ArayZ No.145 2024年1月発行アジアとともに未来を創るスタートアップと創造都市
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2024.01.09
森山 敦友|ハノイ支店 日系営業1課 トレーニー(福岡銀行より)
目次
高齢化は今や世界的な現象(課題)となっている。世界の総人口に占める65歳以上の割合は、1950年の5.1%から2020年には9.3%まで上昇している。更に2060年には17.8%まで上昇する見込みであり、次の半世紀で高齢化が急速に拡大すると予想されている。
今回取り上げるベトナムは、人口約1億人で平均年齢31歳(日本の平均年齢49歳)と豊富で若い労働力を背景に海外から労働集約型の産業を誘致し、国民所得を増大させ、内需を拡大することにより、経済発展を遂げてきた。
このようにベトナムは若い労働人口が土台となって経済発展を続けてきた一方、高齢者の増加による「高齢化社会」が与える経済への影響や課題が徐々に顕在化し始めているのも事実である。本レポートではベトナムの高齢化の実態や課題、今後の事業機会について取り上げていく。
Worldpopulationreviewによると、2022年のベトナムの人口は9,818万人で世界で16番目に人口が多い国となっている(図表1)。
政府は1961年以降、急激な人口増による国民の困窮を恐れ、人口を抑制する「家族計画政策」を開始。更に1988年に「二人っ子政策」を行い、出生率の低下とともに人口増加率も低下していった。2000年頃には「女性一人当たり子ども2人」が一般的となり、緩やかに人口増加率が低下。予想では2050年をピーク(1億7百万人)に人口減少が進む見込み(図表2)。
65歳以上の高齢者数は9.2百万人と人口全体の9.3%を占め、既に「高齢化社会」に突入している(図表3)。
図表3の年齢分布を詳細にみていくと、労働年齢人口(15歳以上65歳未満)は今でも総人口の7割程度を占めており、引き続き豊富な労働力を有していることがわかる。一方で、1990年代の出生率急落に伴い、30歳未満の世代はその上の世代に比して数が少なく、今後、労働年齢人口比率の低下および労働年齢人口そのものの減少が見通されている。
出生率の最も高かった1960年代は、高齢者割合5%前後で推移しており、比率の上昇も緩やかであった(図表4)。2014年以降、高齢者割合の増加率が上昇しているが、経済成長に伴う医療水準の向上により高齢者の死亡率が低下したことや、戦後のベビーブーム世代の高齢化が進んだことが要因である。
2017年に高齢者割合が7.0%となり、「高齢化社会」へ突入。その後、2022年に高齢者人口は8.9百万人に達し、10年前の2012年と比べ53.8%増加。前頁の人口構造を勘案すると、高齢者割合14%超の「高齢社会」への移行はもはや時間の問題と言える。
UNFPA(国連人口基金)によると、ベトナムは2036年には65歳以上の人口が15.5百万人に達し、人口に占める高齢者割合が14%を超え「高齢社会」へ突入する見込み。
「高齢化社会」から「高齢社会」への到達期間は18年で、ASEANにおいてシンガポールに次いで2番目の速さとなる見込み(図表5)。ASEANにおける高齢者比率は2020年時点で3位(7.9%)。2040年予想においても、同様にASEANで3番目に高齢者比率の高い国となる見込み(図表6)。
国際労働機関(ILO)とベトナム 社会保障(VSS)の試算によると、ベトナムの社会保障システムは、現行の保障制度運用のままで「高齢社会」を迎えると、2030年には年金の確保が継続できなくなるとされている。
主な要因は二つあり、一つ目はベトナムの非正規雇用者が5割超と多く、年金基金の加入者率が2022年時点で31.1%と極めて低いこと、二つ目は、年金制度が賦課方式であり、定年の年齢が男性60歳、女性55歳と先進国に比べ若く、掛け金と給付額のバランスがとれていない状況となっていることである。
「高齢化社会」から「高齢社会」への移行年数が短く、今後も急速に高齢化が進むことが予想され、労働年齢人口の減少による経済成長への影響も懸念される。
また、ベトナムは2017年に「高齢化社会」へ到達した際の一人当たりのGDPが2,354ドルとASEAN諸国の中でも低い水準にあり、経済(≒産業)が発展途上の段階のまま「高齢化社会」に突入。同じく低水準のタイのような「中進国の罠」に今後陥る可能性が危惧される。
ベトナム商工会議所の「ベトナムの高齢者介護サービスに関する市場の展望に関する報告書」によると、ベトナム国内における高齢者向けサービス市場は、2035年までに2千万人の顧客が見込まれる有望な市場となる見通しである。こうした高齢化が急速に進むベトナムにおけるシニアマーケットの急拡大を事業機会と捉え、制度構築と民間サービス参入の両面で、高齢者を支援することが重要と考える。
市場拡大が期待される主な業界としては、介護業界や医療品・健康食品業界が挙げられる。
ベトナム商工会議所(VCCI)によるとベトナムの介護市場は2020年から2027年にかけて最大7%の年間成長率になると推定される。高齢者が増えると同時に、所得中間層・富裕層がさらに増加するので、有料の民間介護サービスの需要増加が見込まれる。
一方で、ベトナム人は家族関係を重んじているため、現状、自宅で介護することが多く、入居型の介護施設の浸透に時間を要すともされている。
大気汚染問題も関係し広い世代で健康意識が高く、ベトナム国内の商品はもちろん、日本や韓国の商品も通販サイトで販売されており需要は高い。最近では、近代的なドラッグストアであるPharmacityやGurdianなどが店舗数を増やし、地場IT最大手FPTの関連会社が展開する薬局「Long Chau」はAIを駆使した販売戦略にて急成長を遂げている。
そして今後、高齢化による健康寿命の延伸ニーズも高まり、さらに市場拡大が予想される。
ベトナムは経済成長の拡大と同時に社会保障制度の整備を進めていかなければならない難しい状況に直面している。一方で、「高齢社会」を迎えるにあたり介護や医療品などの市場も高い成長が見込まれる。世界の中でもいち早く「超高齢社会」となった日本から学ぶことは多く、日越双方にとって一層メリットの大きい協力体制を構築することが期待される。
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みずほ銀行メコン5課
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