

カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
公開日 2025.08.08
BYDは7月7日、BYD王伝福会長、BOIナリット長官、工業副大臣等タイ政府関係者、タイメディア関係者等を招き、累計販売9万台の達成とラヨーン工場の稼働1周年を記念して同工場で式典を開催した。
タイ国内におけるBYDの販売シェアは、2025年5月現在8.3%と前年同月の5.0%から3.3ポイント上昇。シンガポール、インドネシアをはじめ、他のASEAN市場でもおしなべて販売が伸びている。
ASEAN地域でBYDが急伸する背景には、中国国内の新エネルギー車(NEV)市場が減速するなかで、生産の稼働を維持するために、海外市場での販売強化を急ぐ事情がある。
目次
BYDの販売はASEAN全体で大きく伸びている(図表1)。


タイが2025年5月現在、2万台超と最も多く、前年同期比6割増と好調である。ブランド別販売では、トヨタ、いすゞ、ホンダに続く4位に浮上した。累計9万台式典では、新車のBセグメントのプラグインハイブリッド車(PHEV)のSeal5を発表し、今年8月に発売する予定である。
同モデルの販売価格は70〜90万バーツと予想され、日系のBセグメントのハイブリッド車(HEV)と競合する価格帯に設定されている。新車を相次いで投入することで、昨年の販売実績の2万7,000台から倍以上の5〜6万台を狙うと推測される。
BYDの発表によれば、ラヨーン工場ではAtto3、Sealion6、Dolphinの3車種を生産している。今年5月現在のこれら車種の累計販売台数は約1万2,000台であることから、年間の生産台数をその2.5倍の約3万台と想定すると、15万台の生産能力の20%の稼働率にとどまる。
稼働率を引き上げるためには、一定のボリュームが期待できる新車の投入が急がれるが、EVではなくPHEVのSeal5の生産が決まったのは興味深い。PHEVのシステムは、BYDの第4世代DMテクノロジー(DM-i4)を搭載しており、電気のみの走行で100km、エンジン走行を含むと走行距離は新欧州ドライビングサイクル(NEDC)ベースで1,200kmに達する。


走行距離の制約からEVを忌避する購買層を取り込む狙いだ。なお、BYDの販売代理店のRever Automotive関係者によれば、近いうちに最新の第5世代DMテクノロジー(DM-i5)を搭載したモデルも投入する予定である。第5世代のエンジンは、測定方法について議論はあるものの、世界最高水準の熱効率46.06%を達成し、燃費の向上につながり、走行距離は2,100kmに延びる。
インドネシアでもBYDの販売は急増している。今年5月現在、DENZAブランドを含むBYDの販売台数は昨年から10倍に伸び約1万6,000台に達した。2024年6月に参入してから1年も経たないうちに、国内販売シェアは既に5.0%に達し、5年以上前に参入した韓国系の現代自動車のシェアを上回り、非日系ではトップに躍り出た。
インドネシアでの販売をけん引しているのは、6〜7人乗り3列シートの多目的自動車(MPV)のM6と高級MPVのDENZA9であり、それぞれの月間販売台数は1,000台、500台になる。DENZA9とM6の価格帯は、それぞれ3億8,300万ルピア(約380万円)〜、9億5,000万ルピア(約950万円)〜であり、主要購入者層は富裕層である。
また、今年1月から投入したSealion7も好調である。逆にタイで最も売れているBセグメントのDolphinはあまり売れておらず、EVの購買層の裾野がまだ拡大していないと言える。ジャカルタから東130kmのスバンで15万台の生産能力の工場を建設中であり、来年初めに稼働予定だ。
BYDはインドネシア政府から一定割合の国内生産計画を条件に、完成車の輸入に対して関税や物品税の免除を認められたことで、完成車の輸入販売を急拡大できた。その前に進出した現代自動車やWuling(五菱汽車)は、EVの税恩典を受けるためには国内生産と40%の国内調達が義務付けられており、BYDが優遇された形となった。
シンガポールでは今年、BYDが初めてトヨタを抜いて、販売シェアで首位に立った。国内市場は小さいものの、トヨタや高級車のベンツ、BMWが支配してきた市場で、短期の間に20%までシェアを伸ばしたのは注目される点である。
マレーシアやフィリピンでのBYDの販売は、シェアは増大傾向にあるものの他国に比べるとまだ低い。これはEVの市場がこれら2ヶ国ではまだ初期の立ち上がり段階にあることが影響している。
マレーシアは、前月号の連載で触れたように、EVに対する優遇措置はあるものの、燃料価格が比較的安いことからEVが他国と比べて普及しにくい。フィリピンはEVに対する恩典が他国に比べて少ないことから、EVの普及の遅れの原因となっている。
ベトナムでは、国産EVメーカーのVinFastが優遇され、市場を占有していることから、BYDは国内生産の計画を延長した。
以上のASEAN各国動向から俯瞰すると、下記3つの点に整理される。
昨年BYDの世界での販売台数は初めて400万台を超え、うちEVが176万4,992台に対して、PHEVは248万5,378台で、初めてPHEVがEVを上回った。EVが世界的に減速するなかで、PHEVの新車の導入を急ぐ。
BYDは2025年に世界販売台数550万台、海外販売台数を昨年の41万7,000台から倍増し80万台以上とする目標を掲げている。
有望市場として、中国に対して友好的な東南アジアとラテンアメリカを挙げており、昨年の販売台数等を参考にすると、今年のASEANでの販売台数は15〜20万台に跳ね上がる可能性が高い。タイはその約半分を占めると推測され、目標達成のために引き続き新車投入と値下げ攻勢を強めることが予想される。
今年3月のロイターの記事によると、BYD王伝福会長は、完成車に対する関税措置に対応するために、競争力がある部品を中国から供給し、各国で完成車を組み立てる方針を発表した。
タイ工場稼働から1年余りで、インドネシアでも工場を設立することで、ASEAN域内での生産能力は30万台以上になり、供給過多になる可能性はあるが、バッテリーやキーコンポーネントなど付加価値の高い部品は中国で集中生産することにより、現地での固定費の軽減を図る狙いがあるのだろう。


NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
TEL: 02-611-2951
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