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公開日 2026.10.15
電気自動車(EV)シフトやサプライチェーン再編を背景に、既存事業だけに頼らない新たな市場を模索する製造業が増えている。一方、自社に強みとなる技術や設備はあっても、「どこに生かせるのか」「誰と組めばいいのか」がわからず、次の一歩を踏み出せない企業も少なくない。
こうした企業を対象に、ジェトロ・バンコク事務所は9月4日、「2026年度 在タイ日系製造業多角化支援事業」の第二弾となるワークショップを開催した。タイ企業4社が抱える鉄道、データセンター、工場DXなどに関する具体的な課題をもとに、日系企業が自社や他社の技術を掛け合わせて解決策を提案。11月頃に予定されている商談会を前に、新市場を見つけ、ビジネスにつなげるまでのプロセスを実践した。
第1回ワークショップでは、参加企業が自社技術を「何を作っているか」ではなく、「顧客にどのような価値を提供しているか」という視点から見直した。第2回では、そこで整理した強みを、実際の市場へとつなげる段階へ進んだ。
冒頭、ジェトロ・バンコク事務所の阿部一郎所長は、「自社の技術力を見つめ直すだけでなく、現地社会や現地企業が今まさに直面している『生の課題』を的確に捉え、掛け合わせることが重要」と説明した。
そこで今回は、鉄道、自動車、金属加工、工場DXなどを手掛けるタイ企業4社が登壇。各社が事業紹介に加え、現在抱える課題や進出を目指す市場、必要としている技術やノウハウを提示した。参加した日系企業はその後、担当するタイ企業へ直接ヒアリングし、課題を掘り下げた上で、自社や同じグループの企業が持つ技術をどう生かせるかを検討した。
相手の課題を起点に、自社の技術をどこに生かせるかを考える。それが今回のテーマである。


タイ企業が提示した課題には、日本企業にとって思わぬ事業機会もあった。
その一つが鉄道だ。鉄道システムの施工や車両整備を手掛けるJOINT VENTURE SINOGEN-PIN PETCHによると、タイ国鉄(SRT)では路線拡張に伴い、車両の新規導入に加え、老朽車両の修理・改修需要も拡大している。
一方、タイでは日本から譲渡された中古車両が運行されているものの、図面や純正スペアパーツの調達ルートが十分に整っていないケースがある。SRTは国営企業のため、小口の部品でも調達に一定の手続きを要する。必要な日本製部品がすぐに手に入らず、中国などから代替品を調達することもあるという。
鉄道専業でなくても、三次元測定や部品加工、リバースエンジニアリングなどの技術を持つ企業には、参入の可能性がある。

自動車産業から別の市場へ動こうとする企業もある。約60年にわたり自動車関連事業を展開してきたThai Rung Union Carは、内燃機関(ICE)車市場の縮小を受け、既存設備を活用できる新分野として、データセンター、電気・電子、EVバッテリーのセカンドライフに注目しているという。
例えばデータセンター向けのキャビネット。同社にはプレスや板金、塗装などの設備や生産ノウハウがある一方、防水・防塵、熱対策、耐震性など、データセンター特有の規格や設計ノウハウが不足している。そこで、技術や製品を持つ日本企業との技術提携やライセンス生産などを模索しているという。
今回登壇したタイ企業からは、すでに持つ設備や加工技術、顧客基盤、現地ネットワークを生かしながら、新たな市場へ展開しようとする姿が見えた。そこに日本企業の技術やノウハウを組み合わせる余地がある。

タイ企業の課題を聞いた後は、日系企業同士がグループとなり、具体的な解決策を考えた。
SINOGEN-PIN PETCHを担当したグループでは、同社が持つタイ国鉄との取引実績や車両整備の知見に、日本企業の三次元測定やリバースエンジニアリング、高精度加工技術を組み合わせる案を提案。図面のない部品を再現し、日本の中小製造業ネットワークも活用しながら、スペアパーツの供給につなげるというものだ。
精密部品加工を手掛けるP QUALITY MACHINE PARTSに対しては、同社が持つ難削材の精密加工技術に、参加した日系企業が持つプレス、鍛造、自動化の技術を組み合わせた。「難削材加工のワンストップサービス」として、プレス・鍛造から精密切削までを一つにつなぎ、航空宇宙や医療など新しい市場への展開を目指す提案だ。同社からは、今後の具体的な協業に向け、工場訪問を歓迎する声も上がった。

S.P. METAL PARTを担当したグループでは、同社が自社の製造現場から生み出した工場管理システム「SSM」に着目。日系企業が持つ設備管理や人材評価、データ活用のノウハウを加え、さまざまな製造現場で使えるシステムへ発展させ、共同販売するアイデアを提示した。
一社だけでは難しいことも、タイ企業が持つ現場やネットワークと、複数の日系企業の技術やノウハウを組み合わせることで、新たな事業の可能性が見えてくる。
今回のワークショップでは、「相手の課題を知る」「自社の技術を当てはめる」「足りないものを他社と補う」「実際に提案して反応を得る」という、新市場開拓の流れを実践した。

ワークショップでは、企業同士の取り組みに加え、タイの新たな産業育成についても紹介された。
特別登壇したタイ国家高等教育科学研究イノベーション政策評議会のスリン・カムフォイ副事務局長は、タイが今後重点的に育成する半導体分野として、「ICデザイン」「パワーデバイス」「フォトニクス&センサー」の3領域を挙げた。
タイにはすでにプリント基板(PCB)や実装、テスト、パッケージングなどの製造基盤がある。今後はその強みを土台に、より付加価値の高い設計や先端技術へ産業を広げていく考えだ。特にパワーデバイスやフォトニクスは、日本にも研究や技術の蓄積がある分野であり、人材育成や研究開発、企業連携などを通じた日タイ協力も進められているという。
自動車産業だけにとどまらず、タイ政府も次の成長分野の育成を進めている。こうした動きの中にも、日本企業との新たな接点が生まれつつある。

最後に、ジェトロ・バンコク事務所の山崎牧子次長は本事業について、単発のセミナーや商談会ではなく、在タイ日系製造業が継続的にネットワークをつくり、事業多角化へつなげていく通年型の取り組みだと説明。「スモールステップで良いので、まず一歩踏み出して動いてみてほしい」と参加者に呼び掛けた。
第2回ワークショップは、11月頃に予定されているマッチング商談会を見据えた実践の場でもある。次の商談会では、参加希望企業のニーズを事前にヒアリングし、相互のニーズに合う企業同士をつないでいく予定だ。
マッチング商談会からの参加も可能。自社の技術やノウハウをタイ企業の具体的なニーズと結び付け、新たな市場や協業の可能性を探りたい企業にとって、次の一歩を踏み出す機会となりそうだ。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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