「外国人事業許可証」を取得した事業(その1)

THAIBIZ No.156 2024年12月発行

THAIBIZ No.156 2024年12月発行深化する日タイの経済成長戦略

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「外国人事業許可証」を取得した事業(その1)

公開日 2024.12.11

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

FBCよりハードルの高いFBLの取得

外資企業がタイで実施できる事業の5つ目の類型として、最後にご紹介するのが、商務省から「外国人事業許可証」(FBL=Foreign Business License)を取得した事業です。FBLは、前回までご紹介した外国人事業証明証(FBC)と混同されやすい制度ですので、まずは簡単に、重要なポイントについて両者の違いを整理します。

決定権限の違い

FBC: 投資委員会(BOI)や、工業団地公社(IEAT)などの機関が、外資規制の緩和も含めて、申請された事業を承認します。その承認を商務省が追認することで、商務省からFBCが発行されます。外資規制緩和の決定権限は、実質的にBOIやIEATなどの他機関が持ちます。

FBL: 他の機関を通さず、外資規制を所管する商務省(事業開発局)に対して直接、外資企業として実施したい事業を申請します。商務省が承認すると、FBLが発行されます。

申請できる事業の違い

FBC: 申請可能な事業は、原則としてBOIが投資奨励対象としている事業や、IEATが工業団地での操業を許可している事業に限られます。BOI対象外の事業や、工業団地と関連しない事業では申請できません。

FBL: 原則として、申請可能な事業に制限はなく、どのような事業であっても申請自体は可能とされています。ただし後でご紹介するように、商務省はガイドラインを設けており、そこでは12事業がFBLの対象として想定されています。

許認可取得のハードルの違い

FBC: BOIやIEATは、投資や工業団地への入居を推進する立場にあります。各機関が定める事業に該当し、要件を満たす限りは、承認を得ることは難しくありません。各機関の承認が得られれば、商務省の追認が得られないということも、ほとんど考えられません。

FBL: 商務省は、原則として外資企業による事業実施は禁止、ただしケースバイケースで検討、というスタンスです。必然的にFBL取得のハードルは高く、要件を満たせば許可が得られる、というものではありません。

他にも申請手続きや必要コストなど、違いは多々ありますが、特に重要なポイントは上記の各点です。基本的な考え方としては、まずは実施したい事業がBOIやIEATの対象事業に該当するか否か、その要件を満たせるかどうか、を確認します。対象事業に該当し、要件も満たせるのであれば、FBCを取得できる可能性が極めて高いことになりますので、負担の大きいFBLを検討するまでもなく、FBCを選択すべきと言えます。

問題は、BOIの奨励対象ではない事業や、工業団地とも関連しない事業の場合です。例えば「小売」や「飲食」などの事業は、基本的にFBCの選択肢がないため、FBLにチャレンジするしかありませんが、FBLは申請してみなければ発行されるかどうかが分かりません。

こうした場合の一つの判断基準として、同業他社が同様の事業で既にFBLを取得しているかどうか、商務省のデータベースで確認する方法があります。商務省のデータベースは、上場か非上場かを問わず、原則として登記されているタイ企業すべての決算データ概要が無料かつ英語でも閲覧できるため、非常に便利なデータベースとして知られていますが、タイ語だけの機能として、各社がFBLないしFBCを取得しているかどうか、その内容まで閲覧できることは、あまり知られていません。

同様の事業を行う他社が取得しているようであればチャレンジし、他社が取得している形跡が全くなければ断念(外資化を断念してタイ資本化)する、というのも一つの考え方です。業種や取扱商品・サービスによって、FBL取得のハードルの高さは異なりますが、他社が取得しているということは、商務省に対する説明もしやすくなりますし、理解を得られる可能性が高まることを示します。

商務省が想定するFBL対象12事業とは

FBLの申請は、原則としてどのような事業であっても可能、ただし許可取得のハードルは高い、と説明しましたが、ハードルの高さも、前述の通り事業によって異なります。商務省は下記12事業について、FBLの申請に対するガイドラインを公表しています。これら12事業は、予めFBLの申請を商務省が想定している事業であり、かつガイドラインも示されているものとして、許可取得のハードルが相対的には低いものと言えそうです。

1. 駐在員事務所

2. 地域事務所

3. 政府機関/国営企業へのサービス

4. グループ会社向けサービス

5. 据付・保守・修理サービス

6. レンタル

7. リース

8. ハイヤーパーチェス

9. ファクタリング

10. 受託製造

11. 民間企業との契約に基づくサービス

12. 卸売

上記12事業の申請ガイドラインは、2009年から2010年頃にかけて順次、商務省のウェブサイトで公開されたものですが、商務省の最近の資料、例えば「外国人事業法に関する2023年アニュアルレポート」でも存在が言及されており、現在も有効なものと考えられています。

もっとも本連載で以前もご紹介したように、上記のうち1〜3については省令によって既に外資規制の対象外とされ、4も一部は対象外となっています。こうした点からは、あくまで法的効力はない「ガイドライン」に過ぎず、そこまで厳密性を求めている資料ではない、という見方もできますが、それでも何点か重要なポイントが読み取れます。

一点目は、「グループ会社向けサービス」、「据付・保守・修理サービス」、「受託製造」は実際にFBL取得事例も多く、それなりにガイドラインが機能していると考えられる点です。こうした事業は、BOIやIEAT(およびFBC)でカバーできるケースも多いものの、BOIを取得していない、工業団地に入居していない、など何らかの理由でFBCではカバーできなかったとしても、FBL取得が現実的な選択肢となり得るものです。

二点目は、「レンタル」、「リース」、「ハイヤーパーチェス」は、不特定多数の商材やブランドを扱うことを想定したものではなく、自社グループが製造した商材に限定されているという点です。このため取得事例もそれほど多くはありません。製造または卸売(=輸入販売)を既に実施している企業が、その商材に関するサービス拡充としてFBLを取得しているケースがほとんどのようです。

三点目は、「卸売」のガイドラインはあっても「小売」はない、という点です。タイにおいて「小売」と「卸売」は厳密に区別されていることは本連載でも何度かご紹介した通りです。タイのローカル事業者への影響がより限定的な「卸売」は、FBLの取得可能性も検討しうるのに対して、ガイドラインすら存在しない「小売」は、なおさらFBL取得のハードルが高いと考えられます。

本連載では、各事業のガイドラインの内容を細かくご説明することは致しませんが、FBLの検討にあたっては、今回お示ししたように他社事例の確認と、ガイドラインの有無(および内容)が、取得可能性を探る大きな目安となります。

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

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Head of Consulting Division

吉田 崇 氏

東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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