました。
現時点で、宇宙技術から生まれた塗料「GAINA(ガイナ)」や、電気代を20%削減できる省エネ制御システム「Ai-Glies(アイグリーズ)」など、胸を張って提案できるラインナップを揃えることができました。日本で取り扱っていたソリューションに加え、在タイ日系企業やタイ企業が提供するソリューションの開拓も進めており、より多角的にお客様の課題に応えられる体制を整えています。
日本にGXの専門部隊を持つお客様でも、タイ特有の環境や法規制を踏まえた取り組みの推進は容易ではなく、日本での成功事例をそのまま展開することは困難です。また、数年間で駐在員の入れ替わりがある中で、現場のタイ人スタッフの理解や実務改善が進まず、取り組みを持続させることが難しい課題もありました。
そこで、本事業では、タイ市場に最適化したソリューションラインナップ、簡単に効果測定できる仕組み、さらには当社タイ人スタッフがお客様の現場のタイ人スタッフを直接サポートする体制を整えました。こうした取り組みにより、持続可能なGX推進のサポートが可能となりました。
来タイ前は、本社の考え方や事業方針を当社タイ法人に確実に浸透させることが、自分の第一の役割だと思っていました。しかし今は、単に指示を出す「管理者」ではなく、方向性を示し、チームが主体的に動ける環境をつくる「リーダー」であることを強く意識しています。
例えば、新事業を推進する上で、当社のスタッフの多くはプロモーション営業の経験がなく、方針は理解できても実行面で課題がありました。対応策として、社内勉強会の実施やトークスクリプトの作成による営業力強化に加え、新しい挑戦に慎重になりがちなタイ人社員に前向きに取り組んでもらうため、提案実績を「ポイント制」で可視化する仕組みを導入しました。

この取り組みにより、タイ人スタッフ同士の情報共有や工夫の機会が生まれ、経験の浅いスタッフでも成果を実感しやすい環境をつくることができました。今回の経験を足がかりに、チームが主体性を持って自ら考え、自ら実行できる組織に育てていくことを目指しています。
直近では、GXソリューション事業を本格始動するためにタイ内資企業の立ち上げに向けて動いています。将来的には、今回の新事業を「タイ発の独自ソリューション」として成功させ、モデルケースとしてASEAN諸国へ展開し、日本への逆輸入も目指します。
当社のゴールは、単なる事業拡大ではなく、お客様、社会のニーズに応え、持続可能な価値を提供し続けることです。私自身も、タイでの事業立ち上げで得た経験と知見を活かし、より多くのお客様や社会に貢献していきたいと考えています。
藤本 晋太朗 氏
Sales Manager
Ryosan (Thailand) Co., Ltd.
2016年にリョーサンに新卒入社。第一販売部で半導体・電子部品の営業を担当した後、2024年6月にリョーサンタイランドへ赴任。半導体・電子部品のデリバリー業務に従事するとともに、GXソリューション事業の推進も担当している。

THAIBIZ編集部
白井恵里子


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