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連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2025.06.10
KDDIタイランドは、50年にわたり在タイ日系企業の通信インフラを支えてきた。現在は、クラウド移行やセキュリティ強化、専門人材不足といった課題に対応する現地密着型のITサポート事業へと進化。さらにASEAN全体での連携を視野に、地域特性を活かした機能強化を進めつつ、タイ高専との連携など人材育成にも挑戦中だ。
今回は同社の浪岡智朗社長に事業の変遷と展望を聞き、次なるタイの役割について紐解いていく。
(インタビューは5月7日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
浪岡社長:当社は約50年前に日本の「KDD(国際電信電話、現KDDI)」がタイに進出したことに始まります。当時は、タイに進出する日系企業に対して、国際電話やテレックスなどの通信サービスを提供していました。
その後、通信の中心が電話からインターネットへと移り変わる中で、われわれのサービスも大きく変化しました。現在では、ネットワークやWi-Fi、セキュリティ監視、プリンター、PCといったIT環境の構築から運用保守までを一括してサポートする、ITパートナーとしての役割が主軸になっています。
浪岡社長:ここ数年で特に成長を感じているのがクラウド関連の事業です。タイでは今、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)やグーグル、マイクロソフトといったグローバルなクラウドプレーヤーが次々とタイ国内への進出を発表、東部経済回廊(EEC)では複数の大規模なデータセンター建設が進んでいます。
浪岡社長:主に3つの理由があります。1つ目は地理的優位性です。タイはミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムなどを含む約2.5億人の市場の中心に位置しており、ASEAN域内でのハブ機能を果たしやすいです。
2つ目は通信インフラの整備状況です。タイと海外を結ぶ光海底ケーブルの本数が、過去10年で大きく増加しました。特に東部経済回廊(EEC)では、複数の国際海底ケーブルが利用できるようになり、以前に比べて国際通信の速度や安定性、冗長性が格段に高まっています。
3つ目はコスト面での優位性です。電力や土地のコストが比較的低く、特にこれまでアジアの中心として機能していたシンガポールと比べて大規模な施設の開発に適しています。
当社グループ会社のデータセンター(テレハウスタイランド)も、こうした環境を活かした設計になっています。バンコク市内中心部のラマ9世地区にあるKDDIのデータセンターは、タイ国内、対隣国の通信事業者との接続性を考慮しており、クラウドサービスとしてはAWSと専用線で直接接続されているため、通常のインターネット経由よりも通信速度・安定性・セキュリティのすべてにおいて高い品質を実現しています。
浪岡社長:当社では、AWSをはじめとしたクラウドサービスを提供していますが、KDDIの強みは、クラウド利用に関する移行前後の悩みに寄り添う伴走型サポートです。
「どう移行するか」「移行後どう運用するか」といった課題に対して、システム構成の提案から運用・保守までをトータルで支援。お客様にとっての「外部のITチーム」として、最適なITシステムの提供を行なっています。
一方で、クラウドは誤設定などによるセキュリティリスクも伴います。当社が間に入ることで、安全かつ効果的な活用をサポートできるのも大きな価値だと考えています。
浪岡社長:今主流になりつつあるのが「ゼロトラストセキュリティ」という考え方です。場所に関係なく、常に同じレベルのセキュリティを担保する設計で、オフィス、自宅、カフェなど、どこでも安全に業務ができるようにする仕組みです。KDDIでは「SD-WAN(ソフトウェア制御型ネットワーク)」を活用し、柔軟でセキュアなIT環境への対応を行なっています。
浪岡社長:中小規模の企業では、社内に専門人材がいないケースも多く、「何をどうチェックすべきかわからない」といった悩みも非常に多いです。そこで当社では、第三者の立場でのアセスメントから抜け漏れのチェック、具体的な対策提案までワンストップで支援しています。サイバー攻撃が工場やサプライチェーンに深刻な影響を及ぼす今、セキュリティ対策は事業継続のために欠かせない要素の一つとなっています。
浪岡社長:日系企業の中には、ASEAN全体の統括機能をタイに置く例が増えています。以前はシンガポールが主流でしたが、コスト面などを理由にタイへのシフトが見られます。そうなると「ASEAN全体のIT戦略をタイで構築する」ニーズも出てきます。
そのような企業をサポートするため、KDDIもASEAN13ヶ国に17拠点を構え、エンジニアを常駐させています。これにより、タイを統括拠点とするお客さまの統一的なIT運用を支える体制を整えています。
浪岡社長:50~100人規模の企業では、IT担当者が他業務と兼任していることも多く、運用やセキュリティ面に不安を感じているケースが少なくありません。そうした現場をKDDIが外部から支えることで、「現地に寄り添った日本品質のITサポート」が提供できると考えています。
また近年は、クラウドに強みを持つIret社や、カスタマーサポートを担うMOCAP社といったKDDIグループの関係各社がタイに集結しつつあります。これにより、通信インフラだけでなく、システム開発やセキュリティ診断、導入後のサポートといった、ワンストップのITソリューションを提供できる体制が整いつつあります。
浪岡社長:日本の高専(KOSEN)を導入したキングモンクット工科大学ラートクラバン校(KOSEN-KMITL)と連携し、IT志向の若手を新卒採用・育成する取り組みを始めています。実は私自身も高専出身で、専門性を持つ人材に機会を与えたいという思いから、高専卒でも正社員採用できる人事制度を整備している段階です。
さらに現在は、ローカル採用の社員が日本本社に出向した後1〜2年働いてからタイに戻る「逆出向」の検討も始めています。日本での経験はKDDIのカルチャーや技術を深く理解する機会になり、社員のモチベーションやご家族の信頼向上にもつながります。家族帯同での赴任制度も近く実現する見込みです。
「日本で働ける会社」という魅力あるキャリアパスを提供することで、定着率の向上とともに、タイ発の実績やノウハウを将来的に日本へ逆輸出する。これは、KDDIがグローバルに展開しているからこそ可能な育成モデルだと考えています。
浪岡社長:今後は単なるITインフラ提供にとどまらず、「タイだからこそ生まれる価値」をアジアや日本に展開していきたいと考えています。
例えば、高温多湿な環境や製造業集積といった現地の特徴から生まれる課題に根差したソリューションを、グローバルにも応用していく。当社の強みは、日本の基準を理解しながらも、タイ現地での事情や感覚をきちんと汲み取れるという点にあります。今後もさらに日本とタイ、そしてASEANをつなぐ「橋渡し役」としての価値を高めていきたいです。
KDDI(THAILAND)LTD.
浪岡智朗 社長
1995年に第二電電(現KDDI)に入社。通信設備の運用保守、医療NWの研究開発に従事した後、システムエンジニア/営業として公共向けのITソリューションに17年間携わる。2024年より現職。
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