カテゴリー: バイオ・BCG・農業, 食品・小売・サービス
公開日 2022.06.21
タイの国家戦略となったバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルの中核産業の一つである農業・食品分野で注目のイベントが相次いで開催された。商業省とタイ商工会議所(TCC)、ドイツ見本市運営大手ケルンメッセが5月下旬に共催した東南アジア最大規模とされる「THAIFEX-ANUGA ASIA(タイフェックス)2022」と、6月中旬にタイ東北部ブリラム県で行われた「大麻フェア」だ。今回のフィーチャーではこの二つのイベントの様子を紹介することで、タイの食品産業の現在と将来を考える手掛かりとしたい。
「タイは世界13位、アジアでは4位の食品輸出国であり、世界シェアは2.3%だ。新型コロナウイルス流行に伴う国際貿易への逆風にもかかわらず、今年第1四半期の食品・飲料輸出額は前年同期比28.8%増の2860億バーツに達した」
タイのジュリン副首相兼商務相は5月24日にバンコク郊外のインパクト・ムアントンタニ展示場で行われたタイフェックス(会期は24~28日)の開会あいさつでこう述べ、タイの食品輸出の好調さをアピールした。
また、タイ政府が構築した貿易メカニズムが「タイ製品、特に食品と農産物は安全であり、新型コロナ・フリーであること世界に確認させることができた」と強調。商務省や保健省などが協力して策定した「Covid-19ベストプラクティス認証」を282工場に発行したが、その目的は安全基準とトレーサビリティーを確立し、「タイを高品質の農産物と食品の世界のハブ」に発展させることだと説明した。さらに、もう一つの主要政策はBCGモデルとともに持続可能な未来に向けたトレンドに対応して「タイ食品を世界食品に変えることだ」と訴えた。
このタイフェックスは新型コロナ流行が始まった2020年は規模を大幅縮小、2021年はオンラインのみの開催となったことから、今年の参加関係者の多くがハイブリッド方式ながら実質3年ぶりの本格開催と受け止めていた。出展社数は外国が36カ国から881社、タイからは722社の合計1603社。地元メディアの報道によると来場者数は約8万3099人で、会場での取引額は688億5100万バーツ超と当初目標の100憶バーツを大幅に上回る金額となり、食品業界関係者もようやくコロナ禍からの復活の手ごたえを感じたようだ。
今回、国別で出展者が最も多かったのは韓国で、続いてベトナム、マレーシア、トルコ、イタリアの順だったという。一方、今回中国からのリアル参加はなく、また日本貿易振興機構(ジェトロ)が運営するジャパン・パビリオンでは「日本・タイ間の渡航規制に関わらず、準備日及び会期の全日程で会場の自社ブースに常駐できる企業に限った」(ジェトロ担当者)ことから、出展者数は18社と新型コロナ流行前の70社超と比較するとかなり小規模となったが、「多くのバイヤーが引き続き日本食品に強い関心を持っていることを改めて実感した」(同)としている。また、輸出支援プラットフォームの取り組みの一環として輸入規制対応に関する相談窓口を設置するという新しい試みも行った。
今回のタイフェックスでは、ジャパン・パビリオン以外でも日本からの出展者による独自の取り組みも見られた。日本の市場調査会社TNCは、同社幹部でタイ料理とフランス料理のフュージョンを得意とする東京・神楽坂「メゾンドツユキ」のオーナーシェフでもある村上千砂氏による日本各地の食材・食品を使った試食会を行った。
すべてブース内で調理することで、日本食材のレベルの高さや活用の方法などを参加者に見せながら提供。大阪の中尾食品のこんにゃく(ベジミート)の唐揚げ、缶詰め入りの明石のタコの昆布オイル煮、ジャパン・アグリ・チャレンジがタイ国内で栽培された日本品種の高糖度のミニトマト「びじんトマト」のソースをかけたナスのパン粉ステーキなど、日本的繊細さを持つユニークな料理にタイ人参加者も舌鼓を打った。
一方、タイフェックスへの出展は今回で14回目という日本食品商社・卸売会社のダイショー・タイランドの加藤秀樹社長は「タイはもともと食品輸出国だったので、主に欧州が作った世界基準を導入している」と指摘した上で、日本食品の輸出促進には海外の規格・食品衛生基準の導入が不可欠だと訴える。具体的には国際標準化機構(ISO)導入や日本の賞味期限の短さなどが課題だという。
さらに今回のタイフェックスにはミャンマー、ラオス、カンボジアなどの周辺国からもバイヤーが来ているとし、日系輸入業者がまだ少ないこうした周辺国へのマーケティング活動が必要だと助言。「タイは地政学的に恵まれており、ハブになれる」と訴える。また、新型コロナの収束をにらんで現在、観光客がタイにも急速に戻ってきており、ホテルやレストランでは人手不足が深刻になってきているとの認識を示した。
