タイ製造業が挑む!省エネからはじまる脱炭素化への道

THAIBIZ No.155 2024年11月発行

THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集

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タイ製造業が挑む!省エネからはじまる脱炭素化への道

公開日 2024.11.11 Sponsered

NEDO x リブ・コンサルティング(タイランド) 特別対談 タイの脱炭素化の未来予想図

「タイにおける工業団地の脱炭素・省エネ化プロジェクト」を通じて、NEDOとリブ・コンサルティングはタイにおける脱炭素化の未来をどのように描いているのだろうか。そこで、NEDOバンコク事務所の川村寛範所長とリブ・コンサルティング(タイランド)代表の香月義嗣氏にタイの脱炭素化の現状の課題と将来展望などについて語ってもらった。(以下、敬称略)

◎香月 義嗣 氏
リブ・コンサルティング(タイランド)Managing Director

東京大学工学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。2012年からリブコンサルティングにて勤務。東アジア・東南アジア各国で約180社、270プロジェクトのコンサルティング実績、約1万人への講演実績を持つ。2006~2017年まで韓国・ソウルに駐在後、2018年よりタイ・バンコクに駐在。

◎川村 寛範 氏
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)バンコク事務所 所長

1996年NEDO入構。再エネ導入部門、企画・管理部門などの配属後、2009~2012年タイに駐在し、タイ、ベトナム、カンボジアにおけるエネルギー/環境技術に係る実証事業を担当。現在、バンコク事務所長として2021年10月から2回目の赴任となりASEAN各国における実証事業の他、各種調査、セミナー等を通じて日系企業のASEAN各国でのビジネス展開サポートを実施。

エネルギー・産業技術の海外展開を後押し

香月:NEDOのタイにおけるミッションについて教えてください。

川村:われわれのミッションは、エネルギーや環境問題を解決するための技術を持つ日本企業がタイ市場でのビジネス展開につなげられるよう支援をすることです。特に中小企業やスタートアップは、優れた技術を持っていても海外での展開にはネットワークや資金面などさまざまなハードルがあります。そこで、ファンディング機能を持つわれわれが、現地の政府や民間企業との間に入り、円滑に事業を進められるよう支援を行っています。

日本の技術を通してタイの脱炭素化社会を実現

香月:今回のプロジェクトを通じて、NEDOが目指していることを教えてください。

川村:今回のプロジェクトの目的は、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想で掲げられている東南アジアの脱炭素化の重要性を踏まえ、特にタイの工業団地における脱炭素化を加速させることです。

また、日本には多くの省エネ技術がありますが、それらの技術を普及させるには、まずタイの企業や工業団地に知ってもらうための露出を増やす必要があります。今回のプロジェクトを通じて、日本の省エネ技術を紹介し、日系企業のPRのきっかけにもつながれば良いと思っています。

香月:工業団地を対象にした理由について教えてください。

川村:日本政府は、日系企業が多く進出するASEANの工業団地の脱炭素化を重視しています。その中でも、タイは自動車製造業を中心とした日系企業が多く進出し、強固なサプライチェーンを築いています。また、工業団地側もカーボンニュートラルに向けた目標を掲げ、積極的に新しい技術を取り入れたり、工業団地に入居する事業者に対して再エネ電力の提供や新たな上下水などのインフラ・ロジスティックス提供なども検討しています。

プロジェクトを進めることにより、入居する企業のほか工業団地に対してもさまざまな日本の技術をPRする機会を通じて将来の技術実証事業につながることも期待しています。そのため、日本として最も強みを活かせるタイの工業団地を今回の対象としました。 

タイ製造業が挑む!省エネからはじまる脱炭素化への道

香月:在タイ日系製造業は、日本本社や国際社会からの要請で脱炭素化の取り組みに対する課題意識はあるものの、何をどう進めてよいか分からないという声をよく聞きます。一方で、ソリューション提供側の日系企業は、どこにアプローチしてよいかわからない、そもそも対象顧客にすら出会えないという課題を抱えています。

さらに出会えても物売りになってしまい、工場側のニーズを汲み取れず、ミスマッチになっていて、もったいないと感じますが、NEDOはこのような課題に対してどのようなサポートができると思いますか。

川村:省エネに関しては、単純に機器を導入するだけではなく、それらの機器をどのように組み合わせて使うかが重要です。多くの企業は製品を売り込むことに集中しがちですが、実際には工場側が本当に必要としているソリューションを提供できていないことがあるかもしれません。

そこで、われわれが脱炭素・省エネ診断を通じて、工場側に対して適切なソリューション技術の導入提案をすることで、最終的に工場側にベストなソリューションを選んでもらえればと思います。また、技術を持つ日系企業がこれまでアプローチできていなかった新たな顧客との繋がりを作るきっかけになればと思っています。

今回のプロジェクトでは、成功事例を構築することも鍵となります。一つの成功事例ができれば、口コミなどを通じて他の産業にも展開がしやすくなり、タイの脱炭素化に貢献できると考えています。そのため、タイのローカル企業に対してもしっかりアプローチしていくことも重要だと考えています。

香月:民間企業だと利益が先行してしまい、工場側にとって最適なソリューションを提供できない場合があるため、NEDOのような公的機関が中立的な立場で間に入ることは価値があり、双方の信頼につながると改めて感じました。

