最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中
カテゴリー: 対談・インタビュー, 食品・小売・サービス
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2025.07.01
JALグループの商社機能を担うJALUX(ジャルックス)は、1999年にタイ法人「JALUX ASIA Ltd.(以下、「JALUXアジア」)」を設立。食品の輸出入やリテール、外食など「食」を軸に事業を広げてきた。今回は、外食店の拡大や果実輸出といった“攻め”と、社員への理念浸透や体制強化といった“守り”をバランスよく推進する同社の瓜田充弘社長に、日タイの食をつなぐ現地密着の商社経営の現在とその展望を聞いた。
(インタビューは5月23日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
瓜田社長 : JALUXグループは現在、ASEAN域内ではタイに加えシンガポール、ベトナム、ミャンマー、ラオスに拠点を持ち、それぞれの国で異なる機能を担っています。例えば、ミャンマーやラオスでは地方空港の運営、シンガポールでは航空機エンジンのリース、ベトナムでは免税品や日本茶菓の販売など、地域特性に応じた事業を柔軟に展開しています。
その中でもタイは、比較的早い段階で現地法人を設立。当初はキャビンアテンダント(CA)の制服製作や機内食の開発などJAL関連業務が中心でしたが、バンコク伊勢丹での物産展などへの食品提供がきっかけで「JALUX=食品」という認知が定着し、現在の事業基盤が形づくられていきました。以来、食品を軸に成長してきた当社は、JALUXグループの中でも特異な存在と言えるかもしれません。
瓜田社長 : 「食」を軸に、タイの市場や文化に根ざして主に4つの事業を展開しています。
1)トレーディング:タイ産マンゴーやマンゴスチンを日本へ輸出。今年は日本の大手量販店への出荷も始まり、業務用ルートも拡大中です。
2)リテール:空港や市内で日本菓子ブランドを販売。ロイズや白い恋人、東京ばな奈などを展開しています。
3)外食:「博多天ぷら やまや」に続く新業態の開発にも取り組んでいます。
4)ジャパンプロモーション:自治体と連携し、日本産品の販路開拓を支援。ローカルリテーラーとの協業も進めています。
瓜田社長 : 外食事業は特に好調で、「博多天ぷら やまや」はワンバンコク店を中心に高い支持を集め、今秋には4号店のオープンを予定しています。
さらに、これまでのテイクアウトや外食の知見を活かし、新業態への挑戦も視野に入れています。特に注目しているのが「魚」を使った商品展開です。私自身、水産部門で魚の調達から加工、納品まで長く携わってきた経験があり、焼き魚や干物など、健康志向に応える商品をBtoCでも提案していきたいと考えています。
タイでは脂質や塩分を抑えた食生活への関心が高まっており、日本の魚食文化と調理法を組み合わせることで、新たな市場創出の可能性を感じています。
瓜田社長 : 私たちの強みは、リテール事業で培ったタイのローカルリテーラーとの関係構築にあります。セントラルグループのトップスマーケットとは、現地視察や店舗づくりに関する議論も行っており、単なる商品供給にとどまらず、リテールの在り方そのものに踏み込んだ協業を進めています。
近年は日本の地方自治体からの問い合わせも増えており、タイのリテーラーとの橋渡し役として、実現可能なものを提案することが、当社の存在意義だと考えています。
瓜田社長 : タイでは日本産品に対する親しみはあるものの、地方の特産品や中堅メーカーの知名度はまだ低いのが実情です。そうした良品を現地で根づかせるには、タイのローカルリテーラーとの連携が不可欠です。
パッケージや味の調整など、現地の感覚に寄り添う形で展開するには、消費者のリアルな声を把握している現地パートナーとの協業が何よりの近道だと感じています。
瓜田社長 : まず取り組んだのは“守り”の再構築でした。JALグループとしての意識や制度が現場に浸透していなかったため、約25年ぶりに社内セミナーを開くなどして、社内ルールやコンプライアンス遵守の意義を共有しました。
販売スタッフを含め全社員にJALロゴ入り名刺を配布し、仕事への誇りや責任感を育むきっかけとしました。また、社員には制度の「背景」まで説明することで、一体感と理解を深めるよう努めました。
瓜田社長 : 管理部門の機能強化にも力を入れました。事業規模に対してバックオフィスの体制が追いついていなかったため、人員配置や業務フローを見直しました。さらに、他国の拠点と連携しベストプラクティスを共有することで、グループ全体の一貫した管理体制の構築を進めています。
その結果、「これはグループの方針に沿っているか?」と自発的に考える社員が増え、業務品質にも変化が出はじめています。今後はさらなる人材育成を進め、グループとしての一体感と自律性のある組織づくりを強化していきたいと考えています。
瓜田社長 : 今月から、日本語研修を本格的に開始しました。外部講師を招き、希望者が自ら学ぶ体制をとっていますが、早くも社員の意欲の高さに驚いています。
将来的には成田・羽田の空港店舗へのローカル社員の派遣も構想しています。日本の現場で接客を経験することで、サービス品質や業務精度の意識が高まると期待しています。グループ理念や企業文化も、実体験を通じて初めて深く理解できる部分があるはずです。
「JALUXで働くことが誇り」と思える組織文化を、タイからも発信していきたいと考えています。今後は“人”の成長こそが、企業の持続的成長の原動力になると信じています。
瓜田社長 : タイは少子高齢化や景気の不透明感といった課題を抱えながらも、前向きな消費マインドと市場の活気が大きな魅力です。こうした国民性が新たなニーズを生み出しており、当社としても安定したサービス提供とともに、変化の兆しに柔軟に応える姿勢を大切にしています。
設立から26年を迎え、私は8代目の社長を担っています。今年度は過去最高の業績が見込まれており、本社からの期待も高まる中、引き続きガバナンスや品質管理といった“守り”を強化しながら、注力すべき分野の選択と集中を進めていく方針です。
瓜田社長 : 日本の食品には、生産者の顔や背景が見えるという文化的な価値があります。例えば道の駅で「〇〇さんの野菜」と書かれていると、消費者の共感や感謝につながります。海外ではまだこうした仕組みが少ないため、日本の文化の良いところを持ち込みながら“モノ”ではなく“想い”を届ける提案を大切にしています。
食は人と人、国と国をつなぐ存在です。これからも誠実に着実に、タイの地に根を張って日タイの架け橋となるべく尽力していきます。
JALUX ASIA Ltd.
瓜田充弘 社長
2002年にJALUX入社。免税品の輸入・販売に10年間従事したのち、水産部門にて魚の調達・加工・輸出業務を12年間担当。2024年4月より現職。タイ法人の経営改革と多角的な事業推進を担っている。
THAIBIZ編集部
日本とタイを食で活性化!攻めと守りを操る現地経営 ~JALUXアジア瓜田充弘社長インタビュー
対談・インタビュー ー 2025.07.01
輸入許可証の更新等の標準作業手順書(SOP)
会計・法務 ー 2025.07.01
26年度予算案3.8兆バーツ ~過去最大、景気回復に重点~
ビジネス・経済 ー 2025.06.27
研究機関との連携で、バイオエコノミーの成長を促進 ~チュラーロンコーン大学のスチャダー准教授インタビュー〜
対談・インタビュー ー 2025.06.26
EECイノベーションを視察 ~新産業の研究開発を支援し、タイのイノベーションハブへ~
イベント ー 2025.06.20
衛星の国産化へ日タイが連携 ~産官学共創で26年初号機完成狙う~
ビジネス・経済 ー 2025.06.20
SHARE