「大麻(カンナビス、ヘンプ)は治療やヘルスケア、そして民間経済に恩恵があり、保健省は医療用大麻政策を推進している。2019年に医療用大麻の使用を可能にした後、その有効性と安全性をモニタリングしてきたが、患者は安全性の高い大麻治療を受けられることが分かった。大麻製品には大きな需要があり、2021年には70億バーツの収入をもたらした」
大麻自由化の旗振り役であるアヌティン副首相兼保健相は6月10日、同日から3日間の予定でブリラム市のチェーン・インターナショナル・サーキットで開催された大麻フェアの開幕にあたり大麻ビジネスへの期待をこう語った。一方で、「大麻の麻薬リストからの除外で、所持や取引は合法となり、栽培許可も必要なくなった。ただ正しい利用のため国際条約の要件に従って登録する必要があり、悪用がないよう国民全員で監視してほしい」と訴えた。
会場ではカンナビスやヘンプなどの大麻を使い新たに開発した飲料や食品の試飲、試食、購入もでき、苗も販売もされていた。大麻を栽培するハウスや植物工場の設備の展示もあった。ブリラムという東北部の地方都市での開催にもかかわらず、マイカーなどで多数の一般市民が駆けつけた。タイ保健省のブースにいた担当者はこの大麻フェアについて今年が2回目で、昨年開催時はまだ大麻は麻薬リストに載っておりまだ原則禁止だったと説明。「タイでは昔からカンナビス(大麻草)を不眠症などの治療薬として使ってきた。われわれはカンナビスをココナツ油で煮沸して飲みやすくした製品を開発した。香りも良い」とアピールした。
タイでは2019年2月に医療目的の大麻の使用が合法化され、その後、化粧品や飲料など産業用での利用も可能となり、病院や飲料メーカーだけでなく、娯楽、消費財、不動産、エネルギー会社などさまざまな業種の企業が大麻ビジネスに相次いで参入している。そして今年6月9日には大麻(カンナビス、ヘンプ)は「カテゴリー5」の麻薬リストから除外され、一般家庭での栽培、家庭内での医療用目的での摂取が解禁された。ただ向精神作用があるテトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量0.2%以下の品種が対象で、0.2%を超えるものは引き続き禁止麻薬扱いだという。さらに娯楽目的での吸引は禁止だという。
今回の大麻栽培の自由化では保健省の食品医薬品局(FDA)が「プルーク・ガンチャー」というアプリケーションを通じた登録制度を導入。タイラットが15日伝えたところによると、プルーク・ガンチャーのアプリやウェブサイトへのアクセス数は3768万8400回以上、大麻(カンナビス、ヘンプ)の栽培登録を行った人は80万6700人以上に達した。
2019年以来のこうしたタイでの大麻自由化の動きは日本人にはなかなか理解しにくく、特に今回の一般家庭での栽培自由化には不安を持つ向きも多いだろう。タイ英字紙バンコク・ポストは8日以来ほぼ連日、大麻の家庭での栽培自由化に関するニュース、解説記事を掲載。13日付のビジネス面では「カンナビスの解禁は市場の関心を喚起している」というタイトルで、飲料、娯楽、消費財企業のカンナビス関連製品の販売ラッシュの様子を紹介している。
一方で、12日付の1面記事ではさまざまな専門家の懸念の声を伝えている。チュラロンコン大学のチャンチャイ医学部長は、「今やだれでもどこでもカンナビスを売買することができる」と述べ、まだ若者の摂取を禁止する法律がないため、若者が容易にカンナビスを入手できることへの懸念を表明。また、「ドント・ドライブ・ドランク財団」のテージン博士は、カンナビスの影響を受けた運転手による交通事故を心配しているとし、「われわれは30年以上飲酒運転防止のキャンペーンをしてきたが、それでも毎日飲酒が原因の事故が起きている。そして今やわれわれは麻薬を手にしたが、それを管理する法律は持っていない」と述べた。
さらにチュラロンコン大学依存症研究センターのディレクター、ラスモン氏は、カンナビスの乱用を防ぐ対策は何もないとした上で、普通の食品にTHCが過剰に混入した場合に中毒症状になる危険性があると指摘。特に若者による使用を最も心配しており、脳細胞にダメージを与える可能性があると警鐘を鳴らしている。バンコク・ポストは14日付でも「カンナビスは特に生徒の脳と神経系、そして学習能力に影響を与える」との保健省幹部自らの警告を紹介する一方、「カンナビスを支援するのは医療と経済成長のためだけだ。その不適切な利用は政府のカンナビス政策とは関係ない」とのアヌティン保健相の反論も伝えている。
TJRI編集部
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