カテゴリー: ビジネス・経済
連載: Business Topics in Thailand
公開日 2025.04.10
近年、YouTubeを活用した動画コンテンツが企業のコーポレートブランディングにも広く用いられている。タイの経営層もSNSを使い、動画での情報収集が一般的になった。
これまでの新聞中心の情報発信は、ウェブ記事や SNS投 稿、YouTube動画を軸とした形式へと変化している。動画は活字よりも視覚・聴覚から多くの情報を伝えられるメリットがあるが、誰に届けたいかによって手段を柔軟に選ぶことが重要である。
タイ企業の経営者が動画に出演する目的は多岐にわたる。企業の認知向上、投資家へのメッセージ、経営者が交代するタイミングでの発信、採用強化、経営方針の説明、さらにはIPO前の情報開示など、それぞれの目的に合わせた使い方がある。特にインタビューで「人」を伝えるという点では、動画は文章よりも圧倒的に情報量が多く、見た目や話し方など視覚と聴覚の両方で印象を残すことができる。タイでは今、YouTubeチャンネルを持つ経済・ビジネスメディアに上場企業のトップが登場し、企業ブランドを「人を通じて」築く時代になっている。
在タイ日本企業の経営者も、すでにタイの有力経済メディアの動画出演をしはじめている。
例えば、味の素、花王、OWNDAYSなどが「ザ・スタンダード」や、同編集長がホストを務めるフォロワー100万人超の人気チャンネル「THE SECRET SAUCE」に登場。日本語や英語で語った内容にタイ語字幕をつけ、明確にタイ人向けの発信を行っている。
タイビズ2024年6月号の表紙を飾ったタイ味の素社の坂倉社長は、同8月号表紙のシーチャンのラウィットCEOがホストを務める「Mission To The Moon」にも出演。いずれのメディアもタイ人を対象とした質の高いPR・ブランディングを叶える媒体であり、日本企業にとって今後の参考になる実践例だ。
動画発信によって得られる効果は、単なる再生数にとどまらない。定量的な指標よりも、その次にある「定性的な効果」が大きいと考える。
例えば、ある求職者が動画を観て企業の考え方に共感し入社につながったり、従業員が「自分たちの会社が社会に知られるようになった」と誇りを感じたりする。転職を検討していた社員が、「普段直接話す機会のない日本人経営者の考え方を知ることができて、転職せずにその会社の幹部候補になった」などの事例につながれば、再生数が1でも十分に効果があったと言える。動画は、誰に届いたかによって意味が変わる。1回の再生が、1人の未来を変える力になることもあるのだ。
タイ経済は、1960年代からの日本企業の進出によって工業化を遂げることができた。政府開発援助(ODA)など日本政府からの支援や、タイに住む駐在員の誠実な姿勢が「信頼できる国」という評価に繋がっている。この事実は、タイの官僚や経営者層、そして日本企業に長年勤務するベビーブーム世代やX世代のタイ人には確実に認知されている。
しかし、10年後はどうだろうか。世代交代が進めば、過去の記憶は風化していく。近年、日本企業のタイでの存在感が薄れつつある。中国など競合の台頭はもちろんだが、日本側の発信不足は大いにあるだろう。今は声を上げなければ伝わらない時代。タイに多くの日本企業と日本人がいるからこそ、孤立せず、社会に開かれた発信をはじめるべきである。世代を超えて信頼をつなぐことで、未来に向けた関係性を築くことができる。
「日本企業に就職してよかった」「日本企業と組んで事業が拡大できた」と思えるタイ人を一人でも多く増やすには、企業が自ら語り、価値を伝えていくしかない。
日系企業の経営者が出演したタイメディア動画
THE STANDARD
KAO:https://youtu.be/6Oc7sk97Zp4?si=5hm1UmvcOeEUdR0W
THE SECRET SAUCE
AJINOMOTO:https://youtu.be/qZfGOZNpOPw?si=39cuGYqUKJRAqGjT
OWNDAYS:https://youtu.be/iA3g-VqcgMA?si=4DosrPPFx-NZjgYO
Mission To The Moon
AJINOMOTO:https://youtu.be/Gq68XKpPLb8?si=KhoqDMLPgEEs_A0L
Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ帰国後の2009年にMediatorを設立。政府機関や日系企業などのプロジェクトを多数手掛けるほか、在タイ日系企業の日本人・タイ人向けに異文化をテーマとしたセミナーを実施(延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTJRIを立ち上げた。
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