THAIBIZ No.158 2025年2月発行日タイビジネス70年の軌跡と未来への挑戦
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カテゴリー: 会計・法務
公開日 2025.02.10
昨年11月に、「労働者福祉基金への掛金及び拠出金の徴収に関する勅令」(以下「本勅令」という)が公布された。これにより、2025年10月1日から、従業員10人以上の会社は、労働者福祉基金に、一定の金銭を(労使共に)拠出することが義務付けられることになった。
つまり、多くの在タイ企業は、本年10月から従前の社会保険料に加えて、労働者福祉基金への負担分を社会保険事務所に対して納付しなければならなくなる。そこで本稿では、本勅令に関連する省令の内容を概観する。
目次
今回の福祉基金に対する拠出義務は、既に制定済みの労働者保護法第130条に基づくものである。本条は以前から有効ではあったが、実際の拠出は、本勅令が2024年11月15日に公布されるまで施行されていなかったものだ。
第130条(第1項、第2項抜粋)
1. 労働者10人以上を有する事業所の労働者を労働者福祉基金の加入者とする。
2. 第1項の規定は、使用者が積立基金法に基づく退職金積立基金を設けている事業所、または使用者が省令で定める規則及び手続に従い、労働者が退職もしくは死亡した場合の福利厚生制度を設けている事業所には適用しない。
本勅令により、同条で規定されていた金銭拠出が明確に義務化されたことになる。ただし、第2項に基づき、以下の事業所は適用除外とされる。
・Provident Fund(退職積立基金)に加入している事業所
・使用者が省令で定める代替措置を設定している事業所
本勅令とともに、以下の2つの省令が公布されている。うち一つは、拠出金の拠出率を明記するもので、もう一つは、上記第2項の代替措置の内容を明らかにするものである。
この省令では、会社が従業員から徴収し、自らも拠出する労働者福祉基金の拠出率が規定されている。
具体的には、以下の内容が定められた。
・2025年10月1日から2030年9月30日まで:賃金の0.25%を会社及び従業員双方が拠出
・2030年10月1日以降:賃金の0.5%を会社及び従業員双方が拠出
この省令は、労働者福祉基金の代替制度として、会社が解雇又は死亡時に支援を提供する要件を規定している。
具体的には、以下の内容が定められた。
・会社および従業員の双方が金銭を拠出し、特定の銀行口座に積み立てること
・拠出率、徴収方法、金額確認の手順が書面化されていること
・拠出率がProvident Fund Act(積立基金法)で定められた最低率を下回らないこと(同法第10条では2〜15%と規定)
上記を要約すれば、10名以上の従業員を雇用する会社には、以下の3つのオプションが存在することになる。
1. 本勅令に基づく労働者福祉基金への加入
2. Provident Fund(積立基金)への加入
3. 代替措置の設定(特定の口座への労使積立)
ただし、Provident Fundおよび代替措置では最低2%の拠出率が求められるため、在タイ企業にとって、拠出負担が最も少ないのは、本勅令に基づく労働者福祉基金への加入となるだろう。
なお、労働者福祉基金ではなく、タイの現行の社会保険では、保険料は賃金の5%とされ、労使双方が負担している。ただし、この賃金額に対しては、省令の定めによって、1万5,000バーツの上限が設定されており、労使がそれぞれ負担する保険料の最高額は750バーツ、合計で1,500バーツとなっているのが現状である。
この賃金の上限額(1万5,000バーツ)が労働者福祉基金にも適用されるかどうかについては、現時点では、適用の根拠となる省令は出ていない。したがって、労使ともに「実際の賃金額」に対して拠出率を適用し、金額を算出することが予定されているというべきだろう。しかし、社会保険局によれば、将来的に別の省令で賃金上限が設定される可能性があるとのことであり、2025年10月1日の発効までの動向に注意が必要である。
THAIBIZ No.158 2025年2月発行日タイビジネス70年の軌跡と未来への挑戦
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GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士
藤江 大輔 氏
2009年、京都大学法学部卒業、2011年に京都大学法科大学院を修了後、司法試験合格。2012年にGVA法律事務所に入所。 2016年より同事務所パートナー弁護士に就任し、2017年にバンコクでGVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.を設立、同代表に就任。2021年より大阪に弁護士法人GVA国際法律事務所を設立し、代表を兼任。
URL : https://gvalaw.jp/global/3361
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