省令によって実施可能とされたサービス事業(その3)

THAIBIZ No.151 2024年7月発行

THAIBIZ No.151 2024年7月発行スマートシティ構想で日タイ協創なるか

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省令によって実施可能とされたサービス事業(その3)

公開日 2024.07.10

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

レンタル可能な建物・事務所スペースはなお限定的

2019年6月の省令(第4号)で緩和されたグループ会社向けサービスは、前回ご紹介した①「国内グループ会社向け貸付」の他に、②「ユーティリティを含む建物・事務所スペースのレンタル」と、③「管理・マーケティング・人事・ITに関するアドバイス・コンサルティング」があります。

今回は②と③についてご説明します。

余剰資金の貸付と同様に、余っているオフィススペースを経費削減等のためにグループ会社に貸与することも、これまでは「その他サービス業」に該当するとされ、商務省の許可が必要でした。しかし、「ユーティリティを含む建物・事務所スペースのレンタル」が2019年の省令によって外資規制の対象から外れ、許可なく実施できるようになっています。なお、ここでの「ユーティリティ」とは電気や水道を指すと解されます。

主な論点は、レンタル可能な「建物・事務所スペース」とはどこまでを含むか、および自社が所有しない賃貸物件のサブリース、いわゆる「又貸し」は可能であるのか、の2点です。

事例1

【案件番号】2020年11月 No.1

● 案件概要

許可不要のスペースのレンタルについての照会。

● 商務省の判断

この省令が定める「電気・水道などを含む建物・事務所スペースのレンタル」の範囲に、倉庫のレンタルは含まない。

出所:タイ商務省資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成 (注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています

一つ目の論点について、事例1の商務省の判断によれば、レンタルできるのはオフィススペースに限られ、倉庫は含まれません。工場や作業場などについては言及されていませんが、ここでも厳格な解釈が行われていることから、オフィス以外は倉庫と同様、工場なども規制緩和の対象とは解されない可能性が高いと推測されます。

倉庫や工場をグループ会社に対してレンタルしたいと考える外資企業は、やはり従来通り商務省から許可を取得するか、または投資委員会(BOI)から工場や倉庫のレンタルも含む貿易投資支援事務所(TISO)の認可を取得する必要があると考えられます。

事例2

【案件番号】2019年9月 No.1

● 案件概要

建物・事務所スペースのサブリースは、許可不要の事業に該当するか。

● 商務省の判断

建物・事務所スペースのサブリースは、この省令が定める許可不要の事業には該当しない。

出所:タイ商務省資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成 (注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています

二つ目の論点について、事例2の商務省の判断によれば、許可が不要となる建物・事務所スペースのレンタルとは、自社が所有する物件についてのみであって、自社が所有しない賃貸物件については、グループ会社向けであってもサブリース(又貸し)は外資規制緩和の対象とならず、商務省の許可が必要と解されています。

どうしてもサブリースが必要であれば商務省の許可取得にチャレンジすることも検討できますが、申請コストや、取得できないリスクも高いと想定されます。オーナーとの契約を結び直して、当該スペースを利用したいグループ会社が直接の借り手となる方が、より現実的な解決策であるように思われます。

グループ会社向けコンサルも統括機能までは及ばない

2019年の省令で外資規制の対象外となったグループ会社向けサービスの三つ目は、「管理・マーケティング・人事・ITに関するアドバイス・コンサルティング」です。一見すると、統括業務やシェアードサービスなど、幅広い管理サービスの提供をイメージさせる規制緩和にも見えますが、他の事例と同様、商務省の判断解釈は現在のところ非常に限定的な解釈に留まっています。

事例3

【案件番号】2020年7月 No.2

● 案件概要

外資企業T社は、海外の親会社に対して、マーケティングに関するアドバイス・コンサルティングを、バックオフィスの形で提供することを検討している。これは許可不要の事業に該当するか。

● 商務省の判断

省令が定める許可不要のマーケティングに関するアドバイス・コンサルティング事業とは、マーケティングに関するアドバイス・コンサルティング事業であって、バックオフィスとしてマーケティングに関するサービス提供等を行うことを含まない。

出所:タイ商務省資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成 (注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています

ここでのポイントは、サービス提供できる内容の「深さ」及び「幅」の2点です。内容の「深さ」について、事例3の判断では、マーケティングについて提供できるサービスは「アドバイス・コンサルティング事業」であって、これにはバックオフィス業務を含まない、としています。他にも、これまでに「マーケティング・販売促進・研修・研究開発の実施」(2021年12月No.2)、「コールセンター・広報」(2021年4月No.2)の判断において、いずれも規制緩和の対象に含まないとしています。

商務省の許可が不要となったグループ会社向けのサービスは、情報提供としてのアドバイス・コンサルティングに留まるものであり、「相手に代わって何らかの作業を行うような内容は想定されていない」としています。

サービス提供できる内容の「幅」についても、「実作業を伴わないアドバイスであれば良い」というものではなさそうです。例えば「輸出入に関する情報提供・物流業者等の探索・仲介」(2020年3月No.1)の判断事例では、「省令で定める例外に該当せず、許可を取得しなければならない」としています。サービスが情報提供に留まっていたとしても、その対象となる内容は、あくまで省令が規定する「管理・マーケティング・人事・ITに関するアドバイス・コンサルティング」に限定されると判断しているようです。

以上から、グループ会社向けのサービスとして外資規制が緩和された範囲は、「深さ」と「幅」いずれにおいても、現状では非常に限定されていると考えられます。省令による規制緩和に該当しないサービス提供を検討するのであれば、やはり商務省の許可(FBL)か、または投資委員会(BOI)から国際ビジネスセンター(IBC)や貿易投資支援事務所(TISO)の認可を取得することが必要です。

次回は「省令によって実施可能とされたサービス事業」の最終回として、実は非常に複雑な「グループ会社」の定義について整理します。

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

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Head of Consulting Division

吉田 崇 氏

東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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E-mail:kazuki.ikegami@murc.jp(池上)
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