カテゴリー: 協創・進出, 対談・インタビュー, 組織・人事, 特集
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2023.08.22
今年、日本ASEAN友好協力50周年を迎える中で、日本の大手商社のタイ法人トップが新たなビジネス展開に向け、日本とタイ、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済関係についてどう考えているのかを探る連続インタビューの第6回は、伊藤忠商事のインドシナ代表で伊藤忠タイ社長を務める吉田敬氏だ。
(インタビューは7月19日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
吉田社長:バンコク支店の開設は1955年だ。1974年に今の形の伊藤忠タイができ、来年で50周年を迎える。少し前までは化学品関連取引が強みだったが、近年はこれに加えて食料・食品の取引が増えてタイ法人の主力となっている。食料・食品ではタイからの輸出、輸入の両方の取引を行っている。単体として最大は食料分野で、加工品が多い。伊藤忠が日本で事業を行っているCVS(コンビニエンスストア)向けにチキン加工食品も供給している。日本のCVS等で売っているフライドチキン類はタイ産が多い。
日本から輸入してタイで売っている食料は原料分野もあり、最終製品(アイスクリーム類や電子レンジ対応のコメパック、和菓子等)に力を入れている。タイでの日本食レストランもどんどん増えてきていることに着目して、ありとあらゆる日本の食品を持ち込み、日本食文化をもっと浸透させていくというのがわれわれの狙いだ。
伊藤忠グループでは「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)とも関係があり、協力している。また、タイだけでなく東南アジア全体に日本料理を提供するお店が増えているので、こういう分野への食品供給をもっと増やしていきたいと思っている。
吉田社長:まだバンコク中心だが、日本食はこれからますますタイの地方にも浸透していくと思っており、そういうマーケットの開拓を目指している。食料に関していえば胃袋の数が重要だが、日本は人口が今後減っていく。日本の食品業界のほとんどが日本市場を中心に展開してきたが、これでは将来の成長戦略は描きにくく、マーケットを海外に求めていかないといけない。欧米は独自の食文化が既に出来上がっているのでなかなか入りづらい。アジアは十分成熟しきっていないマーケットで、日本はもっと進出するチャンスが残っていると思っている。
伊藤忠はチャロン・ポカパン(CP)グループと提携をしているので、CPグループを中心に連携しながらタイ市場のニーズにあった商品の展開を考えている。現地のニーズを拾って日本の隠れた素材を紹介しながら、作り方や食べ方なども教えながらマーケットを作りたいと思っている。
吉田社長:もちろんある。タイから他の国々への輸出も期待できる。タイは豚肉と鶏肉が特に美味しく、肥育や加工などの技術を持っている。いろいろな国に輸出するには、その国に合ったレシピ、調理方法や文化等を理解する必要もある。例えば日本企業の間でもイスラム圏向けのハラル食品への認識は高まっている。
日本の食品ブランドで、世界で認知されているブランドはほんのわずか(キッコーマン、味の素、ヤクルト、日清食品など)でしかなく、日本にはもっと多くの優れた商品を持ったブランドが沢山ある。日本企業は知的財産も数多く持っている。海外の地場企業と連携しながら取り組めたら良いと思う。
吉田社長:商社は従来、仲介、トレードだったが、最近は投資をしてマネジメントしていくというのが流れで、その事業体のマーケティングや販売も行う。伊藤忠の前身は近江商人であり、「三方よし」を企業理念としている。日本はこれまで「プロダクトアウト」的な発想で、できたものをどう売っていくかに注力していたが、時代は「マーケットイン」だ。どういったものがマーケットから求められているのかを一生懸命考えて、その一歩先を取り組むようにしている。日本では、展開しているCVSや流通業の情報が全て入ってくる。消費者が今どんなものを求めているのかをフィードバックして、どのように効果的に購買者に情報を与えたらよいか、消費トレンドをどう作っていくかまで行っている。こうした取組みにより「売手よし」、「買手よし」、ひいては「世間よし」の三方よしを体現して行きたいと考えている。
