THAIBIZ No.156 2024年12月発行深化する日タイの経済成長戦略
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公開日 2024.12.11
日本では、平均寿命と健康寿命に約10年の差があると言われているが、高齢化が進むタイにおいても同じ状況だという。実は健康寿命の延伸に重要な鍵となるのが、「口腔ケア」だ。Hakuzo Medical Asia Co., Ltd.は、口内の健康が全身の健康に繋がることに着目し、タイで日本式の口腔ケアを広めるプロジェクトに挑んでいる。ただ、予防医学の考え方が根付いていないタイでの挑戦は容易ではない。同社は一体、どのような戦略で市場に切り込もうとしているのだろうか。
Hakuzo Medical Asia Co., Ltd.
Managing Director 佐々木 光一郎 氏
Hakuzo Medical Asia Co., Ltd. 感染対策、医療用衛生材料のメーカーとして70年の歴史を有するハクゾウメディカル(株)の100%出資現法。2018年に設立。医療用絆創膏、脳外シートをはじめ、バンコク首都圏の私立病院、大学病院宛て販路を拡大中。口腔ケア製品については、JICA事業活用によりタイ保健省との連携を深めつつ、チュラーロンコーン大学歯学部と3年間のプロジェクトを実施中。
木下 御社の事業内容と、タイでの事業展開についてお聞かせいただけますか。
佐々木 当社は1954年に大阪で設立した医療品メーカーで、絆創膏やガーゼ、脱脂綿といった衛生材料から、感染症対策、介護・産婦人科用といった専門性の高いものまで医療にかかわる製品全般を製造販売しています。日本国内はもとより欧州、米国、中国など海外へも供給しており、タイの現地法人は2018年に立ち上げました。2021年、チョンブリー県にタイ工場を開設し、製品を現地生産することで「地産地消」にも力を入れています。
タイでの販売は、病院などの医療施設への直接販売と代理店経由での販売の二本柱で展開しており、その豊富な製品ラインナップと高品質がタイの医療従事者からも高く評価されています。例えば脳外科手術に使用される神経組織保護、液吸収用の不織布シートについては、タイの脳外科医から「これがなければ手術ができない」といったありがたい声もいただいています。
木下 タイ市場において口腔ケアに着目された理由には、どのような背景があるのでしょうか。日本での取り組みが、タイでも活かせると考えられた点も大きかったでしょうか。
佐々木 はい、まさにその通りです。口腔内の健康を保つことは、長寿を支える基本です。歳を重ねると、どうしても噛む力が弱くなったり、口腔内が乾燥したり、飲み込む機能(嚥下機能)が低下したりします。これにより、口腔内の細菌や食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入り、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
当社の口腔ケア製品を使用して口の中を清潔に保つことで、潤いを保ち病原菌の増殖を防ぐことが可能です。日本では、ここ10〜20年で「健康寿命を延ばす」ことへの関心が高まり、介護保険制度の普及も後押しして、誤嚥性肺炎の予防策として口腔ケアが注目されるようになりました。この実績を、今まさに高齢化が進んでいるタイにも役立てられるのではないかと考え、タイ市場での口腔ケア製品の普及に挑戦することにしました。
木下 文化や生活スタイルが異なるタイで、日本式の口腔ケアを普及させるために、どのような工夫や配慮が必要になるのでしょうか。現地のニーズや習慣にどのように対応されているのか、具体的に教えていただけますか。
佐々木 タイと日本では、高齢者のケアに対する姿勢が異なる点がいくつかあります。例えば、日本でもタイでも、高齢者が口腔ケアの際に口を開けたがらないことがあるのですが、タイでは時に無理やり開口するための器具を使用することがあります。私たちは抵抗感を減らし、心地よくケアを受けてもらえる環境作りを重視し、口腔ジェルにフレーバーを加えるなどの工夫を施しています。
現地の生活に合う形でケアを取り入れてもらうため、日本と同じやり方をそのまま持ち込むのではなく、タイの文化や生活リズムに合わせた提案が不可欠です。例えば、日本では1日4回の口腔ケアが推奨されていますが、タイでは1日2回が限度といった状況もあります。こうした点でルールに固執せず、現地にあった継続しやすいケア方法を提供することが、長期的な普及には重要だと考えています。
木下 御社がJICA事業を活用するに至った経緯や、タイで進めている事業の内容についてお聞かせください。またタイで新規事業を考える日本企業に向けてメッセージがあればお願いします。
佐々木 「口腔ケア」という新しい分野をタイでも広く認識してもらうには、タイの保健省や大学などの研究機関との強い連携が必要不可欠です。そこで、JICA事業を活用することで、キーマンと直接の接点を持つことが可能となりプロジェクトが大きく前進しました。現在は主にチュラーロンコーン大学歯学部の教授らと協力し普及実証事業を進めています。
この事業は2024年6月にスタートし、タイ国内の公立と民間の3施設で実施予定です。主な目的は口腔ケアにかかるデータ収集ですが、同時にケアギバー(介護者)への技術指導も行っていきます。
事業完了した際には、得られたデータと成果を活用し、セミナーやイベントを通じて広く周知し、タイ社会に口腔ケアの重要性を根付かせたいと考えています。
海外での新しい挑戦には様々な困難が伴いますが、現地の各関係機関と信頼関係を築き、現場データに基づいた成果を示すこと、そして親しみやすい姿勢で臨むことが大切です。そうしたアプローチがあれば、確実に前進できると信じています。私たちも引き続き口腔ケアの普及を通じ、タイの高齢化社会に貢献していく所存です。
THAIBIZ No.156 2024年12月発行深化する日タイの経済成長戦略
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JICAタイ事務所
Representative
木下 真人 氏
タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]
JICAタイ事務所
31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250
Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html
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