THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集
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公開日 2024.11.11
妊娠22週目から出生後7日未満までの周産期において、新生児の健やかな誕生と母体の安全な出産を目指そうという日系企業の取り組みが、世界的に注目を集めている。その企業は、2015年に高松市で創業されたメロディ・インターナショナル株式会社。離島や山間部といった過疎地域に多く見られる周産期医療格差の解消を目的に立ち上がった地方企業が、尊い命を救うためにタイでも事業の拡大に挑んでいる。地方発の企業がいかにして国境を越え、命を守る活動を広げているのだろうか。
メロディ・インターナショナル株式会社
尾形 優子 CEO
メロディ・インターナショナル株式会社 2015年設立。「世界中のお母さんに安心・安全な出産を!」をミッションとして、周産期遠隔医療プラットフォームとモバイル胎児モニターを開発・販売。香川大学発ベンチャーとしてチェンマイ大学、JICAと連携して産科過疎地域の母子保健向上に努める。ものづくり日本大賞、J-Startup Impact選出など受賞実績多数。
木下 御社が取り組まれている医療格差の是正について、具体的にどのような活動をされているのか教えていただけますか。
尾形 私たちが活動の拠点としてきた瀬戸内地方は離島が多く、とりわけ出産をめぐる医療格差が深刻な課題の一つです。周産期はお産において、突発的な緊急事態が起こりうる最も重要な時期。専門医が存在しないというだけで生まれ来る命や母体を危険にさらすことはできません。
そこで私たちは、香川大学の研究チームと共同で、医療施設や専門医と離れていても胎児や母体の正確な状態が計測できるモバイル分娩監視装置「iCTG」を開発しました。2018年に日本で医療機器としての認証を取得し、これにより遠隔地にいる医師が計測データに基づき、治療法の選択や緊急搬送の要否などを判断することができるようになりました。日本国内では、これまでに130を超える医療機関で採用いただいています。
iCTGには二種類のセンサー機器があり、いずれも手のひらサイズで、完全コードレス対応となっています。軽量なので、母体に装着したままの移動も容易です。ピンク色は、超音波を使って胎児の心拍数を計測する心拍計です。水色は、妊婦の腹部の張りや子宮の収縮具合を測る陣痛計となります。スマートフォンやタブレットと接続することで計測データを瞬時にサーバにアップし、リアルタイムで情報共有することが可能です。
木下 日本国内で着実に成果を上げているiCTGですが、どのような経緯でタイ市場に進出することになったのでしょうか。
尾形 創業より連携してきた香川大学が、タイ北部にあるチェンマイ大学とかねてより提携していたことがきっかけでした。ミャンマーなどと国境を接するタイ北部は険しい山岳地帯となっており、医療機関も少なく、あったとしても医師が常駐しないなど都市部との医療サービスの格差は顕著です。こうした不利な環境の打開にiCTGが役立つものと考え、JICA事業を通じて協力を申し出ました。
2014〜2016年にかけて、まずチェンマイ県内の3病院に試験的にiCTGを導入し、約1500件のデータを取得しました。その過程で50人のデータに異常が見つかり、うち10人を早めに搬送することで、赤ちゃんの命を救うことができたのです。この成果が認められ、2017年にはチェンマイ大学の先生がタイで「ベストパブリックサービスアワード」を受賞しました。
木下 素晴らしい成果ですね。その後、タイ国内での普及はスムーズに進んだのでしょうか。
尾形 当初はなかなか理解が得られず、直ちに採用とはなりませんでした。「記録用の印刷ができない」などといった予想外の意見もあり苦労しました。本製品を通じ、大切な命を救う意義を繰り返し説明するなどして少しずつ賛同を得て、今ではチェンマイ県内に25ある公立病院の全てで導入され、産婦人科医のいない病院でも活用されています。2018年からの4年間で、7000件近い利用実績が確認できています。
JICA事業での成果を踏まえ、2022年にはJETROの日ASEANにおけるアジアDX促進事業に採択され、北部チェンライ県でもiCTGの普及に努めました。また、2023年にはタイ国内における医療機器としての登録も認められ、バンコクの民間病院などを対象に一般販売もスタートしました。メンテナンスや修理なども、代理店を通じて対応しています。
木下 様々な苦労を乗り越え、今があるのですね。海外展開をする際、JICA事業の活用が非常に大きなサポートとなったとお聞きしました。こうした公的機関との連携の重要性や、海外市場での成功のカギについて教えていただけますか。
尾形 海外市場は文化や商慣習も異なり、手順を追って進めることが何よりも大切です。大学病院や保健省、各県の保健当局とパートナー関係を構築し、連携していかなければなりません。その際、医療機器メーカー単独では、自ずとできることも限られるため、JICAやJETROなど日本の公的機関の支援を活用することも重要だと思います。実際にJICA事業と認識いただいた途端、先方の態度が大きく変わって交渉がスムーズに進んだ経験があります。
現地の人々の声に耳を傾けた改善も大切です。例えば、タイでは、道の悪い山道などでの救急車搬送中にもiCTGを用い、病院に到着した段階で適切な処置につなげたいというニーズがあり、それに対応しました。
また、対応件数の増加に伴い、医師が全てのデータをメールで受信して対応をすることが困難となり、「LINE」で助産師を含むグループに一括送信する仕様に変更しました。これにより、助産師によるスクリーニングを経てから、判断が難しいデータに絞って医師に共有することが可能となり、LINE普及率の高いタイならではの効率化が実現できました。
iCTGはこれまでに、タイやブータン、カンボジア、インドネシアなどのアジア諸国のほか、エジプトや南アフリカなどのアフリカ諸国、南米ブラジルなど世界16ヵ国で利用いただいています。今後も、世界中の胎児と妊婦の命を救うために、この技術を届けていきたいと考えています。
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JICAタイ事務所
Representative
木下 真人 氏
タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]
JICAタイ事務所
31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250
Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html
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