タイにおける日系企業のプレゼンス向上

香月:タイにおける日系企業のプレゼンスが少しずつ下がっていると言われていますが、どのように感じていますか。

川村:単なる物売りの時代は終わりつつあり、特に脱炭素化や環境問題など社会課題の解決には、一企業だけではなく、さまざまな企業や機関が連携し付加価値をつけた技術やサービスの提供が求められています。複数の企業や政府機関が連携して社会課題の解決に取り組むことで、タイ政府や社会にアピールできれば、タイ市場でのプレゼンスをこれまで以上に高められるのではないかと思います。このような大きなプロジェクトに取り組む際には法体制の整備や技術導入後もメンテナンスを行いつつ継続的に利用できる人材の育成なども欠かせません。他の機関とともにNEDOが触媒としての役割を果たし、日系企業のプレゼンス向上を支援していければと考えています。

タイの脱炭素化の将来展望

香月:最後に、タイにおける脱炭素化の将来展望はどのように見ていますか。

川村:大手企業は数値目標を掲げ、積極的に脱炭素化を進めています。また、輸出業に携わる企業はCBAMへの対応と併せて今後導入が予定される炭素税などの条件に従わざるを得ず、一定規模の企業では脱炭素化は進んでいくと考えられます。一方で、多くの中小企業にとっては、コスト面などのハードルがあり、対応が遅れ、短期的には二極化が進むのではないかと考えています。

香月:中小企業における脱炭素化は、取り組みの初期段階ではコスト負担を重く感じやすいため、ゴール設定が鍵になります。 例えば 、低コストで最低限の社会的責任を果たすというゴールを設定し、それを補助する仕組みがあれば、中小企業も取り組みやすくなるのではないでしょうか。

脱炭素は日本の優位性を活かせる分野であり、制度設計を含めNEDOをはじめとした日本の先駆者が主導していくことができれば、タイ全体の脱炭素化にもつながると考えています。

タイ製造業が挑む!省エネからはじまる脱炭素化への道

川村:日本の技術や製品の導入コストの高さは、デメリットと捉えられがちですが、環境技術などは長い目で見たトータルでのコストパフォーマンスを訴求していくことが重要だと思います。太陽電池もかつては高価でしたが、新たな技術と補助金の導入などにより現在は価格が下がり、グリッドパリティを達成しているところも多くあります。

同様にカーボンニュートラル技術も現在はまだ高価ですが、大手企業が先行して導入していく中で徐々に価格が下がれば、将来的に中小企業も使いやすくなると考えられます。NEDOとしては、政府の資金を活用し、日本企業が活躍できる場を作りながら、できるところから進めていきたいと考えています。

【まとめ】タイにおける脱炭素化の将来シナリオ

同プロジェクトを通じて、香月氏はタイの脱炭素化の将来シナリオについて、「日系大手企業は、今後はスコープ3(サプライチェーン全体のGHG排出量)への対応を求められ、タイのサプライチェーンにも大きな影響を与えるため、危機感を持って対応している」とした上で、「今後、これらの企業の成果が事例となり、サプライチェーンにもその取り組みが広がるだろう」との見解を示した。

さらに、「GHG排出量の算定・報告の共通ルールに日本方式を導入するAZECの方針が後押しとなり、日系企業を中心に脱炭素化の取り組みが加速し、2026年頃には大きく進展する」と予測した。一方で、「脱炭素に関連する人材が不足しており、EV産業で起きた人材獲得競争のように、今後3年以内に人材獲得競争や専門人材の育成が課題になるだろう」と懸念を示した。

リブ・コンサルティング(タイランド)

成果主義・現場主義を重視した日本発の経営コンサルティングファーム。「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、企業や政府機関へのコンサルティングを通じてタイ国を良くするため、戦略から実行まで「成果コミット型」で支援している。

Web:https://libcon.co.th
E-mail:[email protected](金谷)

【コンサルタント紹介】

香月 義嗣 氏
Managing Director

東京大学工学部システム創成学科卒業、東京大学大学院 新領域創成科学研究科修士課程修了。大学院まで環境学を専攻し、環境プランナーの資格を保有する。2012年からリブコンサルティングにて勤務。東アジア・東南アジア各国で約200社、約300プロジェクトのコンサルティング実績、約1万人への講演実績を持つ。2006年~2017年まで韓国・ソウルに駐在後、2018年よりタイ・バンコクに駐在。著書に『アジア進出企業の経営「成功のメカニズム」(2023年出版 / プレジデント社)』、『日本企業が韓国企業に勝つ4つの方法(2013年出版 / 中経出版)』がある。

金谷 泰佑 氏
Director / Client Representative

東京大学文学部卒業後、大手物流企業に入社。内部統制や子会社管理等に携わった後、主に国際物流分野にてAPAC地域の法人営業の企画・推進に従事。2017年より豪州、シンガポール、2018年~2022年までタイ・バンコクに駐在。タイにおいて日系自動車関連、電機メーカー等への国際輸送や倉庫、配送に関して幅広い支援経験を持つ。2024年よりリブコンサルティング・タイランドに入社。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)バンコク事務所

持続可能な社会の実現に必要な研究開発を推進する、日本のファンディングエージェンシー。バンコク事務所はアジア地域全般を所管地域として、国際事業の展開支援やエネルギー・産業技術分野の関連情報収集など、幅広く活動している。タイではこれまでに30以上のプロジェクトを支援。

Web:www.nedo.go.jp
E-mail:[email protected]
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THAIBIZ編集部

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