カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2025.07.09
Land and Houses Public Company Limited (以下、「 L&H」)は1983年に、Anant Asavabhokhin氏と亡き母親であるPiangjai Harnpanij氏によって設立された(図表1)。
以降、タイ不動産市場を牽引してきたデベロッパーである。現在は低層住宅を中核とした住宅開発事業に加え、Grande Centre PointやTerminal 21といったホテル・オフィス・デパートを含む商業施設業および、Home Product Center PCL (ホームセンター)やLH Financial Group PCL(金融)などの子会社を通じ、多様な収益基盤を確立している。今回はL&Hの成長軌跡を見ながら、同社の今後の方針を展望する。
同社の事業は、Piangjai Harnpanij氏が1973年に手掛けた小規模な住宅開発から始まった。オイルショックおよび、当時の高金利も要因で販売は思うようには伸びなかったが、数年を経てようやく販売が軌道に乗り始めた。
タイ経済の回復と成長に伴い、中間層の拡大を背景に徐々に新規プロジェクトを手掛けるようになり、1983 年にはチェンマイにおいて戸建て住宅プロジェクト「Baan Nantawan」を展開。消費者志向のコンセプトを取り入れた製品性が人気を博し、同社の知名度向上につながった。
1990年代に入り、同社は拡大期を迎え海外投資家との連携や、国内外における投資事業に焦点を当てはじめた。本業ではプレキャスト機材の自社製造を進める中で、さらなる内製化を目指し、建築資材の仕入れと販売を手がけるとともに、流通チャネルの獲得を目的として、AIAなどと共同で Home Product Center PCLも設立し、現在の事業拡大の礎となっている。
同社を取り巻く世間を震撼させた事件として、2017年に創業者のAnant氏が台湾系銀行中国信託商業銀行(CTBC)に株式を売却し、提携関係を構築したと同時期に、同氏がタイ有数の寺院であるタマカーイ寺院の土地売買を介した3億バーツのマネーロンダリングの疑いで起訴された事件が挙げられる。同事件は2025年現在でも決着がついていないが、成長路線にあったL&Hグループに大きな衝撃を与えたことは間違いない。
しかしAnant氏の辞任後も経営路線をしっかりと固持し、その後も住宅購入者に寄り添った事業拡大を続け、2005年に金融部門であるLH Financial Group PCL(LHFG)、2011年にTerminal 21などを開発し現在へと至っている。
同社の主要な事業である住宅事業は低層住宅に力点が置かれている。また、SupalaiやPruksaといった中価格帯・量販型住宅を得意とする競合に対し、L&Hは高価格帯に重点を置くことで独自のポジションを築いている。主なユーザー層は子育て世帯を含む富裕層ファミリーであり、郊外での広さ・快適性・品質を重視するニーズに応えている。
同社の強みとして、子会社として商業銀行「LHFG」を有している点が大きく、自社物件購入者への融資対応を迅速かつ柔軟に行えるという点があげられる。特に足元住宅ローンの審査基準がかつてないほど厳格化し、借入制限の強化が消費者の購買意欲を下押しする構図が鮮明な環境下では、このビジネスモデルは優位性を発揮する。
顧客目線を常に持ち続けている点も事業拡大の背景として挙げられる。例えば、1997年の通貨危機時には消費者の住宅ローンの破綻が多発する中、同社は“Promise is Not Promise”というキャンペーンを展開し、すべての顧客に対して確実に住宅を引き渡すと発表し、同社が今もなお信頼されるデベロッパーである基礎となったと言われている。
また、マーケティング面でも90年代に自社開発の顧客データベースを活用した「ダイレクトマスマーケティング」アプローチを導入し、広告費の大幅削減および販売促進を実現し、同時に利益率を飛躍的に上昇させるなどの成果を上げた。
2024年、L&Hは、逆風下でのかじ取りを迫られる一年となった。予約販売額は187億5,500万バーツ(前年比19%減)、物件引き渡しによる売上も161億バーツ(前年比15%減)にとどまり、近年の住宅市場の停滞感が否応なく表面化した(図表2)。
同社は2024年に約308億バーツ相当の低層住宅12プロジェクトを新たに立ち上げ、エリア別・価格帯別に柔軟な供給体制を築く戦略へとシフトした。スペースを重視した若年層向けのタウンホームブランド「VIE」、富裕層をターゲットにしたプールヴィラ「NANTAWAN Pool Villa」など、新ブランドの投入によりポートフォリオの多様化を推進。
一方で、新規のコンドミニアムプロジェクトの発表は控えられ、2024年度の売上構成比の8割を低層住宅が占め、その内5割は1億バーツ以上の価格帯になっている。こうした展開を経た2025年についてはよりコンサバな姿勢となっており、在庫回転率の改善と資金効率の最適化を最優先課題と位置づけ、新規開発は選別的かつ慎重に進める方針を示している。
開発用地の取得は継続しているものの、短期的には既存在庫の消化を重視した運営に転じている。足元の市場環境下で厳しさはみえるものの、その裏ではL&Hが着実に地盤を固めているともいえる。
一方でインバウンド需要が活発な商業施設事業は好調を維持し、同部門の合計収益は前年比17%増の約91億2,100万バーツを記録。「Grande Centre Point」ホテルシリーズの稼働率が高水準を維持したほか、米国カリフォルニア州で運営する「Residence Inn Manhattan Beach」も着実に収益に貢献した。
また、Terminal 21パタヤのモールをL&H系が運用する商業施設特化型REITに売却することで、保有資産の流動化とキャッシュフロー改善にも踏み出している。
投資セグメントでは、関連会社からの持分法適用利益が33億6,200万バーツ(前年比+2%)と、依然として安定したキャッシュ源となった。
なかでも、小売事業であるHomeProが全体の約半分を占める最大の貢献をみせており、不動産投資信託「LHHOTEL」、商業銀行「Land and Houses Bank」、関係不動産会社「QH(クオリティ・ハウス)」などからも堅調な利益がもたらされている。本業とのバランスを取りながら、投資収益という第二の柱もグループ全体の下支えとなっている。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
Associate
裕樹 リラウォン 氏
大学卒業後、大手マーケティング会社、小売企業にてデータ分析、コンサルティングを経験。2022年にMURCタイ入社。
ASEAN 地域の市場調査、企業調査に従事している。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
Tel:092-247-2436
E-mail:[email protected](池上)
No. 63 Athenee Tower, 23rd Floor, Room 5, Wireless Road, Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand
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