私自身は食糧部門で主に川上原料としての砂糖、コーヒー、乳製品分野をずっとやってきた。海外はオーストラリアに3年半。シンガポールに2年、タイに来て丸2年経たった。砂糖分野ではタイやオーストラリアからの輸入が多く、タイの製糖会社とも接点があるが、近年ではオーストラリアの比重がやや高まっている。
吉田社長:タイは食料自給率が100%を超えている国で非常に恵まれている。輸出含めてチャンスはある。世界では食料を他国に依存しないといけないという国がほとんどで、今のように地政学リスクが高まると日本の将来も不安だ。そういう面ではタイにはまだまだチャンスはある。一方、懸念しているのは世界の異常気象。タイは雨が少ない、逆にある年は降りすぎて洪水だ。世界中で異常気象が起こり、明らかに10年前、20年前とは違う世の中になっている。それに対してアジアの食料供給源でもあるタイの農業をどう守っていくのか、重要な節目になってくると思う。
吉田社長:ツナ缶用の原料を輸入して加工した製品をさまざまな国に輸出している。ただ、ツナ缶業界は競争も厳しくなっている。このためツナ缶業界はペットフードにどんどん動いている。アジア中でのペットブームは大きく、市場も拡大中だ。タイのツナ缶業界はここに活路を見いだしていると感じる。
吉田社長:会社の中でもゼネラルマネジャー(GM)クラスのナショナルスタッフはまだいない。マネージャークラスはいるが、ここを鍛えて底上げしていく必要がある。そして、伊藤忠のカルチャーを知ってもらわないといけないということで、日本に研修として派遣し、1年などの期間で日本の現場で仕事をしてもらう。将来GMクラスは基本的に現地の人たちがやるというようにしていければと思っている。
ただ課題は現地スタッフと大手財閥のオーナーがしっかり接点を持ってコミュニケーションができるかが課題だ。日本人なら財閥のトップが会ってくれるが、ナショナルスタッフだと格下に見られてしまう。リレーションシップビルディングをしていかないといけない。
われわれの駐在員は3~4年で交代するので、財閥トップからすると一時の人で、ずっといるわけじゃない。どうしてもリレーションシップがまた消えて、また新たに作ってという状況の繰り返しだ。財閥の初代の方は日本で教育を受けて日本で人脈を持って帰ってきた。しかし、2世、3世になると欧米で教育を受けて、人脈を作って帰ってきてその人脈を生かしてビジネスをする。だんだん日本に対するリスペクトが薄くなっているように感じる。そういう実感はあるし、それは危機だと思う。リレーションを強固にするためにはどうしたらよいか、日本人として考えていかないと、だんだんタイも欧米に近くなっていく気がしてならない。
吉田社長:ミャンマー、カンボジアには事務所がある。この地域は繊維業を中心にしっかり取り組みができている。ミャンマーは欧米系が取引をやめているので、対日向けは非常に伸びている。ベトナム、カンボジア、ミャンマーは繊維業の取り組みが活発だ。そのほかでは食料がある。インドシナではインフラ系などが未だ不十分で、さらなる整備が必要だ。自動車関係では化学品、繊維や金属の部隊がそれぞれ役割を担って取り組んでいる。
いろいろな財閥系のトップの方ともお話をしたが、印象に残る言葉としては日本のレイバーは今や「チープレイバーだよね」と言われたことだ。タイの一流エンジニアの人たちは日本企業の給料と比べるとかなり高い。さらに中国に行けば給料がアップする。勤勉で忠誠心のあるよい技術者がどんどんアジアに取られ、日本の優位性のあるものが減ってきていると感じてならない。アジア各国の技術レベルも上がってきている。日本の大学は文科系がほとんどだが、理科系を増やさないといけない。日本はまだまだ良い技術がある。精密機械の1つ1つのパーツは凄いものを作っている。そして食品冷凍分野の技術では、欧米とはレベルが全然違う。こういうものをタイやアジアに持ってきたいと思っている。冷凍食品では無駄を減らすことができ、フードロスにもつながる環境に優しい商品だ。これらは全て「三方よし」に通じている。
TJRI編集部
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